2−5 登校初日の風景 5 (トッド視点)
今回は登校初日にマーベルに突っかかってきたトッド君の視点のお話となります。
……あれがドニゴール侯爵様が言っていた精霊の弟子って奴か。
俺は自分の席に座り教室の入り口から入ってきた少女に注目していた。
彼女を見た第一印象は、顔は結構可愛らしいが、身長は今まで見た七歳くらいの子供よりも若干低く感じる。そして彼女が着ているドレスは結構良い生地を使っているな。確か、後見人はウェズリー辺境伯だったはずで、侯爵様よりも格下の貴族の筈なのに俺よりも上段の席を確保している。何か裏の事情があるのだろうか?
いろんな事を考えている最中、教壇にショット先生が上がってきた。
ショット先生はドニゴール侯爵様の息が掛かっていて、俺がこのクラスの首席になる為に色々と便宜を図ってもらう手筈になっている。
今日が新入生にとって初登校ということもあって各々が自己紹介をするという事になった。
前列から順番に自己紹介が始まったが、これと言って特別な感じがする生徒は存在しなかった。それどころか、言葉遣いが平民の時とそれ程変わらず碌に勉強もしてこなっかった奴らばっかりだ。特にマーベルとか言う奴は、女なのにあんな乱暴な言葉遣いで本当に魔術師になりたいのかと疑いたくなってくる。
そんな碌でも無い奴らの自己紹介を聞いているうちに俺の番が回ってきた。
「私の名はトッド、十三歳です。出身地はドニゴール領で後見人はジョージ・ドニゴール侯爵様です。現在、火球の魔術が使えます。以後、よろしくお願いします」
それとなく既に魔術が使える事をアピールしつつ、十三歳という若さで魔力が発現したエリートという印象を与える事にに成功したのではないだろうか。
「トッド君、自己紹介で語っていいのは、名前と出身地と後見人の名前だけだ。余計な発言は控えなさい」
「……すみませんでした」
なぜ怒られたのか理解に苦しむ。お前はドニゴール侯爵様の息が掛かっていたんじゃなかったのか?と怒鳴りつけたくなったのだが、初日から揉め事は不味い、我慢しておこう。
そして問題の精霊の弟子という少女の順番が回ってきた。
「最後は私ですね、私の名前はアリア・ニュートンです。出身地はウェズリー領で後見人はえーっと……ギャレット・ウェズリー辺境伯様です。みなさん、これからよろしくお願い致しますね」
名前はアリアというのか。しかし家名があるのは意外だな。親戚が貴族出身者なのだろうか?
「彼女はニュートン男爵の御令嬢で、最近噂になっている精霊の弟子本人だ。その所を充分理解するように」
男爵令嬢だと……。彼女は貴族だったのか!
貴族でありながら魔力が発現し、しかも精霊の弟子を名乗っているのか。
内心では歯軋りをしそうなる程悔しかったが、グッと我慢をして頭の中で色々と作戦を考えてみた。
彼女自身が貴族令嬢だとするならば、今はまだ敵対しない方がいいな。
それよりも、味方のふりをして近づいた後に出し抜いた方が良いかもしれない。
貴族令嬢といえども、彼女はまだ七歳の子供なのだ。ここにいる新入生は俺と彼女以外は成人の年齢に達している奴らばっかりだ。彼女を孤立させる事は簡単な事だろう。
俺があれこれと考えている間にも授業や学校見学は終わり、本日の授業は終了となった。
アリアを食事に誘ってみるか?いや、初日から馴れ馴れしい態度は印象が悪いか?
俺がモタモタしている間に、マーベルとかいうバカがアリアに話しかけていた。この二人は知り合いなのか?貴族と平民なのに?もしかしたらアリアが子供という事でマーベルのバカが情けをかけたのかもしれないな。
だが、このバカの行為はマナー違反だ。貴族社会では、身分の下の者が上の者に話しかける行為はマナー違反となるのを知らないのか?
「マーベルさん、君が先にアリアさんに話しかけるのはマナー違反だぞ、慎みたまえ」
礼儀も知らないマーベルのバカにはちょうど良いコマになってもらおう。アリアも貴族ならマナー違反をしたこのバカを咎める筈だからな。
「トッド君、落ち着いてください。確かにマーベルさんの行為はマナー違反かもしれませんが、私達は今日魔術師学校に入学した新入生同士ではありませんか。私は同じ新入生同士に上下関係を持ち込むつもりはありません」
……驚いた、考え方や口調はここにいる連中よりも余程大人じゃないか。
余程、親の教育が厳しかったのか、それとも後見人が高度な教育を施したのだろうか。
……ここは一旦引いておいた方が良さそうだ。
「わかりました、私から注意しておきますのでお先に失礼致します。では、マーベルさん、シーラさん、参りましょう」
三人が教室から出て行き、俺は再び椅子に座り作戦を練り直す事にした。
彼女は小さい背丈と可愛らしい容姿で新入生の間では人気者になる可能性が高い。特に女性はそういったマスコット的なキャラクターが好きだからな。それに今の言動のような大人びた口調や考え方を見れば、ここにいる連中に舐められるような事はないだろう。
……だとすれば、俺はどう立ち回ればいい?
彼女を孤立させるという作戦はまだキープしておきたいが、かなり難しそうな予感がする。
上手い作戦は思いつかないが、一人で実行してみても成功率は低いままだろう。ならば、味方を増やすしかない。幸いな事に魔術師学校内にはドニゴール侯爵様と同じ派閥に属している生徒はそれなりに在籍していて、新入生の中にも存在する。取り敢えずはこの教室の連中を囲い込み派閥を拡大させる方向で動く事にしよう。
……この教室に特別な人間は俺一人で十分だからな。
次回はとうとう授業が始まります。……但し、魔術の授業はまだ先となります。




