閑話 6 報告と称した…… (フリン視点)
時系列的には、第六話の「模擬戦の翌朝の会話」以降のお話となります。
位置的には第一章のエピローグ的なお話です。
アリアがタカアマハラを去って七年が経過したが、私は未だにアリアがいない生活に慣れなかった。
これまでは仕事が終われば可愛い可愛いアリアがタカアマハラの屋敷で待っていると思うとやる気に満ち溢れて仕事に取りかかれたが、今では屋敷に戻ってもアリアがいない事がわかっているからわざわざタカアマハラまで戻らずに、私の離宮であるアシハラで過ごす事が多くなった。
ほんの百三十年程前まではアリアがいない生活が普通だったのに、今となってはアリアがいない日常なんて考えられない程、私はアリアを溺愛していた。
「失礼します。クリス様がアリア皇女殿下に関する報告をしたいと尋ねてきておりますが、入室を許可してもよろしいでしょうか」
「許可します。クリスを通して頂戴」
クリスの来訪の目的はこの間の模擬戦の報告だろうが、私は自身の権能である『森羅万象』の力によってある程度の内容はわかっている。何故、ある程度なのかというと今回の模擬戦ではアリアが関わっていたからだ。私の権能はこの世の真実を解明するという反則みたいな力を持っているが、実は欠点がいくつか存在する。
まず一つ目は、私よりも神霊力が強い人には効力が及ばないという事。つまり、お父様やお母様、そしてアリアは私よりも強い神霊力を持っているのでこの三人が抱えている秘密は私の権能の力ではわからない。ついでに言うと、あのトゥルー教の教皇の神霊力は現在のところ私の神霊力と拮抗している。なので教皇の事も殆どわからないのが実情だ。
二つ目は、この世の誰も知られていない秘密や真実も知る事はできない。この欠点の範囲の対象は精霊も含まれるのでこの世の解き明かされていない謎や秘密はほぼ存在しないが、時折思いもよらぬところから新発見や新情報なんかが飛び込んでくることもある。一度世に出てしまうと私の権能の対象内になるのでいくらでも検索できる様になるのだが、今回の様にアリアや教皇が誰にも話していないと全くわからなくなってしまうのだ。せめて教皇が枢機卿あたりに全部バラしていたら真相も明らかになるのだが、どうやら教皇は今回の計画の内容の重要な部分は誰にも話していないらしく、今の所、原初の精霊達の計画の全容は解明されていない。
「フリン様、今回の模擬戦の報告なのですが、フリン様はどの程度お分かりになられているのでしょうか」
「私の権能を使って大まかな所はわかっているのだけど、教皇に関しては殆ど掴めていないわね。あの教皇は一体何者なの?原初の精霊にしては神霊力が多すぎじゃない?」
「はい、確実に私よりも神霊力は上だと思います。私では姫様の攻撃は止められませんでしたから」
「あの攻撃は私でも止められるか微妙なところね。あの教皇、よく止められたわね」
「姫様は最初から教皇が攻撃を止められる事がわかっていた様ですが、私には全くわかりませんでした。フリン様の見解ではどの様に感じておられましたか」
「私は現場にいなかったから何とも言えないわね。私の『森羅万象』をもってしても教皇の正体は何もわからないわ。神霊力だけで言えば私よりも教皇の方が若干強いくらいだからね」
私は元々神霊力が強いわけではなかったけれど、原初とはいえ精霊に負けるのは流石に悔しいわね。どうにかして神霊力を鍛える方法はないものかしら。……まあ、私が知らないのだから誰も知らないという事だけど。今度、お父様に相談してみようかしら。
「そう言えば、姫様は教皇の正体について奇妙な事を言っていましたね。教皇は呪物だと、そして彼等が行なっている行為は呪いそのものだとも……」
教皇が呪物で、原初の精霊が行なっている事は呪い?
……何のこっちゃって感じなんだけど?
