1−2 河蜥蜴の襲撃
私はパッシブソナーから、より情報を集められるアクティブソナーに切り替えて魔物の情報を積極的に集め出した。もし河蜥蜴が神霊力が探知出来るタイプならこちらの居場所も知られてしまうが、構わず探針音代わりの神霊力を打ちまくった。
「河蜥蜴の集団の約半数は船に向かっているようね。河の中にいる二十匹前後は港や河岸に向かって上陸するみたい」
「姫様、河の魔物の処理は騎士団や衛兵団の仕事ではないですか。姫様が関わらなくとも良いと思いますけど」
「そうね、上陸した河蜥蜴はそのまま騎士団に任せて、ユピテルの船に取りつこうとしているトカゲの処理は陰ながら援護しましょう」
「それはまた何故でしょうか?」
「船に乗っていると思われる公爵子息の護衛や船員を合わせたとしても河蜥蜴の大群の相手は難しいでしょう。ここで公子を死なせたら間違いなく国際問題になるし、見捨てるのは性に合わないのよ」
「……本当にお人好しなのですから、程々になさってくださいね」
「まあ少し遊ぶ程度に留めるつもりだから。なるべく目立たない様に長距離から狙撃しましょう」
私達は早足で防水壁の上を移動し、リフィー河の上流方面の一番端の位置にやってきた。
ここから船までは約五百メートルといった所で、私は念の為にこちら側を視認しにくくする為の光学迷彩処理を施しユピテルの船の様子を確認してみた。
船の上にいる河蜥蜴の数は五匹。残りの四十数匹は河の中に待機していたり、船底に槍を突き立てたりしているみたいだ。
「私の想像以上にユピテルの船の状況は悪いわね。このままじゃ、船を沈められてしまうわ……」
「そうですね。船上はかなり善戦していますが、河の中の状況には気がついていないみたいですね」
「しょうがない、河の中はある程度数を減らしておきましょう。今、気がつかれて船の上で騒ぎ出されたらそれこそ収集がつかなくなりそうだし」
私は神霊術によって弓と矢を創り出し、弓を引き絞り水中に向かって矢を放った。
放たれた矢は私の思い通りに動き、河の中に入っていって船底を攻撃していた河蜥蜴の一匹の眉間を貫いた。そしてその矢はそのままの勢いで次々と河蜥蜴の眉間を貫いていく。
たった一度の行射で船底を攻撃していた十匹の河蜥蜴を倒していった。
そこで驚いたのは河の中で待機していた河蜥蜴達だった。一瞬で十匹の河蜥蜴が死亡したのだからパニックになるのは仕方がなかったのかもしれない。その結果、水中で待機していた群れの殆どが船から離れ仲間達の遺体を回収しようと川底に潜っていったのだが、一部の河蜥蜴が何を血迷ったのか船の上に上がって来たのだった。
船の上に十匹近くの河蜥蜴が追加されたのだから、船の上は阿鼻叫喚に包まれた。船員の中には逃げ出そうとして河に飛び込み、河の中に潜んでいた河蜥蜴の槍の餌食になってしまった。
「あれれ?助けようと思ったのに、もしかして逆効果だった?」
これだけしっちゃかめっちゃかになってしまうと長距離からの狙撃を行った場合誤射してしまう可能性がある。
私の神霊術の精度ならばその可能性はほぼ無いに等しいけれど、万が一という事もある。
「下手に誤射しちゃうと後々で面倒だし、ここは直接船に乗り込んで始末するしかないかも」
「姫様が乗り込めば余計に混乱しそうですが……」
確かに、あんな魔物だらけの無法地帯の船上で七歳の子供がバッタバッタと魔物を倒していけば混乱に拍車がかかってしまうかもしれない。
ここはやはり代役を立てるべきなんじゃないか?
私は『煤竹の笛』の力を使って仮面舞踏会などで使われそうなド派手な仮面を創造した。
「んじゃクリス、この仮面をつけて貴方が河蜥蜴達を倒して来てちょうだい」
「へっ??」
「そうね、名前はメイド仮面にしましょう。そう言えば私はネーミングセンスが良くないってクリスが言っていたから、自分で名前を考えてみる?」
「……あの?私が行くのでしょうか?」
「今、クリスが言ったじゃない、私が行くと混乱するって。だったら代役を立てるしかないでしょ」
「ど、どうして私がこんな恥ずかしい仮面をつけて、ユピテルの公子を助けないといけないのですか!」
「確かに、私の気まぐれにクリスは付き合う義理はないかもね……」
「その通りです!あんな何処の馬の骨ともわからない人間の為に、この私が恥ずかしい格好を晒す必要などありません!」
「そうね、全くもってその通りだわ……、ところで話は変わるけど、オウルニィの町に『アリア様ファンクラブ』という非公式な集団がいる事をクリスは知っているのかしら?」
「ひっ!!」
「何でも二週間に一度の間隔で、オウルニィの酒場で会合を開いているとか……。おかしいわね、私はそんなファンクラブなんて許可した覚えはないのだけど、クリスは何か知ってる?」
「……知っていると申しましょうか……、知らないと申しましょうか……」
クリスの目線はあちこちとキョロキョロ動いていて、私とは視線を合わせてくれなくなった。
まさに顔面蒼白、あの鉄面皮のクリスがこれほどまでにわかりやすい表情をした事が未だかつてあったであろうか?……否、断じて否!こんな事は今まで一度も無い!
「そうね、そんな頭のおかしい名前の組織があるのも気持ちが悪いし、これからオウルニィに帰る事もなかなか出来なくなるし、伯父さんに頼んでそんな組織は潰してもらいましょう。ああ、そう言えばまだ船は襲われていたのよね。早く助けないと……」
「お待ちください、姫様!」
「あら?クリス、私は何を待てばいいのかしら?ファンクラブを潰す事?それともユピテルの船に乗り込む事?」
「そのどちらもです。『アリア様ファンクラブ』を潰す様な事はおやめ下さい。あの会合はオウルニィの民の心の拠り所です。それを無くす様な非道な真似をなさらないでください。もし、アリア様ファンクラブをお認めになられるのでしたら、私が船の魔物達を退治しますから、何卒ファンクラブを潰す事はご容赦いただけないでしょうか」
「わかったわクリス…………、けど私はその貴方の必死さにドン引きしています……」
いつもはクールビューティな完璧超人なのに、どうして私が絡むとこんなにも残念なお姉さんになってしまうのだろうか?本当に不思議だ。
クリスはもっと違う所で頑張ってほしいものだ。
メイド仮面改め、⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎(名前は次回までのお楽しみ)は無事にユピテルの公子を救出する事ができるのだろうか!




