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アメイジング・グレイス 〜幼き女神は斯く語りき〜  作者: タカトウ ヒデヨシ
第二章 魔術師の卵?  第二話 学生生活

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2−3 登校初日の風景 3

前回のお話の続きとなります。

 マーベルとシーラが私に話しかけてきた。

 この二人の存在は教室に入った時から気が付いてはいたが、話しかけても良いものかと躊躇していた。なので、向こう側から話しかけてくれた事に喜んでいたら、どうやらその事に不満がある生徒がいるみたいだ。


「マーベルさん、君が先にアリアさんに話しかけるのはマナー違反だぞ、慎みたまえ」


 私の前の席に座っていたトッド君がマーベルの前に立ち塞がった。


「何だお前?私とアリアは友達なんだよ。だからどっちが先に話しかけても問題なんかないんだよ」

「問題アリに決まっているだろう!例え友達であろうともアリアさんはれっきとした貴族令嬢だ、平民が貴族に向かって気軽に話しかけて良い訳がないだろう。君は後見人から最低限の礼儀作法を習ってこなかったのか」


 まあ確かに、トッド君の言いたい事はわかる。

 確かトッド君の後見人はドニゴール侯爵だったと記憶している。あそこの侯爵は門閥貴族派の中心人物で伝統と格式を重んじる派閥だ。

 その侯爵家の教育を受けていたとするならば貴族と平民の立場を弁えない行為は見過ごせないのも頷ける。


「トッド君、落ち着いてください。確かにマーベルさんの行為は礼儀に反する行為かもしれませんが、私達は今日魔術師学校に入学した新入生同士ではありませんか。私は同じ新入生同士に上下関係を持ち込むつもりはありません。そもそも私は新入生の中で一番年下なのですから、私に対して敬語を使うのを躊躇う学生もいるでしょう。そんな事にいちいち目くじらを立てるなんて不毛な行為だと思うのですが、トッド君は如何でしょうか?」

「……アリアさんは幼なくともやはり貴族なのですね。下々の者に対して寛大でいらっしゃる。あなたの顔に免じてここは私が引く事に致しましょう。ですが、マーベルの行為はマナー違反です。貴方から注意を促しておいてください」

「わかりました、私から注意しておきますのでお先に失礼致します。では、マーベルさん、シーラさん、参りましょう」


 私は周りの生徒に「お騒がせして申し訳ありません」と謝罪し、二人を連れて教室を後にした。

 マーベルとシーラは黙って私についてきたが、マーベルは興奮が収まっていない様子だった。


「マーベルさん、シーラさん、お久しぶりですね。とは言ってもお披露目のパーティーからまだ一月程しか経っていませんからお二人にとってはそうではないのかもしれませんね」


 今度は私から話しかけ場を和ませようとしてみたが、大丈夫だっただろうか?


「アリアさん、良かった、さっきの件で嫌われてしまったのかと思って、内心ドキドキしていたの」

「その……、さっきは悪かったな。一応、伯爵からは礼儀作法は習ってはいたんだけど、アリアに会えたのが嬉しくてつい話しかけちまった」

「別に気にしていませんよ。ただ、教室で貴族っぽい話し方をしたから、言葉を崩すのが難しくなりそうだけど……」

「ああ、確かにさっきのアリアは貴族のお嬢様って感じがしたもんな。私達とはやっぱり育ちが違うんだなって感じがした」

「それは、伯母さんの教育の賜物だね。伯母さんは言葉使いや礼儀作法に厳しい人だったからね」

「そうなのね、これからは私達も礼儀を弁えて行動した方が良いのかしら?」

「公私を使い分けていたら大丈夫だよ。貴族のお嬢様が年中お嬢様言葉を使っているなんて幻想に過ぎないから。お嬢様だって、トイレにも行くし、寝相だって酷いからね」

「……アリアはもうちょっと公私の使い分けを厳し目にした方がいいんじゃないかしら」


 食堂に行く途中でクリスと合流して、私達は食堂に入った。

 新入生の授業が予定よりも早く終わったせいなのか食堂の中には学生が私達以外誰もいなかった。

 食堂のメニューは日替わりのランチしかメニューは無く、全員同じメニューの物を食べる。入寮式や教室では身分差で順番や座る席が決まっていたのに、食堂では全員平等になっているのが不思議だった。

