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アメイジング・グレイス 〜幼き女神は斯く語りき〜  作者: タカトウ ヒデヨシ
第一章 精霊の弟子?  第四話 辺境伯家のお家騒動

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4−4 憂鬱でしょうもない報告

 次の日も、私は母さんと一緒にヒル夫人の授業を受けた。

 けれども、母さんは何処か吹っ切れたみたいで昨日の様なオドオドした態度ではなく、背筋を伸ばしてちゃんと前を向いて授業に臨んでいた。

 そのせいもあってか、ヒル夫人の口調は若干柔らかくなり、相乗効果で母さんの自信も取り戻して、徐々に顔色が良くなっていった。

 これで、取り敢えずお披露目を乗り越える事が出来るだろうと思う。




「じゃあ、報告を聞きましょうか」


 今日はクリスからあのクソ野郎の報告を受ける事になった。

 ……命じておいて何だけど、まったく聞く気が起きないのは何でだろう……。


「あのクソ野郎ですが、多額の借金をしているみたいです」

「借金?まあ、貴族だったら多少は借金があっても不思議ではないけれど……」

「借金の内容ですが、王都で邸宅を購入しています。それと家財道具を一式、ドレスやアクセサリーと高級酒と高級な酒器、そして使用人も新たに雇い入れています。どうやら、愛人に貢いでいるみたいですね」

「王都に屋敷を購入するなんて、一体いくら貢いでいるの?」

「邸宅だけで大金貨八十枚以上、その他諸々を合計しますと大金貨百枚以上になります」


 愛人一人に大金貨百枚……。愛人がいつからいたかはわからないが、少なくとも結婚後数年は愛人は囲わないと思う……そう思いたいが。それを加味しても、たった数年で愛人にそれだけの金額を貢いだのか。


「流石にそれだけの金額をクソ野郎の信用だけで借りたりは出来ないでしょう?担保は一体何なの?」

「ウェズリー領の土地の所有権、正確にはオウルニィの所有権です」

「はあっ!?町の所有権なんて認められるはずないじゃない!あのクソ野郎が領主になったとしても、国王陛下の許可が降りるわけないじゃない!」

「貸主もその事は理解していると思われます。ですが、それを理由にクソ野郎を脅しオウルニィの代官になる事が目的なのでしょう。オウルニィの武器販売は大金貨百枚程度、余裕で回収できますから」

「それはそうでしょうね。けど、どこの商人だか知らないけど、オウルニィは武器の製造販売だけじゃなくて、厄介事も背負い込んでる事をわかっているのかしら?」


 オウルニィは武器の製造販売や鉄鉱石の採掘などで莫大な利益を生み出しているが、その利益の大半を飲み込む要素が存在する。それは、キボリウム山脈の魔物討伐だ。

 ウェズリー家が辺境伯である理由は、キボリウム山脈の魔物からケルト王国を守る使命があるためなのに、あのクソ野郎は、生まれてから数回程度しかウェズリー領で過ごしていないので、その事を全く理解していない。それどころか、ウェズリー領なんていらないとでも思っているのだろう。誰かが代わりに治めてもらえるなら、代わってやってもいいと思っている。だから次男に代官をやれなんて簡単に言えるのだ。


「まあ、辺境伯家なら大金貨百枚程度なら払えるでしょうけど、あの馬鹿に当てられている予算はいくらなのかしら?」

「リチャード・ウェズリーに当てられている年間予算は大金貨二十枚です。それはリチャード夫妻に当てられている金額なので、リチャード個人に当てられている金額は更に低くなります」

「そうね、均等割ということは無いだろうけど、それでも個人で使える金額は多く見積もっても大金貨十枚は超えないでしょう。どちらにしても債務超過ね」


 年収の十倍以上の借金だ。利息がいくらかは知らないが、利息分を払えるかどうかも疑問だ。父親のギャレットが返済を拒否したら、自己破産も視野に入れないといけないだろう。


「あと、リチャードは利息の支払いの為に、ウェズリー騎士団が貯蔵している武具を横流ししているみたいです。こちらは、カフカースの宮殿で回収した帳簿に記載されていました。二束三文でカフカース領主に売り渡したみたいです」

「横領までしているの!……あいつ、本当に次期領主の自覚はあるのかしら?」


 辺境伯家のお家騒動なんて関わりたく無いのだが、うちの一族は現在のところ辺境伯の家臣なのだ。取り敢えず、クーパー領が出来るまでは、辺境伯家が不安定だと困るんだよ。


「……どこの商会があのクソ馬鹿野郎にお金を貸してるの?」

「調べたところ、ヨセミテ商会がリチャードの債権者となっています」

「……何処かで聞いた名前ね……」

「姫様を誘拐しようとしたカフカースの商会です。多分、カフカースの領主もこの件に一枚噛んでいたと思われます」


 ああ、あの商会か!

 しかし、あの商会の商会長は黄色眷属の爆発に巻き込まれて亡くなったはずだけど。


「今はガレンの息子が商会長になり運営しています。ですが、先代がカフカース領主と昵懇であった為、急速に経営状況は悪化しております」

「あの無様領主のせいで経営が成り立たなくなっちゃったのか。お気の毒様だけど、まあ自業自得だしね。けど、そんな経営状態だと、普通は現金の回収に回るわよね?」

「現在、ヨセミテ商会では貸付金の回収を行なっていますが、倒れかけているヨセミテ商会では足元を見られているみたいで、なかなか回収は困難な模様です」

「……となると、貸付債権の売買でクソ野郎の借用書が回収業者に渡る可能性が出てきたわね。そうなると、このスキャンダルは公になっちゃうかもね……」


 もし、悪徳な回収業者が辺境伯に告発すれば、口止め料などで倍以上の金額を払わされるかもしれない。流石に、辺境伯でも大金貨二百枚となると一括で払えるか微妙な所だ。しかし、分割で払うとなると利子は回収業者の言いなりになる可能性がある。しかも、不当な利子を訴えれば、この事を公表されるかもしれないリスクを抱える事になる。借金はともかく、横領や次期当主の破産が世に知られたら、大スキャンダル間違いなしだ。


「……ヨセミテ商会を買収しましょう。私の眷属であるアダムを貯金箱から出し、商会長にして経営を立て直します。ついでに商会の名前も変更しましょう」

「……クソ馬鹿野郎を助けるおつもりですか?」

「そんなつもりはさらさら無いけど、今は辺境伯家を助けるしかないわ。ウェズリー領が不安定になったら困るのは私達だもの」

「………………」


 クリスさんはご不満な様子。しかし、あえて私は無視をする。


「他に、あのクソ馬鹿野郎についての報告はあるのかしら?」

「……ございます」

「……やっぱりあるのね。ちょっと疲れちゃったからお茶の後で聞くわ」


 ああ、この憂鬱でしょうもない報告はまだ続くのか……。

 今日のお茶は、いつもより渋く感じるのだった。

不本意ながらもリチャードの借金の清算に動き出したアリア。


しかも、リチャードにはまだ報告される様な事があるみたいですね。

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