4−6 リチャードの借金を暴露する (アダム視点)
ウェズリー邸に向かうアダムさん。アリアに仕事を任されてウキウキな気分です。
私は現在、ウェズリー辺境伯が所有する王都のタウンハウスに向かっている馬車の中にいる。
今日の使命は、辺境伯自身に現状の把握とリチャードに対しての危機意識を持たせる事にある。
状況によってはリチャードの廃嫡まで持っていければ良いが、そこまで期待はしていない。
我らにとって、辺境伯や愚息の事など主様が不快にされない限りはどうなっても良い存在に過ぎない。……正直な話、主様は関わりすら持ちたく無いだろうが。
本当に人間とは、面倒な存在ですね。
「ウェズリー邸にようこそお越しくださいました。私はこの屋敷で執事を務めておりますオーエンと申します。昨日、手紙を受け取りましたが当家の主人に至急面会したいとの事ですが……」
「はい、わたくし供ヴェニス商会が独自に入手しました辺境伯家に関する情報をいち早くお耳にお届けしようと思いまして、こちらにお伺いいたしました」
「……主人は多忙である為、新参の商会の者に会う余裕はございません。本日はお引き取りを……」
「……そうですか、いやはや残念です。辺境伯家を揺るがすような重要な情報なのですが、ギャレット様がお会いくだされないなら仕方がありません。また出直しましょう。ですが、後日があれば良いのですが……」
「……内容次第ではお取次いたします。どの様な内容なのか教えてもらえませんでしょうか」
「ふふっ、ご冗談を。ご当主以外には口外しない様にとオーナーから言われております。ですが、本日の面会をお断りするのでしたら、オーナーの口が軽くなるやもしれませんね」
オーエンとやらは悔しそうに口元を歪めながらこちらを睨んでいる。
余程、新参の商会に舐められるのがお気に召さないようだ。
「……ギャレット様に確認を取って参ります。少々お待ちください」
そうそう、たかが人間風情が出過ぎた真似をしない方がいい。執事は素直に伝書鳩に徹していればいいのだ。
「でしたら、こちらに滞在しておられるアリア・ニュートン様も同席させて頂く様にして貰えませんか。アリア様はヴェニス商会のオーナーですので……」
「お初にお目に掛かります。私はヴェニス商会の会長を務めております、アダムと申します」
辺境伯相手に跪くのは屈辱だが、主様より人間に徹する様にと厳命されている。
「……辺境伯家の重要な情報があるというのは誠か?それと、アリアが其方らのオーナーというのはどういう事だ?」
「こちらにおられますアリア様がカフカースに大店を構えていましたヨセミテ商会を買収いたしまして、ヴェニス商会と名を改めました。私はアリア様よりヴェニス商会の経営を任されているだけに過ぎません」
「辺境伯閣下、このアダムが申します通り私がヴェニス商会のオーナーです。今日の面会も、差し出がましいとは思いましたが同席する事をお願いしました」
「では、アリアはこの者が言っている重要な情報とやらを知っているのだな。ならば、何故其方が報せなかったのだ」
「私の言葉だけでは信用されるか分かりませんでしたから。証拠になるものを持っているのはヴェニス商会でしたので」
ギャレット・ウェズリーはどうやら私や主様の事を疑っているようだ。
「……それで、どんな話なのだ?説明してもらえるのだろうな」
「我々がヨセミテ商会の書類を整理しておりましたら、借用書の一つにリチャード・ウェズリー様の名前を発見致しました。しかし、記載されております担保に関して目を疑う様な事が書かれていましたので、その担保の信用性を疑問視した次第です。ご確認下さい」
私は、リチャードの借用書をテーブルに置き、辺境伯に提出した。
辺境伯は目を大きく開き驚愕している。何しろ、借用書に書かれた担保は、オウルニィの所有権の譲渡なのだから。勿論、こんな事は法律が云々と言う前に認められるはずが無い。元々王国の土地は全て国王の所有物であり、各領主達は国王から管理を委託された関係にすぎない。たとえオウルニィが田舎の農村だったとしても所有者は国王で領主が勝手に所有権を譲渡する事はできない。もしそんな事が明るみになれば、国王への叛逆と捉えられても反論できないのだ。つまり、この借用書は、リチャードが辺境伯領の領主になった時に脅す目的で作成されたのだ。
