1−10 現状を把握する保護者たち (ジョン視点)
アリアの父親であるジョン視点のお話です。
アリアの事情聴取が終わった後、家族みんなで夕食を食べた。
ここ数日は朱色熊襲撃の後片付けや、ダグザ様の件などがあって家族が揃ってゆっくりと夕食が出来た事がなかったのだ。
久しぶりの家族の団欒だったので、食事も何時もより美味しく感じられた。
私が望んでいた家族の風景がここにはあった。
夕食が終わり、子供達は自室へと下がっていった。
ここからは大人達だけでアリアの事について語り合わなくてはならない。
アリアが朱色熊に襲われたと聞いた時は血の気が引いたが、その後に精霊が現れてアリアが救出されたと聞き、さらに弟子にと懇願されたと聞いた時には頭の中が真っ白になった。……実際、妻のメアリーは気を失っていたからな。
そして今日、一連の襲撃の後片付けに目処がついた為、兄がアリアに事の真相を聞いた。
「赤ん坊の頃から魔力を持っていたとアリアが言ったんですか?」
「ああ、アリアがそう言っていたな。多分、嘘はついてないだろう」
赤ん坊の頃からだって!
こんな事が公になったら、只事ではすまないぞ……。
「メアリーは気が付かなかったかい?」
妻のメアリーに尋ねてみたが、
「いいえ。……でも違和感を感じていたとしても、私にはわからなかったと思います。だって私は魔術師の事、何も知らないもの」
妻は元平民で孤児院で育ったのだ。過去にオウルニィの町から魔術師が出た事はなく、貴族学校で学んだ私でさえ魔術師の事は知識として知っているだけだ。私でも魔力を感じていたとしてもわからなかった可能性の方が高い。
「念の為、アリアの魔力を計らせてもらったが間違いなくアリアは魔力を持っている。しかも俺が父から教わっていた数値よりも何倍も多い魔力量だった」
魔力量を測る道具……魔力計は、箱の両側に取っ手が付いていて、そこを両手で握ったら魔力計に魔力が流れその流れの強さで魔力量を計測する道具だ。
魔力計には魔力量を測る計器がついていて、その計器の針が右側に動けば魔力があることがわかる仕組みになっている。そのメーターの針が三分の一ほど度動くと魔術師になれる程の魔力量があり、この国の魔術師の最高権威である魔術師団団長でさえ三分の二ほどなのだそうだ。
アリアが魔力計を握ると針が一瞬で振り切れ壊れそうだったので慌てて手を離して貰ったという。
「魔力量が凄いというのもあるが、アリアはすでに魔術を使っているようだぞ。ダグザ様と念話術?というのを使って、遠く離れていても会話が出来るとか言っていたな」
私は頭を抱えた。……もう魔術が使えるだって!
魔力があっても魔術はなかなか使えないと聞いた事がある。だから魔術師学校に入学してもなかなか魔術師になれずに退学する人が多いし、卒業までに十年以上かかることもあるのだそうだ。
「魔術が使えると聞いて私は納得しました。アリアはお勉強の成績が良い事が目立ちがちですが、ダンスや乗馬もとても優秀なのです。魔術で身体能力を上げていると考えたら納得できます。将来は剣の稽古をさせても良いかもしれません」
「ふむ。その時は俺が直々に教えてやることにしよう」
「兄さん……。女の子に剣の稽古なんて必要ないでしょう……」
義姉さんは騎士爵の娘だったせいか体を動かす事が得意だ。……時々、兄さん達と剣の稽古もしているみたいだし。
「それよりも、これから起きる事を考えましょう」
「これから起きる事とは?」
「アリアに魔力がある事が判明したのです。領主様に報告が必要ですよ」
「それは、お前に任せる……」
「私が行っても追い返されるだけですよ。報告は代官である兄さんがお願いします」
兄さんがどれだけ苦手でも、代官でない私ではダメなのだ。今回ばかりは兄さんに頑張ってもらうしかない。
「それに、どこまで領主様に報告するのかも重要です」
「どこまでと言われても、正直に答えるしかないであろう」
「アリアが普通に魔力が発現しただけなら私もそのままを報告しますよ。ですが、魔力の発現が記憶に無い程小さい時で、魔力量が誰よりも多く、そして精霊のダグザ様の弟子になったと本当に正直に報告するのですか?」
ウェズリー領は久しく魔術師を輩出していない。魔術師になる可能性がある子供が現れただけでも話題になるだろう。だが、他の内容が公になるとどうなるか想像すら出来ない。この国の歴史どころか人類史上初めてな事柄だらけなのである。
「アリアの魔力量は隠しようが無いだろう。どうせ領主様の所でも測定されるだろうからな」
「そうですね。そこは隠しようがありません」
「魔力の発現の時期は隠せるのでは無いでしょうか」
「義姉さんの言う通り魔力の発現は本人しかわからないのでアリアが口を滑らさなければ大丈夫でしょう」
「けど、アリアはそそっかしいから……」
全員が顔を見合わせて大きなため息をついた。
「ダグザ様の弟子は隠せると思うか?俺は無理だと思うが……」
ダグザ様との会話は町民の多くが目撃している。たとえ私達が口に出さなくても噂は広がるだろう。
「多分隠せないと思います。そこは正直に報告する方が良いと思います」
「それよりも、この話が広まるとアリアを取り込もうとする貴族達が現れるのでは無いかしら?」
義姉の言葉に妻のメアリーがビクッと反応した。
私は妻の手を握りながら、
「そうですね……。一番可能性が高いのはこの地の領主であるギャレット様です。おそらく養子縁組を申し込まれるでしょうね」
私の言葉に、皆が黙り込んでしまった。
多分、アリアを取り込もうとしてくる貴族達はもっと多いだろう。領主様だけでなく公爵家や王族も名乗りをあげるかもしれない。
アリアはニュートン家だけでなく我が一族にとっても、大事な家族だ。できれば手放したくはないが、我等では上級貴族達の要求は跳ね除けられないだろう。
「……貴族対策は何とかなる可能性があります」
「どうするつもりだ?」
「ダグザ様に相談してみようと思います。ダグザ様に娘を預かってもらうのです。一度ご挨拶をしておいた方がいいでしょう。その時にこの話をしようと思います」
「……なるほど。だが精霊は人の些事に関心を持つと思うか?」
「……わかりません。ですが、アリアを家族に残すにはダグザ様に頼るしか道はありません。僅かな可能性ですが掛けてみようと思います」
アリアの未来は自分達ではコントロールできなくなってしまった。
ならば、できるだけより良い未来に進めるように足掻くしかない。
アリアの魔力を聞き驚愕し、その事によって起こるべき未来を予想して苦しむジョン。
アリアを失わない為に必死に頭を使って頑張っています。




