2−13 誘拐事件の後日談
アリアの視点なので両親から叱られるシーンは殆どありませんが、その日は寝る直前まで叱られていました。
ちなみにダグザは、アリアの両親によって早々に帰らせられました。
私はクリスに言われた通り、急いで家に帰り両親に無断外泊をした事を謝った。
一応言い訳としてダグザも連れていったが、あまり効果はなかったみたいだ。
そして、しばらくの間自宅謹慎が言い渡されたのだった。
……母さんを泣かせちゃった。反省しなきゃ。
私が両親に叱られた翌日の朝、クリスを迎えに闘技場にやって来た。と言っても、すぐに帰らされたけど。
クリス曰く、ズタボロになった黄色眷属の姿は私の教育上宜しくないそうなので。……あまり詳しくは聞かない方が良さそうだ。
「えっと、その黄色眷属……イタカだっけ?そいつが私を誘拐してくる様にカフカースの領主にお願いしたわけ?」
「その様です。動機ですが、精霊の弟子と称している人間を殺し、精霊に一泡吹かす事を目的にしていた様です」
そんな、しょうもない理由で私は誘拐されようとしていたのか。
あまりにも情けない理由だったので、涙が出そうだよ。
「じゃあ、今回の事件にはトゥルー教やクン・ヤン教国は関与していないのね?」
「……イタカは枢機卿なので、関与といえば関与しているのですが、組織ぐるみの犯行では無さそうです」
クン・ヤン教国は宗教国家なので、国教であるトゥルー教の枢機卿ともなれば国の重鎮である可能性は高い。けど、あの高慢ちきなイタカだと、みんなが嫌っていたとも考えられる。……カフカースの領主はなんかイタカを崇拝していたみたいだけど、マゾな性格だったのかな?
「まあ、こちらから話を大きくしなくてもいいか。別に殺したわけじゃないし、というか殺せないし」
「逆に拉致監禁で訴えられても困りますし、何か動きがあるまでは放置しておいてもよろしいのではないですか」
「そうだ、クリスに頼んでおいた賠償金の回収はどうなった?」
「それなら、こちらとなります……」
クリスはエプロンのポケットから何やら色々と取り出して机の上に並べていった。そしてパンッと手を打つと机の上の小物がボンって感じで大きく膨らんだ。
机の上には金銀財宝がいっぱい並んでいた。
一番多いのが金貨と宝石や貴金属。それに帳簿や約束手形、借用書もちらほら見受けられた。
「絵画や美術品は私では価値がわからなかったので省きました。執務室の金庫には財宝目録や手紙などの書類もありましたのでこちらも押収しております」
「思ってたより溜め込んでいたわね。こんなにお金を持っているなら領地の復興に使いなさいよ!あそこ、宮殿も壊れたしあのままだと破綻するわよ」
「あの様子だと、領主一族は全員亡くなっている可能性は高いので国王の直轄地になると思いますけど」
「……カフカースの領民にとってはその方が幸せかもね」
ケネスとの契約で交わした大金貨七枚をクリスに託し、ケネスに渡してもらうように頼んだ。本当なら自分で行きたい所なのだが、自宅謹慎を破るには気がひけるのだ。
クリスが転送した後、机の上に並んだこの金銀財宝の保管場所をどうするかを考えてみた。
この部屋に置いておくと、家族に見つかった時にうまい言い訳が思いつかない。
かといってクリスと同じように、この財宝を圧縮して小さくしてポケットに入れておくなんて小心者の私には耐えられそうにない。……だって大金貨だけでも五千枚以上あるんだよ!小金貨や宝石なんかをあわせたら、もっと桁違いな金額になるに違いない。
じゃあ、ダグザの所で預かってもらう?
うーん、悪くはないけど何だか違う。
ダグザの住処には、キボリウム山脈で見つけた貴重な鉱石やお供物なんかに混じっていた金貨なんかを保管する部屋があるんだけど、ダグザはそれらの価値に興味がないから本当にしまっておくだけの部屋なのだ。あんな部屋、信者の皆さんに見られたら号泣モノだよ。
となると、いっそ闘技場にでも置いておくか?でもあそこには黄色眷属のイタカがいるんだよなぁ。別に奪われても取り返すのは造作もないけど、一々取り返すのが面倒だ。
そこでピーンと閃いた。闘技場みたいに新しく亜空間を創ったらいいんだよ!そう名前は……貯金箱でいいか。大きさも一軒家位でいいし。
私は『煤竹の笛』と『叡智の書』を起動し、小さな亜空間を創り出した。
一応言い訳用に、私にそっくりな分身体を部屋に残しておいて貯金箱に金銀財宝を持って転移した。
貯金箱の中はやっぱり殺風景だったので、小さな住宅街にある銀行の支店みたいな建物を建て、中に金庫と簡単にお金を取り出せるようにATMを設置してみた。
確認のため、一度ATMを操作してお金を引き出してみる。
……えっと、タッチパネルで暗証番号を入力して、出金金額は取り敢えず大金貨と小金貨が五枚ずつでいいか。
ジャラジャラジャラ……
おお、ちゃんと小金貨と大金貨が出てきたよ。
そうだついでに、荷物やアイテムなんかを預かってもらえる様にしておこう。これはATMでは難しいから窓口を作って、窓口担当の私の眷属、銀行員アダムとカールを配置してっと。ここなら空間の拡張は私の思い通りに出来るからいくらでも物が置けるし便利だね。アダム達には私にアイテムなんかを持って来てもらえるように、転移術が使える様にしておこう。
うおおおお、何だか楽しくなってきたー!
私が貯金箱の中であれこれと遊んでいるうちにクリスが戻って来ていた。
私はクリスに貯金箱の事を教えて、貯金箱に案内してみた。
自信満々な私に対して、クリスは呆れ果てている。
……あれ?私の予想では賞賛のスタンディングオベーションが鳴り響くはずだったのに、解せぬ?
異世界もののテンプレである、アイテムボックスを創造したアリア。
次回から第三話が始まります。