 クリスが私は席について待っている様にと言ってさっさと私の分のランチを持ってきた。

 二人に席を確保しておくと言って、急いで昼食を取りに行って貰った。

 クリスは放っておくと二人を無視して私の給仕をしかねない。

 他の生徒たちもちらほらと食堂に入り始めたが、私達は真っ先に昼食を食べる事に優越感を感じていた。

 今日のメニューはミートソースのスパゲッティとサラダ、ドライフルーツとミルクといったラインナップだった。


「おお、結構豪華じゃないか!流石は王都の学校だな」


 二人にとっては豪勢な昼食みたいだが、私としては特に変わり映えのないごく普通のランチに思える。この辺りが平民と貴族の差という感じなのかもしれない。


「そうね、普段だとお昼ご飯を食べる事は多くはないもんね」


 メニューに喜んでいるのではなくて、そもそも昼食がある事に喜んでいたのか。

 そう言えば日本でも昼食を食べる様になったのは江戸時代になってからだもんね。

 昼食を食べながらの会話は、自然と午前中に受けた授業説明の話になっていった。


「明日、いきなり試験かよ。読み書きは大丈夫だと思うけど、計算がなぁ」

「私も計算が苦手、ここは村の学校とは違って桁が多いのでしょう?足し算や引き算ならともかく、割り算が苦手なんだよね」


 なるほど、世界は違っても学生の苦手な科目はそんなに変わらないんだな。……悩むレベルは段違いだけど。


「それなら、これから計算のコツを教えましょうか?」

「いいのか!ついでに計算機の使い方も教えてくれないか!」


 マーベルが言う計算機とは日本にあったソロバンの様な物で電卓やパソコンの様な複雑な物ではない。けれども、ソロバンもちゃんと使い方がわかってないときちんと計算が出来ないものだ。そしてその使い方はわかってないと、とても複雑に見える。


「別にいいけど、計算機は自分のを持ってきてね、私は計算機は持っていないから」

「えっ、じゃあアリアはどうやって大きな桁の計算をしているの?」

「……答えても引かないと約束してくれたら教える」

「……引くようなやり方なのか?」

「引かないから教えてくれる?」

「……見たらわかるから」

「「へっ?」」

「だから、……見たら答えがわかるから計算機は必要ないの」


 私はタカアマハラで百年間勉強してきた内容を全て『叡智の書』に記録してある。

 『叡智の書』は私の脳と直接リンクしているので、問題を見た途端『叡智の書』が勝手に答えを導き出すのだ。しかも量子コンピューターに負けない程の脅威的なスピードで……。

 それはズルなんじゃないのと思われるだろうが、私も知らぬ間にこうなっていたのでわざとではないのだ。……そう、決してわざとではない!


「えっと、掛け算や割り算も?」

「……うん」

「桁が一万を超えた計算も?」

「……わかっちゃうね」


 ……言葉には出さないが、フェルマーの最終定理も証明できたしね。それには自分自身が引く位にびっくりしたけど。いつかアンドリュー・ワイルズさんがドロップキックをする勢いで抗議してくるかもしれない……。


「「それは、引くわー!」」


 だよねー。……とほほ。

アンドリュー・ワイルズさんについての補足説明……アンドリュー・ワイルズさんはイギリスの数学者で1995年にフェルマーの最終定理を完全証明した人物です。フェルマーの最終定理はピエール・ド・フェルマーが提起してから360年間誰も証明できなかった数学上の未解決問題の一つでした。


次回もこのお話の続きとなります。

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