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アメイジング・グレイス  作者: タカトウ ヒデヨシ
第一章 精霊の弟子?  第一話 オウルニィの少女

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1−20 モリガン様との邂逅 (ブライアン視点)

女王様気質な精霊モリガンと対峙する国王ブライアン視点でのお話です。

「まったく、ア……あの娘の頼み事でなければ、この様な下賤な場所に来る事もなかったのに」


 俺は目の前に居られる精霊……モリガン様を見て恐怖を感じていた。

 余りにも人間と違う……。

 その豪奢な金髪は緩く波打ち、腰まで届きそうな長さだ。瞳の色は光をそのまま反射させたかの様な金色でくりっとした大きな目で、私達を睨みつけている。

 見た目だけで言えば絶世の美女だが、その言葉使いと横柄な態度で全てを台無しにしている。


「で?この国の王は貴様でいいのね?」


 モリガン様は顎で俺を指し、めんどくさそうにため息を吐いた。

 俺がモリガン様に向かってゆっくりと頷くと、まためんどくさそうに俺を見て話し出した。


「では、アリアさ……んについての事なのだが、あの者は平穏を望んでおる」


 平穏だと……今、切実に平穏が欲しいのは他ならぬ俺の方だと叫びたい。だが、そんな言葉は口が裂けても言える筈もない。


「……貴様、察しが悪いのか、耳が悪いのか、それとも頭が悪いのかどれじゃ?」


 国王である俺に対してなんて無礼な言い草なのだ。俺の頭の中でそう反論してみるが体は恐怖に慄いていて言葉を発する事が出来ないでいる。


「……精霊様であろうとも、我が国の王に向かって無礼ではありませんか」


 俺の周りに控えていた護衛騎士の一人がモリガン様に向かって反論した。確かにその言葉は俺も心の中に浮かんでいた言葉だ。


「……ほう」


 モリガン様は反論した騎士を一瞥し、楽しそうに口角を上げた。


 ゴトリ……


「妾に意を唱えるとは大した度胸じゃ、褒めて遣わす。じゃがこの場での発言を許しておるのはここにいる国王だけじゃ」


 こ、殺したのか?

 確かに無礼ではあったかもしれんが、国王の臣下としては真っ当な意見だったはずだ。それを、自分の意にそぐわないからと言って簡単に殺してしまうのか?

 俺は、これまでの常識が通用しない相手に心の底から恐怖をしていた。


「別に殺してなどおらぬ。ただ三日程は目を覚まさぬだけじゃ、安心せよ」


 それは本当に安心して良いものなのか?


「国王よ、アリア……嬢は平穏を望んではいるが、魔術師になりたくないとは申してはおらぬ。必要なら魔術師学校にも入学するし、この国の魔術師団にも入ると言っている。だが、彼女は目立ちたい訳ではない。貴様らが陰でコソコソやる分は構わないが、あからさまな特別扱いはしない様にとの事だ。簡単であろう?」


 精霊が後見人にする少女を、特別扱いするなだと?

 どう考えても無理な話だ。

 魔術師学校の入学は貴族学校と同じく冬の初めとなっている。つまり、アリアは七歳で入学する事になるのだ。周りの全ての人が大人ばかりの中、子供が一人紛れ込めば嫌でも目立つだろう。

 まだ報告書をチラリと眺めた程度だが、アリアは精霊から弟子にと望まれる程の魔力の持ち主だ。新入生どころか魔術師全体の中でも魔力量はずば抜けていると言っても良いだろう。それに弟子を取ったからには精霊が魔術についても教えていると考えられる。魔術の習得に時間がかかるのは常識だが、精霊独自の習得方法があるかもしれない。そうなれば、魔術が使える数少ない新入生になるかもしれん。


 もし俺が拒否をすれば、モリガン様は俺を殺すだろう。先程の騎士の一件は、我々もしくは我が国の生殺与奪の権利はモリガン様の手の中にあるというアピールだったのではないだろうか。

 ここで間違えれば我が国の命運は尽きる事になる。それだけは何としても避けなくてはいけない。


「モリガン様。アリア嬢の特別扱いをしないという条件ですが、精霊様達が後見人になっている事は公表するなという事でありましょうか」

「ふむ。仮に公表した場合、どういう事になるかの?」

「公表した場合ですと、アリア嬢の特別扱いをしないというのは実現不可能になると愚行いたします」

「……それは困るな」

「ならば、精霊様方の後見人は非公開とし、名目上の後見人を立てた方がよろしいかと」


 俺はあくまでも丁寧に、そして慎重にモリガン様に対して意見を述べた。

 ……こんな苦労、他国の王や父上や母上にもした事はないぞ!