「……アリアがそう言っていたの?」
「はい、そう言って報告しろと……」
「……呪いで神霊力を上げる方法なんて聞いた事無いんだけど……。けど、古今東西、呪いには色々な効果があるのは事実だしね。アリアはその方法を勘付いたのかもしれないわね」
「姫様は教皇の魂を見れば、何をやっていたのかがわかったそうです」
「魂を見る?……呪い、……呪物。何らかの関連があるのでしょうね……」
「それと、姫様と教皇との会話には不思議な会話がされていました」
「それは私も確認しているわ。確か、教皇のやろうとしている方法は、アリアも経験しているだったかしら」
「アリアが経験しているって事は前世の地球での事なのかしら?でも、あの子は生まれてからずっと病弱だったから、普通の人よりも経験豊富という事はないと思うのだけど?」
「前世よりもタカアマハラで暮らした時間の方が多いのですから、タカアマハラで何かを経験したのかもしれませんが、異界での生活を含めてずっと姫様の近くで仕えてきましたが、姫様がその様な事をなされた記憶はありません」
私もずっとというわけでもないがアリアと一緒に暮らしてきて、アリアがそんな危険な事をしていたという記憶はない。アリアが危ない事をしていたのならば私が全力で危険を排除していたはずだからだ。
「アリアに聞くのが一番手っ取り早いのだろうけど、あの子がちゃんと明言しなかったのは、まだ確信がなかったからなのか、それとも秘密にしておきたかったのか……。多分、どっちも何だろうけど、アリアにこの事を尋ねても多分答えてくれないでしょうね」
「そうでしょうね。姫様はどことなくですが、教皇に同情的な感じを受けましたから」
「……教皇はお父様の封印から抜け出した現在進行形の犯罪者なのだけど、あの子はその事をわかっているのかしら?」
「わかっておられないでしょうね。姫様は、自分の持つ神霊力で自身が神であることは理解されていますが、ご自身が宇宙の支配者の一人だという事はあまり自覚されていませんからね」
「そうね、ようやく他者を使う事や裁く事をする様になったくらいだものね。ちゃんと成長はしているけれど、それだと他の精霊達と然程変わらない。まあ今は人間になっているのだからしょうがないと言えばしょうがないのだけどね」
アリアへの神様教育なんてアリアがタカアマハラに帰ってきてからでも遅くはない。
今はアリアが人としてより良い人生を歩んでもらう方が重要なのだから。
「……それはそうと、クリス、例のブツは持ってきてくれたのかしら?」
「……はい、フリン様には私が姫様と一緒に異界に行く事を後押ししていただきましたので、極上の逸品をご用意いたしました」
そう言ってクリスは机の上に例のブツを並べ始めた。
「ウヒョーーーーー!これは、最高のお土産だわ!」
「はい、どれも極上の仕上がりと自負しております」
机の上に並べられたのは、アリアの隠し撮りされた写真だった。
「……流石は『アリアを愛でる会』名誉会員の称号は伊達ではないわね」
因みに、『アリアを愛でる会』の会長はもちろん私。そして会員はお父様やお母様をはじめとして、タカアマハラに存在する精霊全員で、徐々に精霊界全体に広まりつつあり、会員数は増える一方である。そして、この会の存在をアリアにはまだ知られていない。
「この表情、なんて自然で可愛らしい表情なのかしら。タカアマハラにいた時とは違って、少し幼くなったせいで可愛さがより際立っているわね!」
「はい!タカアマハラ時代の大人と少女の中間くらいの姫様も良かったのですが、この幼さが残る七歳の姫様も格別でございます」
「そうね、私とは双子なんだけど、私と髪や瞳の色が違っているから全く別人に見えるのもまた良いわね。大人になって私と並んでみたらどんな感じに映るのかしら。ああ、待ち遠しいわ……」
「大人になった姫様を想像するのも良いですが、今しか堪能できない姫様を鑑賞するのもよろしいのではないかと」
「確かに、クリスの言う事に反論が出来ないわ。さすが名誉会員といった所ね!」
私とクリスは時間を忘れて、延々とアリアの可愛さを堪能しながら語り尽くした。
次回より第二章がスタートします。
物語の舞台はオウルニィから王都ティル・ナ・ノーグにある魔術師学校に移り、アリアは一体どんな活躍を見せるのでしょうか?ご期待くださいませ!




