3−8 魔術師の塔
王宮の客室で一夜を明かし、私と父さん、そしてアルウィン兄さんは魔術師団の見学の為に王宮の敷地の中にある魔術師の塔という所にやって来た。
伯父さん達は昨日に引き続き、陞爵の件について領主様と宰相さん達との打ち合わせに出かけていてこの場にはいなかった。
魔術師の塔はその名の通り建物の中央に高い三つの尖塔がそそり立っていて、それぞれに智慧と力と勇気の名前がつけられていた。……伝説でも始まりそうなネーミングだね。
「ようこそ魔術師の塔にお越し頂きました。本日の案内役を務めます、副団長のジャスパーと申します」
私達の案内役を副団長がするなんて、これは期待されているのか、それとも何かを見極めようとされているのか、はたまたただの牽制なのかどのパターンだろうか。
「魔術師の塔の見学なのですが、さすがにまだ部外者であるアリア嬢に立ち入らせる訳には参りません。アリア嬢のリクエストは魔術を見てみたいとの事でしたので、訓練場にご案内致します。それで、よろしかったでしょうか?」
「はい、大丈夫です」
「では、こちらへ……」
私達は魔術師の塔の脇を抜け、大きな訓練場に到着した。
広さはサッカースタジアム位はあるだろうか、その向こう側にはドーム型球場に似た屋内訓練場が見えた。
王宮内にこんなに広大な敷地を持った訓練施設があるとは思わなかった。
……王宮だけでナヴァンよりも大きいって父さんが言っていたけど、それ以上じゃない?
「今は第一班と第二班が訓練中です。魔術師団は一班につき約十名が配備され、現在、六班が編成されています。実働部隊以外にも魔術師は働いていますが、その辺りは機密事項という事でご容赦ください」
魔術師といっても剣や槍を持って素振りをしていたり、向こうでは弓を持って射撃訓練をしていたりする。
「全然魔術を使っていないな。まるで騎士団の訓練と同じに見える」
アルウィン兄さんは少しがっかりとした様子だった。……まあ、魔術師の訓練場に来たんだから魔術をバンバン撃ち合っている場面を想像しちゃうよね。
「ハハハッ、確かに騎士団の訓練風景と大して変わらないでしょうね。我々が派遣される所は騎士団では対処出来なかった過酷な場所が殆どです。戦場であったり、魔物の巣窟であったり様々です。我らが持つ魔術の力は強力な武器ですが、その術の源である魔力は有限な物です。敵が強大であれば何度も魔術を行使しなければなりませんが、普通の魔術師は数回の魔術の行使で魔力は枯渇し、只の人間に成り下がってしまいます。もしその時に敵がまだ健在であれば、魔術以外に戦う術が無いと死を待つだけですからね」
私とは違って、人間の魔術師は魔術を何回か使っちゃうと魔力が無くなるのか。これは、いい情報を得た。
魔術師学校に入学して、魔術の授業を受ける時に役に立ちそうな情報だ。
「魔術の訓練は、奥にある屋内の訓練場で行っています。ここで魔術を使うと、周りから丸見えですから」
もしかして、魔術自体が国家機密に該当するのだろうか?
