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アメイジング・グレイス  作者: タカトウ ヒデヨシ
第一章 精霊の弟子?  第一話 オウルニィの少女

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1−9 アリアへの事情聴取 (ウィリアム視点)

アリアの伯父さんであるウィリアム視点でのお話です。

 アリアがダグザ様の住処から帰って来て五日経った。


 この前代未聞の事態を引き起こしたアリア本人に色んな事情を聞きたかったのだが、オウルニィの町の被害も深刻だったので事情聴取を延期せざるを得なかったのだ。

 取り敢えず、朱色熊によって壊された外壁や家屋の復旧工事の計画や、傷ついた騎士達の把握や治療。それに町の近くにもう朱色熊がいないか確認する為の哨戒を命じた。

 そして何とか平穏を取り戻し、今日アリアに直接話を聞く事になったのである。




「……アリア。其方はいつ魔力を発現したのだ?ジョンやメアリーも聞いていないと言っているが?」


 ジョンやメアリーが俺に嘘をついたり口裏を合わせたりするとは思わないが、一応事情聴取の体なので同席は遠慮してもらった。

 だがアリアは不安な様子は見せず、俺に対して臆する事なく答えた。


「……うーん。魔力の発現ですか?この前の父さんの話ですと魔力が発現したら自覚症状があるそうですね。私にはそれがなかったので不思議に思っていたんです。もしあったとしたら流石に父さんか母さんに相談しますよ。だから、いつ発現したのかはわかりません。私は自覚症状がないタイプだったか、何かを感じない程ちっちゃい頃だったのか……」


 俺は頭を抱えた。

 七歳で魔力が発現する事ですら前例がないのだ。……俺は知らなかったが、ジョンに確認させたので多分間違いはない。

 それがもし赤ん坊の頃に発現していたとなると、この国どころか世界中の注目を浴びる事になるかもしれん。


「魔力は持っている事に気がついたのは何時だ?」

「それはずっと感じてましたよ。というか魔力があることが普通だと思っていたのです。魔力をみんなが持っていないということは、この前の父さんに聞くまでは知らなかったので」

「だがアリアは魔力がないような事をメアリーに言っていなかったか?」

「それは、魔力が発現するのが十二、三歳だと父さんが言っていたので、私が魔力を持っていたら変に思われるかなって嘘をつきました。ごめんなさい……」


 確かにその嘘には納得はできる。アリアは俺の息子のアルウィンと比べても非常に聡い子供だ。もしかしたら、子供の頃のジョンよりも賢いかもしれん。


「ダグザ様はアリアが魔力を持っている事を知っていたのか?」

「いえ、精霊は人の魔力を見る事ができるそうです。なので一目見て私が魔力を持っている事がわかったそうです」

「これまでにダグザ様と会ったことは?」

「初対面です。少なくとも私は会った事はありません。ダグザ……様は遠くから見ていたような事を言っていたけど……」


 なるほど。アリアが魔力を持っていた事に前からダグザ様は気づいておられたかもしれんな。それで、ずっと気にかけていたアリアが朱色熊に襲われるのを見て助けに来た。そう考えれば辻褄は合うか。


「ダグザ様はアリアを弟子にしたいそうだが、その事については?」

「そうですね。私を弟子にしたいというのは本当なようです。魔術の修行はダグザ様の住処で行う予定だそうです」

「ダグザ様の住処はキボリウム山脈の奥深くだろう、そこまでどうやって行くのだ?」

「それはダグザ様の背に乗せてもらうか、転移門を作るかになるようです。今度、転移門の作成について話があるみたいですよ」


 またもや俺は頭を抱える事になった。

 転移門なんて王宮や領主の城にしかない様な魔術具だ。こんな田舎にあっていいはずがない。

 アリアを特別扱いしすぎではないか?

 もしかして、アリアは特別扱いしなくてはいけない程の魔力の持ち主なのだろうか?


「ダグザ様はこちらに来られるという事か?」

「はい。両親に弟子にとる許可が欲しいそうですよ。その時に転移門についても相談するそうです」

「それは……。少し時間が欲しいと伝えてくれないか。流石に代官でしかない俺には荷が重すぎる。領主様と相談してからにしてくれ」

「はーい。そう伝えておきますね」

「ん?アリアはダグザ様と連絡できる手段があるのか?」

「……念話が出来る術を教えてもらいました。ある程度距離が離れていても会話ができる魔術だそうです」


 ふむ。魔術にはそんな便利な術もあるのだな。


「それは、ここから領主様にも会話が出来るようになるのだろうか?」

「いえ、魔力が一定以上ないと会話ができないので、魔力がない人には何も聞こえませんし、魔力があっても発信した人の指定した人以外にも聞こえないようになっています」

「そうか、そんな便利な魔術なら俺にも聞こえたらと思ったが、そう簡単にはいかんか」

「魔術は便利ですからね。使いたくなる気持ちもわかります」

「アリアは他の魔術も使えるのか?例えば攻撃魔術とかは?」


 もしアリアが強力な攻撃魔術が使えたら今後の魔物征伐が楽になるのだがな。


「……攻撃魔術はまだ使えません。伯父さんの期待に添えずごめんなさい……」

「いっ、いや、アリアが謝ることではないぞ。そうだな、アリアはまだ子供なのだ。そんな危険な魔術が使えない方がいい!戦うのは俺に任せておきなさい」

「ありがとうございます。伯父さん」


 微笑みながら俺に感謝を伝えるアリアを見ていると、娘を持つのも良いものだなと思う。

 妻に「もう一人どうだ?」と相談してみるか?

 窓の外を見ると、もうすっかり陽が落ち薄暗くなりつつあった。


「さあ、つまらん事情聴取も終わりだ。わざわざすまなかったな、アリア。さあ夕食を食べに行こう。俺は腹がぺこぺこだ」

「はい、伯父さん」


 まだまだゴタゴタが続くだろうが、難しい事を考えるのはジョンの役割だ。

 俺は魔物と戦っていれば満足なんだ。

 今までそうやってきたし、これからだってきっとそうだ。そうに違いない。


考える事を放棄したウィリアム伯父さん、ある意味それで正解なのかも?

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