1−8 恥ずかしい小芝居
アリアとダグザのアドリブ劇場のスタートです。
「其方か……。我輩にずっと呼び掛けていたのは……」
ダグザがまた同じセリフで私に尋ねてきた。
……弱った、ダグザってば完全にアドリブじゃん。
当初の予定では、私が神霊術を使って朱色熊を倒して、その後ダグザがやって来て「今の魔術マジ凄くね」みたいな事を言って、「今、弟子になるともれなく百連ガチャ無料」みたいな勧誘して、私をダグザの弟子にするぞ宣言をしてフィナーレの予定だった。
だが現実は、当初の予定より先に朱色熊が町を襲った為クリスの帰還に間に合わなかったし。中央広場で私が華麗に神霊術を使って朱色熊を撃退すはずだったのに!
朱色熊は空気を読まないで南門から近い市場で遭遇するし、南門から騎士さん達が来て乱戦になったせいで神霊術が使えずダグザが来る羽目になっちゃったのだ。
ダグザもマジで焦っているのだろう。多分あのセリフもクリスにああ言えって命令されたんだろうな。多分、そう言えば私がちゃんとフォローするとか言っちゃってるに違いない。
ならばっ!クリスの期待に応えてあげようではないか!……私は今までお芝居や演劇をした事ないけどね。
「……えっと呼び掛け、呼び掛け?……ああっ!もしかして、さっき礼拝所で精霊像にお祈りをした事ですか?そうですよね!そうに違いありません!」
……本当にアドリブでお芝居する人、マジリスペクトっす!自分みたいな素人役者にはハードル高すぎっす!
「……あっ……。そう、それっ!それの事だ。其方の真摯な願いを聞きつけ我輩がやって来たのである」
……ダグザもお芝居が出来ない人だったかー。
「……えっと、私のお願いを聞き届けてくださいまして、誠に恐悦至極に存じまする」
セリフを考えながら喋っているのでテンポは遅れるし、出来るだけダグザに乗っかろうとしているのでセリフも短くなってしまっていた。
「……ふむふむナルホド、了解しました。……其方、名はなんと言う?」
……今、ダグザにクリスの助け舟が入ったな。なんで私は助けてくれないのよっ!
「ジョン・ニュートン準男爵の娘、アリア・ニュートンと申します……」
「ふむ、アリアと申すか。なるほどなるほど。ささ、近くに来て我輩にその可愛くて美しい顔を見せておくれ……」
私はダグザの近づき、小声で「ねえ、今のセリフってクリスが考えたの?」と尋ねた。
「なんと可憐で素敵でチャーミングな姿。まさに神が与えたもうた美そのもの!我輩が今まで出会った中でもダントツな美少女!これから一万年先も語り継がれるであろう至高の美!ああっ神よ!今まさに、アリア嬢と出会えた奇跡に感謝を申し上げます!」
……セリフが気持ち悪い!クリスかダグザが考えたにしてもワードセンスが酷すぎる!
「しかも其方、魔力を持っとるではないかっ!しかも、なんと強い魔力。我輩でさえも負けそうな勢いではないか。可愛い上に更に魔力まで持っておるなんて、天は其方に二物も三物も与えたのだな」
ダグザの大言壮語に辟易しながら周りを見渡すと、私の周りは黒山の人だかりができ、いつの間にか叔父さんも私とダグザの下手な芝居を見守っていた。
……やめてっ!こんな恥ずかしいセリフを言われている私を見ないでっ!
「それだけの魔力があるのならば、アリア嬢。其方、我輩の弟子になるのが良いであろう。其方を古今東西、天上天下、国士無双な魔術師に育てて見せようぞ!」
市場がどよめきに包まれた。
それはそうだろう。精霊が現れただけでもひと騒動なのに、突然の弟子取り宣言なのである。……いや、国士無双なんて目指す気は無いからね!