確かに、魔術が王国の最大戦力だとするとそうなっちゃうか。
私達は屋内訓練場に入り、玄関にある受付で耳栓を受け取った。
「魔術の種類によって大音響が響く時がありますから、ここからは耳栓を着用しておいてください。本来なら、この場所は防御魔術が使えない人間は立ち入り禁止なのですが、今回は特別に許可を貰ってあります」
「私に耳栓は必要ありません。ですが、父さんやアルウィン兄さんはしっかりとつけておいてくださいね」
「アリア嬢は防御魔術を使えるという事ですか?もしかして、防音魔術も?」
「ダグザに教えてもらいましたから、どちらも使えます」
まあ、ダグザに教えられるまでもなく、その手の術は使えますけど。
本当は父さん達もカバー出来るけど、私の今後の平穏の為に敢えて言わないでおこう。
それから、幾つもの扉を潜り、ようやく訓練場内に辿り着いた。
手前では石礫を浮かせて、何度も人型や魔物の形をした的に石礫をぶつけていた。
その向こう側では、火球の魔術を的に当てて数秒間燃やし続けていた。
あっちでは、互いに向かい合って魔術を撃ち合っている。もしかしたら、魔術師同士の試合なんかもあるのではないだろうか。……ちょっとワクワクしてきた。
そして、よく観察してみると、何度か魔術を行使した魔術師は控室に下がり、疲労困憊の顔をしながら何かのポーションの様な液体を飲んでいた。
あれは、もしかして……
「ジャスパー様、魔術師の皆さんは何を飲んでいるのですか?もしかして、魔力が回復するような薬の様なものなのでしょうか?」
「ハハハッ。そんな便利な物があったらいいのですが、あれは只の疲労回復と栄養補給のドリンクですよ。もしかして、精霊様の所にはその様な便利な薬があったのですか?」
「いえ、私もそんな物は見たことはありません。物語の中でその様な物が書かれていたので、もしかしたらと思い尋ねてしまいました」
そうかー、異世界ファンタジーあるあるの魔力ポーションは存在しなかったか。
やっぱり世の中って奴は、そんなに便利に創られてはいないんだな。
ということは、魔術師達が飲んでいるドリンクは翼が生えたり、二十四時間戦えちゃうする系のエナジードリンクなのかな?もしかして、魔術師団って、ブラックだったりするの?
「初めて魔術を見せてもらいましたが、どれも迫力がありますね。私は貴族学校でも武術は苦手だったので、こういった訓練の様子はあまり見たことがないのですよ」
父さんは、初めてみる攻撃魔術に少し興奮していたようだ。
確かに父さんには剣を持って戦う姿は想像できないね。
オウルニィには伯父さんこと『オウルニィの戦鬼』がいるから、父さんが剣を持って戦う未来はそうそう起こらないと思う。
そして、魔術師を褒める事によって、ジャスパー副団長が「よろしければ、アリア嬢もやってみませんか」というセリフを、少しでも封じようとしている父さんの気遣いに感謝を捧げたい。
「……確かにここの魔術師様達の魔術も素晴らしいのですが、ダグザ様の所で見たアリアの攻撃魔術の方が迫力があったような……」
「アルウィン兄さん!」
まさか、ここで身内から裏切り者が出るとは思わなかった。
アルウィン兄さんにとっては感想を述べただけなのだが、今そのセリフはNGすぎるワードだ。
「ほう、アリア嬢は攻撃魔術を習得しておられるのですね。では是非に、精霊様のお弟子様の技を見せては頂けませんか?」
「……いえ、私なんかの未熟な魔術を見せても、ここにいらっしゃる魔術師様達に笑われるだけです。どうぞお聞き流しください。オホホホ……」
私は魔術の披露を避けるために、出来るだけお淑やかに振る舞い、虫の一匹も殺した事がない様な顔をして優雅に微笑んだ。……うっ、自分へのダメージが大きすぎる!
「良いではないかアリア!僕は、あの時に見せてくれたあの魔術をもう一度見てみたい」
アルウィン兄さん!もうちょっと空気を読んでください!私が慣れない深窓の御令嬢を演じているのに気づいてちょーだい!
「私にもその魔術を是非見せては頂けませんか。それに、アリア嬢が魔術師団の見学を国王陛下にお願いされた時、アリア嬢が精霊の魔術を披露するという交換条件の下で許可が降りたと聞いております。勿論、その条件を反故なさるおつもりはありませんよね?」
「……わかりました。国王陛下に嘘をつくわけにはまいりませんから」
……さすがに全力の攻撃魔術は使えないし、どうしようかな?
魔術師の塔にある三つの尖塔には、それぞれレイトン、カルノフ、アベルの名前が付けられています。
レイトン達はこの異界を管理する三大精霊となります。




