3−3 ウェズリーの領都に到着
今日も今日とて、馬車の旅は続きます。
今日も朝早くから馬車に乗り込み王都に向かって出発した。
馬車の中では特にやる事はないので、私は暇を持て余していた。
……そうだ、昨日クリスと話していた事をお願いしてみようっと。
「父さん、ちょっとお願いというか提案があるんだけど?」
「うん?どうしたんだい」
「えっとね、私とアルウィン兄さんは次の冬に王都の学校に行く事になるじゃない?その時の引越しというか移動は、ダグザとモリガンに頼もうと思っているんだけど、良いかな?」
父さんはどうしたものかと途方に暮れ、伯父さんに助けを求めた。
「兄さん、アリアがまたとんでもない提案をしてきたんだけど……」
伯父さんは大きくため息を吐きながら答えた。
「アリア、訳を話しなさい。そんな突拍子も無い話をした理由を」
「まあ、正直な事を言うと、馬車の旅は疲れました。もうこんな目に遭うのは懲り懲りなの。暑いし、ゴトゴトと揺れて気持ち悪いし、お尻も痛いし、暇だし」
「はあ、確かに馬車の旅は大人でも辛いのだから子供の君達には尚更だろうけど、だからと言って精霊様にそんな個人的なお願いをしてはいけないだろう」
「えっ、昨日の夜、ダグザとモリガンには了承してもらったんだけど、駄目だった?」
私のその発言に大人達は目を剥いて驚愕した。
「はあ!其方、親の許可を取る前に精霊様に話をしたのか!」
「えっと、その方が効率的かなと思って……駄目だった?」
「アリア!其方は精霊様と親しいから何とも思わぬのだろうが、精霊様とは普通は信仰の対象なのだぞ!つまり其方は神様を小間使いにしようとしているのだ!もうちょっと周りと自分の認識の差を弁えるんだ!」
あうう、まさかの伯父さんマジ切れ案件だった。
けれど、考えてみたら確かにその通りだった。周りから見たら、私はあくまでも精霊の弟子というだけのただの人間に過ぎず、しかもその師匠達はみんなが祈りを捧げている神様みたいな存在だった。
「しかし兄さん、精霊様が了承している以上、こちらからお断りする訳には行きませんよ……」
「わかっている。だから怒っているのだ!アリア、これからはそう言った話はまずこちらの許可を取るようにしなさい。報告や連絡の大切さは俺もジョンに散々注意されているからな」
「はい。すみませんでした……」
ううっ、まさかこんなに怒られるとは思わなかった。
「アリアが怒られてるのを見るのは初めてだ。これは珍しいものが見れた!」
……アルウィン兄さん、そんなに目をキラキラさせながらこっちを見ないでください。
そんなアルウィンの様子を見て、伯母さんはため息をついていた。
この日の昼過ぎに、私達の馬車はウェズリー領の領都であるナヴァンに到着した。
ここに来るまで馬車の中では父さんから『報告・連絡・相談』の重要性、いわゆるホウレンソウを延々と教育されていた。
馬車はナヴァンの中心部に建つ領主が住む宮殿に到着し、私達は領主様に挨拶をする為に馬車から降りた。しかし出迎えてくれたのは領主様であるギャレット・ウェズリーではなく辺境伯夫人のヒル・ウェズリーだった。
「クーパー男爵……、この場に領主がいないのは貴方達の落ち度ではありません。今朝早くに国王陛下から緊急の呼び出しを受けて、転移門を使って王都に移動されたのです」
「なるほど、かしこまりました。では我々はお暇いたしまして、王都への旅に戻りたいと存じます」
「お待ちください、ウィリアム様。領主様より王都から戻られるまでクーパー男爵一行を歓待する様にと申しつかっております。申し訳ありませんが、応接室までご足労いただけませんか」
「デビット様……わかりました。ではお任せいたします」
私達はギャレットの側近であるデビットに従って応接室で領主の帰還まで待たせてもらう事になった。
「……デビット様は、魔力をお持ちなんですね。もしかして魔術師なのですか?」
私は、うっかり感じた事をそのまま言葉にしてしまっていた。
周りの大人達はびっくりとして、私とデビットを見つめた。
「……驚きました。まさか一目見て、私が魔力持ちと見抜かれるとは思いませんでした。流石は精霊のお弟子様ですね」
「申し訳ありません!不躾なマネをいたしました……」
私は頭を下げ、謝罪した。
初対面なのに、失礼な物言いになってしまった。
「いえいえ、頭をお上げください。私も驚いただけで特に何とも思ってはいませんから」
デビットは手を振りながら笑って、私達をソファに座るように促した。
「それにしても、よく私が魔力持ちだと気付きましたね。そういえば、魔力が見える魔術があると聞いた事がありますが、それなのでしょうか?」
……すいません、私は自然と見えちゃう神様体質なんです。
「……デビット様は結構魔力が強いみたいですけど、魔術師学校には入学なさらなかったのでしょうか?」
「……いやはや、そこまで判ってしまうのですか。私も魔術師学校で魔術を学んでいたのですが、恥ずかしながら私は魔術を扱う事が出来ず初等科の段階で退学をしました」
周りの大人達が冷めた目で私を睨んでいる。……何度も失礼な質問をしてしまってごめんなさい。
「アリア様はまだ魔術師学校に入学していませんから判らないのは無理もありません。魔術師学校に入学する生徒の半分以上は、魔術を使う事ができずに退学するのですよ」
なんと、魔術師学校の卒業がそんなに難関だとは知らなかった。
特にアルウィン兄さんは、私が日常的に魔術を使っているので、そこまで魔術の習得が難しいとは考えていなかったみたいだ。
「デビット様、差し支えなければ魔術師学校の退学者について教えてもらえないでしょうか?アリアの将来にも関わるかもしれませんので、今は少しでも多くの情報を知っておきたいのです」
「私にも子供や孫がおりますので、ジョン様の不安は理解できます。そうですね、魔術師学校を退学すると、基本的に出身領地の領主の下で働く事になります。これは王命が下されるので拒否する事は出来ません」
えっ、勝手に就職先を決められちゃうの?
「これは、過去に魔術師学校の退学者が学校から去った後に魔術が使える様になり、その者が野盗となって多大な被害を出した事件が起こったからです。魔術を使うのが普通の精霊の世界とは違って、この国……いえこの世界にとっては、魔術は強力な武力です。その力を野放しにする事の恐ろしさは、オウルニィの代官を務められているクーパー家の皆様には理解できると思います」
つまり、魔術を使えるかもしれない人間を放置できないから、しっかり管理しとけよって事か。
これは、オウルニィの町の中に王家のスパイが潜んでいて私を監視していたかもしれないな。もちろん領主もスパイを送り込んでいるだろう。
……念の為にオウルニィに帰ったら調べておくか。
クーパー一族が王都に行く時は領主に挨拶に行く事が恒例となっている為、今回の旅でも領主に挨拶だけして王都に向かう予定でしたが、まさか呼び止められるとは伯父さんも思ってはいませんでした。
何故、今回に限って領主の帰宅を待つように指示されたのかは、次回判明します。




