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アメイジング・グレイス  作者: タカトウ ヒデヨシ
第一章 精霊の弟子?  第一話 オウルニィの少女

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1−12 ダグザとの会談 2

ダグザとの会談の続きです。


いよいよ本題の話に入ります。

 全員分のお茶が淹れられたので、毒味役として父さんがお茶を一口飲みお菓子も一口分食べ、ゲストであるダグザに向かって頷きながら微笑んだ。この仕草は「お茶やお菓子に毒が入ってない」とアピールする為の作法だ。


 ……ダグザには毒なんて効かないけどね。


 精霊にとって食べ物を食べるという行為は趣味とか娯楽に近い。

 美味を楽しんだり、苦味や辛味があるものを食べて刺激を得たりして楽しむのだ。中にはわざと拙いものを食べて悶絶するのを楽しむなんて事をしている精霊もいるらしい。……私は美味しいものだけ食べたいけどね。


「ダグザ様、娘から聞きましたがオウルニィに転移門を作りたいと……」

「うむ、我輩の住処はキボリウム山脈の奥地にある為、徒歩や馬車を使って行き来することは大変困難だ。我輩やアリア嬢だけならば転移術で移動出来るが、それでは我輩が術を使ってアリア嬢が突然屋敷から消えてしまったら其方達が心配するとアリア嬢が申したのだ」


 私やクリスやダグザが転移術を使えば、この世界の何処からでもダグザの住処に行く事位出来てしまう。

 私が横着して自室の中から転移してしまったら、行方不明として両親や使用人達は大騒ぎになってしまうかもしれない。


「そこで皆がわかりやすい所に転移門を設置することで、アリア嬢が我輩の住処に移動した事を確認できるだろう」


 転移門を置く理由は私の移動の確認の他に、クリスの神霊術を隠すためでもある。

 クリスには魔力が無いという設定の方が都合がいいと本人が申告してきた。

 クリスに魔力があるとなってしまえば、即魔術師学校に入学させられ私と離れ離れになるだろう。学校には私も入学する事になるだろうが、将来の就職先はバラバラになる可能性の方が高い。だが、私は一応貴族の娘だから魔術師学校に入学する際に専属の侍女を連れていてもおかしい事は無い。たとえ結婚したとしても一緒に結婚先に行けるはずだ。

 私はずっとクリスが側にいて欲しいし、クリスも私の側から離れたく無いはずだ、……多分。


「転移門を設置する理由は理解しました。ですが、王宮や領主邸にしか無い転移門をこの様な田舎に作るとなれば王族や上級貴族達が黙ってはいないでしょう。なので王宮の許可が出るまでは転移門の設置はご遠慮いただけないでしょうか?」


 まあ確かに、後からごちゃごちゃと文句は言われるかもしれない。その文句の窓口はダグザではなく、伯父さんや父さんになるだろうし、出来るだけ転移門の設置を先延ばししたい気持ちもわかる。


「それはならん。我輩はこの後、転移門を作るつもりだ」


 ダグザの言葉に父さん達は頭を抱えてしまった。


「だが、其方達の懸念も理解している」


 ダグザの言葉を聞き、父さん達は顔を上げた。……ダグザの言葉に一喜一憂しているの面白いけど、複雑な気分だわ。


「そこにいるクリス殿に話を聞き、我輩は其方らが懸念しているいくつかを聞いている。そこで我輩、いやこの世界の精霊皆がアリア嬢の後見人となろう」


 ダグザの爆弾発言を聞いて父さん達は固まってしまった。

 この作戦を企画した私達でさえちょっとやり過ぎかもしれないと内心思っていたから。


「我等が後見しているアリア嬢の為に転移門を設置したとなれば文句は出まい。それでも言ってくる者があれば我等が直接話を聞こう」


 文句がある奴は精霊が直接相手をするぞと言えば、国王だって何も言えないだろう。というか、文句を言う前に潰される可能性が高い。


 ……やっている事が反社みたいなんだよなぁ。




 その後、私達はお茶を飲みながら歓談し、ダグザは自分が転移してきた花壇に転移門を作り、自分の住処に帰って行った。

 転移門は石組みでできた大人が一人が出入り出来る位の大きさのアーチに木製の扉が取り付けられたシンプルなものだった。

 木製の扉のドアノブに触れると作動するシンプルな設定で、行き先は精霊の住処のみである。

 私とクリスは、世界中の精霊の住処に許可無く行く事が出来るが、私の親族が行ける所はダグザの住処のみで、しかもダグザの許可が取れなければ移動出来ない仕組みになっている。

 他の人がドアノブに触れても転移門は作動せず、ダグザはたとえ国王であっても移動の許可は出さないと断言した。


「……つ……疲れたーー」


 父さんはテーブルの上で突っ伏し、大きなため息を吐いた。

 母さん達も疲れた顔をしていて、額に手を当てていた。

 私はというと、テーブルの上に残されていたお菓子を食べながらお茶を飲み寛いでいた。


「父さんも母さんも伯母さんも、お茶を飲んでちょっと休憩したら?」


 父さんはダメな子を見るような目で私を見つめ、やがて諦めたようにお茶を飲み始めた。


「……アリアは将来大物ななれるな」

「はあ。ありがとうございます?」


 母さん達もお茶を飲み始め一息ついた。


「まあ、当初の目的は果たせましたし良しとしましょう。……事態は深刻になりましたが」


 父さん達は、将来私が上級貴族達に取り込まれる、もしくは養子に取られることを懸念してダグザに援護してもらうように頼む予定だったという。

 ところが、世界中の精霊全部が私の後見人になる事が決定した。

 今までは国内問題で収まっていたが、一気に国際問題にまで発展してしまったのだ。


「……確かにアリアの行き先がこの国の貴族から世界中の王族になったけど、精霊が後見人になった以上、全ての精霊に許可を取らないといけなくなったんだ。そう簡単に我が家からアリアがいなくなる可能性は低くなりましたよ」

「けれど、最終的には貴方達が矢面に立たないといけません。……ジョン、貴方がクーパー男爵になった方が良いと思いますよ」


 父さんは伯母さんの言葉に顔を顰めた。


「……私が男爵家の跡取りから退く事は父上との約束です。私の我儘である事は承知してますが、私が父上との約束を違える事はありません」

「……お義姉様。ジョンが男爵家に戻らないのは私のせいです。お叱りになるのならどうか私に……」


 叔母さんは大きなため息を吐き、母さんの頭をゆっくりと撫でた。


「別に叱ったりしないわよ。貴方達が今の生活に満足している事も知っているし、私達だって無理矢理に当主になれだなんて思っていないわ。けれど、アリアの事を考えたら準男爵よりも男爵の方が良いとは思わない?メアリー、貴方は孤児としての自分では無く、アリアの母親としての自分を考える時に来ているのよ」


 母さんはハッとした表情で叔母さんを見つめた。


「……メアリー。私は貴方が準男爵夫人でも男爵夫人でもどちらでも変わらないわ。貴方は私の大事な義妹よ。けれど、アリアが取り巻く環境は変わってしまった。だったら貴方も変わらなければならないの。世の中は貴方が変わるのを待ってはくれないわよ」


ダグザとの会談を終え、問題がより大きくなったと感じた家族達。


アリアの母親であるメアリーは変わる事が出来るのでしょうか?

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