「通常、魔術師学校に入学する新入生の後見人は出身領地の領主が務めます。アリア嬢はウェズリー領の出身ですから、ここにいるギャレットが後見人になるのがより自然かと……」

「ふむ……。アリア嬢の希望に沿う形になるのなら致し方あるまい。ただし、ギャレットとやら、貴様がアリア嬢の後見人になるのは名前だけだ。その事を勘違いしない事じゃ!」

「勿論、重々承知致しております!」


 ギャレットが深々と頭を下げている。

 ギャレットとダグザ様との間でどういうやり取りがあったのかは知らぬが、完全に心が折れてしまっている。そして、その気持ちは大いに共感できる。


「それと魔術師学校への入学なのですが、これはどうやっても目立ってしまうでしょう。入学時期を大人になるまでずらせれば良いのですが、我が国の法律で一定以上の魔力があると確認された国民は、次の入学時期に必ず入学しなければならないと定められております」

「……法律を変える事は出来ぬのか?貴様は国王であろう?」

「勿論、国王令で法律の内容を変える事は可能ですが、それはアリア嬢の特別視しないという事に矛盾いたしますし、国王令で法律の内容を変える事も異例な事です。他の貴族供に下手に勘繰られるのは下策かと存じます」

「……他に法律を変える方法は?」

「議会に法律の改定案を提出して議決し改定案を通すのが通常の流れですが、次回の貴族議会の開催日は次の春になります。その前に魔術師学校の入学時期が来るので、とても間に合いません」

「臨時に議会を開催する事は出来ぬのかえ?」

「議会を臨時開催する時は戦争の時と大規模な自然災害、それと国王の崩御と就任などに限られております。今回の内容では臨時開催の要件には合致しません」

「……貴様はこの国の王だというのに、使えない奴じゃのう」


 がっかりとした目でモリガン様は俺を睨んでいる。

 ……実際、国王と言っても出来ない事の方が多いからな。


「王だからこそ、筋を通さなければなりません。王であればこそ謙虚でなければ国は乱れますゆえ……」

「貴様……。口だけは達者な様じゃ」

「恐縮次第にございます……」

「……まあ良い。ならば、アリア嬢が恙無く魔術師学校に入学できる様に全力を尽くせ」


 モリガン様はそう言い残して、この部屋を後にした。




「其方は実際見てみて、我が国の魔術師団はモリガン様に敵うと思ったか?」


 俺は魔術師団の副団長であるジャスパーに率直に聞いてみた。

 あの時には気づかなかったが、ジャスパーもあの部屋に居たらしい。


「私達程度の相手ならばモリガン様の鼻息ひとつで蹴散らされるでしょうね」


 ジャスパーは独自に開発した『魔力視』という術が使える貴重な魔術師だ。ジャスパー曰く、魔力を見ると自ずと実力が見えるだという。実際、彼は魔術試合で負けた事がない。自分が負けると判断した試合では、開始前に試合を辞退している。おそらくは魔力が見える事によって判断しているのだろう。

 そのジャスパーが、魔術師団の総力を持ってしても負けると判断したのだ。


「モリガン様というより、精霊様は我ら人間とは違う力があるのだと思います。魔力とは違う力を感じました」

「……そんな力を持つモリガン様に逆らうのは下策中の下策という事か」


 ……ああ、気が重い。

 次の冬には、モリガン様が後見人となったアリアが王都にやってくる。


「私は楽しみでたまりませんよ。精霊に認められた子とは、一体どんな子なのでしょうね」

「……俺には、そんな心境にはなれんよ」


モリガンはクリスに負けず劣らずアリアの事が大好きなので、嫌々ながらも色々と妥協しました。


そして、魔術師団副団長のジャスパーが初登場。魔術が大好きで、楽しい事も大好きなおじさんです。

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