2−10 ジャスパーとの練習試合 1
昼食後、私は魔術師の塔に向かった。
今回は私と一緒にクリスも同行している。貴族女性が側仕えを伴わずに行動する事は良くない事とされているからだ。とは言っても、クリスと一緒に行動出来るのは学校の時と同じく出入り口までで、クリスは私が塔から退出するまでの時間は待合室で待機する事になっている。
魔術師学校から歩いて十分程の所に聳え立つ魔術師の塔の敷地に入り受付に行くと、既に私の到着を待っていた案内役の魔術師と共に屋内の訓練場まで連れて行ってもらった。
「アリア嬢、この時を待ち侘びていたよ。ささっ、皆に紹介しよう」
副団長であるジャスパーさんが近づいてきて、私の背中を押しながら魔術師達が整列する前に誘導して行く。
「全員、傾聴!本日より我々と共に訓練をする、アリア・ニュートン嬢だ。アリア嬢は、皆が知っているかと思うが、精霊様の弟子その人である。皆も精霊様から教えられた魔術と我々の魔術との違いを見極め、互いに高め合ってくれる様に期待する。以上、解散」
えっ、私からは挨拶しなくてもいいの?
魔術師達は既にバラバラとなり、各々別々の訓練を開始している。今更、私の挨拶の為に集まってもらう事など出来なかった。
「アリア嬢はこっちだ」
「あのジャスパーさん、私の事はアリアで構いませんよ。ジャスパーさんは私の上司にあたる方なんですから」
「そう?じゃあアリアちゃんこっちに来てくれる?」
嬢もちゃんも大して変わらないと思いながらも口にするのはやめておいた。
「……それよりも、私も副団長って呼んだ方が良いのかな?」
「今はそのままでいいよ。正式に魔術師団に入団した時には副団長って呼んでくれたら良いから」
「はーい」
私達は別棟に来ていた。
先程までいた訓練場がドーム型球場程の大きさとするなら、今いる訓練場は体育館程の大きさだった。床は石畳が敷き詰められていて隙間もモルタルで塞がれている。壁側は観客席の様に競り上がっていて正面方向には貴賓席らしき座席もあった。
既に観客席には何人か人が入っている。しかし、観客と思われる人物達は一ヶ所に集まっているのではなく、前後左右に分かれてバラバラに席についている。
……これって、もしかして私の偵察に来てるんだよね?
「さあ、アリアちゃん。これから私と練習試合をしましょう!」
「……練習試合ですか?」
「はい、魔術師の腕前を見るのには実際に戦ってみるのが一番適しているのです!」
いやいや、他にも方法はいくらでもあるだろう。
「それに、アリアちゃんと試合をしたくてウズウズしているんですよ」
……とんでもない変態だな、ジャスパーさんって。
「……わかりました」
「おや?あっさりと承諾しましたね。もうちょっと嫌がるかと思ったのですが、嫌がるアリアちゃんが見れなくてガッカリです」
「私をそんな変態的な趣向に巻き込まないでください。そういうのはもう間に合っていますので……」
「そうですか。アリアちゃんの近くにそんな変わった方がおられるのですね、その方にも興味が湧きますが、今は存分に試合を楽しみましょう」
……変態サークルでも作るつもりなの?うわー近寄りたくないなー。
「私は魔術師団の試合は初めてなのでルールがわかりません。教えてもらえませんか?」
「ルールですか。特にありません、何でも有りがルールと言えばルールです。まあ使う武器は木製の物に限定していますが、使う魔術は制限を設けてはいません。ですが、相手を殺すのはなるべく控えて下さいね」
「怪我をする様な魔術を使用しても構わないのですか?」
「もちろん構いません。治療魔術が使える者が控えてますので、怪我をしたらその者の訓練になってちょうど良いかと」
「……私は子供ですが、容赦はしないと?」
「戦場では、子供でも剣を持って向かってきます。躊躇すれば死ぬのはこちらですからね。子供だろうと老人だろうと向かってくる者は躊躇わず殺します」
なるほど、プロフェッショナルと言えば聞こえは良いが、人の心は無くしているな。
将来、シーラやマーベルがこんな風になってしまうかもしれないと思うと心が痛いが、まだ確定していない未来の事で悩んでも仕方がない。
「私は木剣と短杖を使いますが、アリアちゃんの武器はどれにしますか?」
「私は自分の杖を使います」
「杖ですか?前、ここに来た時は杖は持っていませんでしたが」
「はい、あの後、ダグザに言ったら杖をくれました」
「へえ、精霊様がくれた杖ですか。どこにあるのですか?今、お持ちではない様ですが」
「はい、これです」
私は『メイガスの杖』を創造し、手に持った。
「アリアちゃん、杖が何処からともなく現れたけど、これは一体?」
「『メイガスの杖』です。この杖は私の体と同化しているので何時でも何処でも取り出せる便利な杖なんです」
「……流石、精霊の弟子……、想像の斜め上を飛び越えてきますね」
そんなにぶっ飛んだ性能ではないのだが、どこに驚く要素があったのだろうか?
「じゃあ、準備はいいかな?」
「あ、ちょっと待って下さい。この杖を持ってからそんなに魔術を使っていないので少し試し撃ちさせて下さい」
「わかった、それじゃあ的を用意するから……」
「あ、大丈夫です。自分に向けて撃ちますから」
私は少し離れた位置に火球の魔術?を使ってみた。
うん、大きさも形も問題ないな。じゃあ威力を試そうか。
火球を操作して自分に向かって撃ってみた。
……祝福が出ない様に大きめの防御結界を展開してっと。
火球が防御結界にぶつかり四散した。
うん、威力も人間が使う魔術とそう変わりないな。
「随分と器用に火球を操るんだね……。ちょっとびっくりしちゃったよ」
「そうですか?このくらい普通だと思いますけど」
「……本人がそれで納得しているならいいか」
ん?私、何かおかしな事を言ったのかな?
「じゃあ、気を取り直して練習試合を始めようか」
本心では始めたくないな……と思ったが、仕方ない。お仕事だと思って割り切ろう。
次回、練習試合が開始されます。




