2−6 ヨセミテ商会 2
ヨセミテ商会でのドタバタ劇の続きです。
クリスは小鳥の姿から人の姿に変化し、ヨセミテ商会の周囲を巨大な防御結界で取り囲み完全に外界から遮断した。そして、幾つもの分身体を作り出し防御結界内の人間を全て失神させて無力化していった。その間、わずか三秒の神業だ。
「……姫様、目標の鎮圧に成功しました」
「ありがとう。さすが私のクリスですね」
クリスは嬉しそうに微笑み、私の背後に控えた。
「ケネスさんの奥様、はじめまして。私はジョン・ニュートン準男爵の娘アリア・ニュートンです。いつもケネスさんにはお世話になっております」
ケネスの奥さんは、カーテシーをした私を見ながらもの凄く恐縮していた。
「……アリアちゃん。よくこんな状況で、普通に挨拶できるね」
「あら?そこのハゲ茶瓶が私の事を貴族の娘だと言っていたから、それに相応しい挨拶をしただけなんだけど、……まあ、いいか。とりあえず、こんな殺風景な場所じゃなくて、ゆっくりとお話が出来る部屋に移動しましょう」
私達は男達が倒れている部屋から出て、どこか居心地が良さそうな部屋を探した。ガレンは、クリスに足首を持たれてズリズリと引き摺られている。
どうやら監禁されていた部屋は地下の一室だったみたいで、同じフロアには似た様な物置となっている部屋が三室あるだけだった。
階段を登り一階に出てみると、普段は使用人が利用しているフロアだったみたいで、シンプルな内装の部屋が続いていて台所や食堂が並んでいた。
……うーん、部屋を探すのも面倒だね。
「……クリス。そのハゲ茶瓶を起こしてくれないかな。あちこち部屋を探すのも飽きちゃったし、そいつに応接室に案内させましょう」
「かしこまりました」
クリスはガレンに向かって何発かビンタを喰らわせて目を醒させた。
「……ううっ、ここは……?」
クリスはガレンの首元を掴んで片手で百キロ位はあるガマガエルを吊り上げた。
「姫様がこの商館の応接室をご所望だ。案内せよ」
グゲグゲとガレンは呻いていたが、それを無視してガレンが教えてくれた応接室に皆で移動する。
その途中の玄関に差し掛かった時に、ふとケネスの事を思い出した。
「ケネスさん、今日はもう帰ってもいいわよ。また後日、契約の事については話し合いましょう」
「……本当にいいのかい?」
「大丈夫よ。それに、奥さんや赤ちゃんはずっと監禁されてたみたいだから、今はゆっくりと休ませてあげて」
「……わかった、ありがとうアリアちゃん」
ケネスと奥さん達は商館を後にし帰宅していった。
さてと、これで心置き無く尋問ができるね。赤ちゃんにはこんなどうしようもない男達の泣き言を聞かせたくなかったし。
応接室に到着して、私はクリスにお茶を出してもらうようにお願いした。
クリスが部屋から出ていっても、ガレスは床に座り込み項垂れたままで逃げ出す素振りもなかった。ここに来るまでに、商館のあちこちに倒れて気を失っていた人たちを見て心が折れてしまったのだろうか?
よくこんなメンタルで商会長なんて務まっていたな。周りのメンバーが優秀だったのだろうか?
クリスがお茶を淹れてくれて一息ついた。
やっぱり、クリスのお茶を飲むと、心が安らぐね。
「じゃあ、ちょっとお話をしましょうか?」
私の言葉にガレンはビクッと反応した。……そんなに怖がらないでよ。私はまだ何もしてないでしょうに。
「まず、私を誘拐しようとした犯人はカフカースの領主で間違い無いのね?」
ガレンは頷くだけで、一言も言葉を発しなかった。
「じゃあ、貴方の役割は誘拐の実行役という事かしら」
「……領主様と実行犯役のケネスを引き合わせた仲介役だ……。あと、実際に誘拐してきたケネスを殺すように命じられた」
「では、ケネスさんは最初から殺すつもりだったのね。じゃあ、この命令書に書かれている成功報酬の大金貨十五枚も嘘だったって事なの?」
私はケネスから押収しておいた命令書をチラつかせて、ガレスの証言を引き出す。ついでに、ケネスに渡そうとした皮袋も机の上に出して見せた。
「……領主様は平民なんかにそんな大金払うはずがない。ケネスに渡そうとした皮袋の中身はただの鉄の板だ」
「領主は貴族のクセに契約を偽ったのね。貴族の風上にも置けないわね。もしかしてケルト王国ではそう言った貴族達が横行しているのかしら?」
一応、皮袋の中身を確認してガレンの証言に嘘がないかを確認した。
「じゃあ、領主はどうして私を誘拐しようとしたわけ?魔力持ちは私以外にも国内にそれなりにいるでしょう?」
「それは領主様に聞かないとわからない。ワシは命令されただけに過ぎん」
「姫様の質問に正直に答えろ。貴様の空っぽな頭でもわかるように左手の指の骨を順番に折っていってもいいのだぞ」
そう言ってクリスは実際にガレンの左手の小指の骨を折った。
私の背後に控えているのに、霊術で小指だけ折るなんて器用だなぁ。私がやったらガレンごと木っ端微塵なのに。
「本当にワシは何も知らない!信じてくれ!」
試しに薬指も折ってみたが答えは変わらなかった。
うーん、これは本当っぽいか。
「……ハゲ茶瓶が知らないのなら、知っている人に直接聞くしかないね」
「……つまり領主を殺せば良いのですね」
「クリス、違うから。私は穏便に話し合いをしたいだけだからね」
クリスは痛みに悶えているガレンやそこらかしこに倒れている人達を見ながらため息を吐いた。
「……穏便ですか?」
「これ全部、クリスがやった事で、私は何もしてないじゃない」
「私は姫様の命令に従っただけですが」
「ハゲ茶瓶の指の骨を折れとは命令してないよ」
「……言葉にせずとも、主を行動を察するのが従者の務めですから」
クリスは誇らしげに胸を張ったが、私は別にこんな事を望んでいないよ!
「……領主様にも本当に同じ事をするつもりなのか?」
「別に脅したい訳ではないので安心してください。ただ、どうして私を誘拐したかったのかを聞いておかないと、また同じ事が繰り返されてしまうじゃないですか。私は領主に諦めてもらう様に説得するだけです」
「そんな事をすれば、お前の親もタダでは済まないぞ……」
「あら怖い、脅しですか?そんな事をする害虫は全て駆除しないといけませんね。ゴキちゃんは一匹見つけたら、百匹は隠れているって言いますし」
「……正気か……」
「貴方はどうか知りませんが、私にとって両親の価値はカフカースとは比較にならない程貴重なものです。両親に危害を加えようとする害虫に情けをかける必要がありますか?」
ガレンはすっかり意気消沈して、また蹲っていた。
本当にこのハゲ茶瓶はメンタル弱いなあ。
「クリス、このハゲ茶瓶を治療して。城に案内してもらうから」
「……まだワシに何かをさせるつもりか?」
「このまま私達が乗り込んでも面倒が増えるだけじゃない。なら、当初の貴方達の計画通りに進めた方が効率的じゃない」
クリスはガレンを治療し、城に先触れを出す者を次々と起こしていった。
さーて、カフカースのお城に乗り込むとしよう!
カフカースのお城に向かう事になったアリア。
更なるドタバタ劇に乞うご期待ください。