本来なら、この様な条件が書かれていたならばリチャードはその事を即座に指摘しなければならないのだが、何を思ったのかリチャードはそのまま借用書にサインをしてしまっている。貴族ならば子供でも分かりそうな事を見落としているのだ。当然、この事が公表されたら、国王の逆鱗に触れるだろう。「愚かな領主などケルト王国には不要」と言って、ウェズリー家の取り潰しも視野に入れるに違いない。
「こちらの売買契約書には、リチャード様がヨセミテ商会を通じてカフカースに大量の武具を売却していると記載していますが、リチャード様にこれ程大量な武具を仕入れるルートをお持ちなのでしょうか?それと、武具の価格が相場よりもかなり低いのも気になりますが」
オウルニィやキボリウム山脈付近の集落は、武器をはじめとする武具の製造が盛んだが、リチャードは王都に引き篭もり、碌にウェズリー領に戻っていない。そんな彼に武具の仕入れルートがあるとは思えない。目の前にいるギャレットもそう思ったようだ。
「推測ではございますが、リチャード様は何処かから武具を大量に入手し、売り捌く事で借金の返済に充てたのではないでしょうか。ですが、この金額程度では元金の返済には届いておりません」
リチャードが借りた借金の金利は年三十五パーセント。この世界の基準から見たら、それ程暴利という訳ではない。しかし、借りた金額がリチャードの年収に比べて余りにも大きすぎる額だ。リチャードには返済は不可能だろう。
ギャレットは頭を抱えて呻いた。
それはそうだろう。自身の息子であり次期領主のリチャードがこれほど馬鹿だとは想像すらしていなかったのだろう。だがそれは、親の欲目と言う奴だ。他人から見たら、リチャードの愚かさは一目瞭然だろう。カフカースやヨセミテ商会はそこにつけ込んだだけに過ぎない。
「……よくぞ知らせてくれた。礼を言わねばならないな。こんな事が国王陛下の耳に入れば、我が家は破滅していたかもしれん」
「ヴェニス商会はヨセミテ商会を買い取りましたが、そのやり方を踏襲している訳ではございません。ヨセミテの膿を出し切る為に行った結果でございます。礼など必要ございません」
「……かたじけない。しかし、その借用書に書かれた金額は支払おうと思う。すまないが、新たな契約書を作成してはもらえないか」
「ヴェニス商会はアリア様がオーナーをなされておりますので、その後見人である辺境伯閣下のご希望に沿うような契約内容に変更致しましょう。そして、アリア様のお披露目に掛かる費用分だけ減額致したいと存じます。その代わりなのですが、アリア様がヴェニス商会のオーナーである事を口外しないとお約束いただけませんか?」
「……何から何まですまないな。勿論、其方達の言う通りアリアの事は秘匿しよう。アリアからは何かないか?」
「そうですね、契約に関しましては、ここにいるアダムに一任しております。ただ、辺境伯家の臣下の家族といたしましては、このままですと先行きが暗いと申さざるを得ません」
「……そうだな」
その後ギャレットからは、リチャードに対する事は何も口にしなかった。
借金の金額を減額し大金貨八十五枚とし、無利子無担保として契約書を交わした。
こちらの大幅な譲歩の見返りに、主様がヴェニス商会のオーナーである事の口止めと、リチャードの次期領主の見送りがほぼ確定したのだ。それだけでも十分な結果が残せたと言えるだろう。
とりあえず、作戦は次のフェーズに移行しました。作戦通りに事は進むのか、乞うご期待という所でしょうか。楽しみに待つとしましょう。
現在の借金の利息の上限は、利息制限法によって年15%〜20%と定められています。
リチャードのような高額の借り入れの場合の金利の上限は年15%となっていますので、年35%は物凄く高い金利となります。
皆さんはリチャードみたいにならない様に気をつけてくださいね。