……予定通り……予定通りなんだけど、何だろう、この居たたまれなさは。
まさしく「穴があったら入りたい」状態の私は、この場から逃げ出す為にダグザに向かって一方的に喋りまくった。
「……ダグザ様?私、貴方の弟子になった時の為に修行の場となる貴方のお宅に参りたいのですが、よろしいでしょうか?よろしいですよね!まあ、聞き届けてくれるなんてありがとうございます。では、早速行きましょう、そうしましょう!」
私は、周りを囲んでいた野次馬連中の最前列にいた伯父さんに「少し出掛けてくる」と言い残して、ダグザの背に飛び乗り町の外壁を飛び越えてこの場を後にした。
私の背後に呆然と見送っていた伯父さんが一瞬見えたが、私達が外壁を飛び越える辺りで正気に戻ったみたいで、その後私に向かって大声で叫んでいたが私達は叔父さんの声は既に聞こえなくなっていた。
「何で、あんな気持ち悪い……もとい、恥ずかしいセリフを叫びまくったの!」
ダグザの住処でダグザとクリスに正座をさせ、ついでに神霊術で重力をコントロールして、ダグザは伏せに近い格好に、クリスは土下座状態で固定した。
「ううっ……。我輩はクリス様が教えてくださったセリフをそのまま繰り返しただけです」
「クリスっ!」
あの気持ち悪い……もとい、恥ずかしいセリフの考案者はクリスだったのか……わかっていたけど、わかっていたけども!
「……私は、姫様の特異な能力や神秘性、類稀なる美貌、人間に比べてあまりにも多すぎる魔力などをわかりやすく説明したつもりですが?」
クリスは私の神霊術によって本来よりも何百倍もの体重が掛かっているにもかかわらず平然とした口調で答えた。……ダグザはもう涙目でぐったりしているのにね。
「……神秘的とか、美しいとか、大袈裟に盛りすぎです!私はまだ七歳なんだからっ!」
「……決して大袈裟ではありません。姫様の美しさは異界どころかこの宇宙随一だと思っていますので」
「歳を考えろと言っているのっ!七歳なんだから神秘的とか美しいって言われても普通は引くでしょう!せめて可愛らしいとか初々しいとかで留めてっ!」
オウルニィに帰った時、伯父さんとどういう顔で会えばいいのか。多分恥ずかしすぎてまともに顔を見られないだろう。
「……と、とりあえず、作戦自体はうまく行ったのではないですか?姫様が強い魔力を持ちしかも我輩の弟子になった事は知れ渡ったでしょうし……グフゥ」
ダグザにはこの重力はキツすぎたようだ。私は仕方なく術を解いてあげることにした。……あくまでダグザだけ。クリスはまだダメ!
「ダグザ、口を慎め。貴様の弟子ではないっ!あくまで偽装工作だということを忘れるな!」
「勿論でございますっ!クリス様!」
クリスは精霊の序列ではお父様の侍従長のセバスの次の序列二位となる。ダグザにとってはかなり上の上司にあたるのでクリスに反論する事など出来ないのだ。
……ダグザってばかわいそすぎる。
じゃあ、私の存在はどうなんだよ!という自己ツッコミは華麗にスルーしつつ、今後の方針を確認することにした。
「とりあえず、ダグザの弟子になって私の周囲に魔力がある事を周知できた。修行で精霊の住処に行くと言えば町の外にも出られるだろうしそこで魔術……もとい、神霊術の練習も出来るようになるでしょ」
「そうですね。しばらく姫様の周辺はごたつくとは思いますが、魔術師学校に入学するまでは大丈夫ではないですか?確証は取れませんが……。それはそうと、姫様は朱色熊の襲撃の際、今私にかけている重力の神霊術を使えばよろしかったのでは無いですか?」
……そう言えばそうだね。ド派手に朱色熊を倒す事しか頭に無かったから、こういった術の事をすっかり忘れてたよ。
アリアは派手な演出が大好きなので、重力の神霊術と言った地味な術の事は忘れがちです。




