2−10 枢機卿改め……
アリアとトゥルー教の枢機卿であるイタカの直接対決が始まります。
「……ジョハル、騒々しいぞ」
無様領主と悪役婦人が入ってきた扉からまた一人、黄色の外套を羽織った巨漢の男性が入ってきた。
巨漢とは言っても、ブヨブヨの脂肪ではなくガチガチな筋肉の塊だ。
無様領主達が跪き頭を垂れる。……領主よりも上の身分なのかな?
当然、私は跪いたりしない。今更だしね。
「其方が精霊の弟子と呼ばれている子供か?」
「まったく、みんな私を見る度に精霊の弟子、精霊の弟子って、失礼じゃないですか!いい大人なんだからきちんと挨拶ぐらいしなさい。まったく親の顔が見たいもんですね」
黄色男は、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「イタカ様、申し訳ありません!今すぐ、この生意気な子供を始末いたしますので!」
「……まあ待て、ジョハル」
「そうですよ無様領主。私が今話しているのはそこの精霊の眷属です」
この部屋に居た者達は一斉に私に振り向いた。
「何を言っている!このお方はトゥルー教の枢機卿であるイタカ様だ!」
「へえ、トゥルー教って精霊の眷属が枢機卿をやってるのか。いいこと聞いちゃった。貴方からは神霊力を感じるから原初の精霊の眷属か。って事はこの星に封じられてるのが貴方の主人ってわけね」
黄色男は不気味なくらい無表情になり、静かに尋ねてきた。
「貴様、何者だ。ただの人間ではあるまい。それとも余の事は精霊共から聞いたか?」
「はあ?見たらわかるじゃない。むしろ貴方が私を見てわからない方が意外だわ」
精霊の眷属とは、自身の分身体の様なものだ。
普通の眷属は、主人より総合的に若干劣っている。その為、眷属は何か得意分野を持たせて、主人の苦手を補う方がいいとお姉様から教わったことがある。
どうやらこの眷属は、そういった何かに特化させた眷属ではなく、劣化コピー型の眷属のようだ。しかも、精霊なら誰もが出来る神霊力や霊力を見ることが出来ないのだから、余程の出来損ないなのだろう。
私も成長し訓練を重ねた結果、上手に神霊力を隠せるようになったのだがクリスには簡単に見つかっちゃうからなぁ。もっとうまく神霊力を隠せる様にならないといけないしね。
「見たらわかる?貴様には余の何が見えている?そして余は何が見えていない?」
「何もわからないのなら、貴方は出来損ないの眷属ね。それとも、貴方の主人も大した事はないのかしら?」
「黙れっ!」
黄色男改め、黄色眷属は大きく右手を振りかぶり巨大な風の刃で謁見室を一掃した。
風の刃は私に当たる直前に、まるで分解されたかの様に光の粒に変化した。
その様子に驚愕したイタカは風の刃を連発し、闇雲に撃ちまくった。
私にぶつかりそうな刃は再び光の粒に分解されたが、私には当たりそうも無い風の刃はそのまま謁見室を切り刻んでいった。
私の隣で跪いていたガレンは風の刃の犠牲者になり、八つ裂となって絶命していた。
ここまで細切れだと、治療術も間に合わないか……。ご愁傷様。
「もう!周りの迷惑を考えなさいよ!部屋がめちゃくちゃになっちゃったじゃない。後で無様領主に謝りなさいよね!」
「……何故術が通じない?対抗術や防御結界を使わずに、何故余の術が無効化されるのだ!」
「まったく、この部屋にいる大人達は、どうしてこうも簡単にキレちゃうのかしら?我慢が出来ない世代なの?」
黄色眷属の近くでガタガタと震えている無様領主と悪役婦人。かわいそうに、だけど貴方達のお仲間が暴れているんだからね。
『クリス、お仕事はもう終わりそう?』
『はい、すでに完了しております』
『じゃあ、ちょっと退避しておいて。なんだかキレ気味の出来損ないな眷属がいるから』
『はあ?私が始末しましょうか?』
『まあ、精霊の不始末は上司である神様のお仕事の内よ』
『……お遊びもほどほどにしておいてくださいませ』
『クリス、あとひとつ仕事を頼まれてくれない?……』
「どこに念話を繋げている。仲間が近くにいるのか?」
「こんな情緒不安定な大人しかいないような所に、私みたいな子供が一人で来るはずないじゃない」
「仲間の精霊がいるのか。貴様だけでも厄介だというのに精霊までいるとは……」
「心配しなくても、貴方の相手は私がしてあげるから。もうちょっと楽しませてくれると嬉しいけど、無い物ねだりをしてもしょうがないか……」
私はタカアマハラでお姉様と行っていた神霊術の訓練の様な高揚感を期待していたが、この黄色眷属にはがっかりだ。
元々この異界は私の全力は出せない程貧弱な世界だ。そんな世界なのだからこの世界で神霊術関連で楽しみを見つけるのは間違っているだろう。
「ほう、余との戦いは楽しくないか……。偶然だな、余も貴様との戦いは楽しくない。だが、堪えきれん程の怒りの感情が湧き上がってくるのだ!」
「怒っても何も解決しないわよ。まずはアンガーコントロールを身につけなさい。怒ってるって感じた時に目を瞑って六秒心の中で数えるの。その後……」
「貴様の戯言はもううんざりだ、聞くに耐えん。我が最終奥義で貴様を葬ってくれるわ!」
うわー、小物感増し増しだなー。
何だよ最終奥義って!そんな恥ずかしいセリフ使うなよ!聞いてるこっちの方が恥ずかしいわ!ここはバトル漫画の世界じゃないよ!余裕ぶって最後まで取っておかずに最初にぶちかませよ!
黄色眷属は隠していた神霊力を解放して、巨大な竜巻を目の前に作り出した。
うーん、これは宮殿が吹き飛んじゃうね。
もう既に諸々と巻き込んじゃっているし、今更か……。
流石に宮殿を壊すのは無様領主に申し訳ない。なので私は自分から竜巻に近づき強制的に竜巻を分解してみせた。
黄色眷属よ、最終奥義をこんなにあっさりと分解しちゃってごめんね。
「最終奥義って言ってたし、もう終わりでいい?」
黄色眷属は口をパクパクとさせて驚愕していた。
まあ、自分が余程自信があった術を何もしないうちに分解しちゃったのだ、プライドはズタズタだろう。
考えてみたらちょっと可哀想に感じてきたな。少しくらいはノってあげた方が良かったかも。
無様領主と悪役婦人は泡を吹いて気絶してるし、今日の貴方達は踏んだり蹴ったりだったね。……まあ、同情はしないけど。
おっと、黄色眷属の登場で忘れていたが私は今回の誘拐の真相と報復に来たのだった。まあ、真相は大体わかったし、今後ちょっかいを出さないと約束してもらえて、尚且つ慰謝料を払ってくれたら今回は水に流そう。うん、そうしよう!
「まだだっ!まだ終わりじゃないぞ!」
黄色眷属は諦めが悪いのか更に神霊術を使おうとしている。
……全然最終奥義じゃないじゃん!詐欺だ!インチキだ!
黄色眷属は真下に向かって神霊力の塊を放出した。
うーん、この術は……ちょっとヤバイかも。ヤバイのは私ではなくて、宮殿がだけど。
神霊術を一度も使わずにイタカを圧倒していくアリア。
イタカが苦し紛れに放った神霊術とは……次回に続きます。




