閑話 4 特別な存在 (トッド視点)
トッドは第二章にて、アリアと魔術師学校の同級生となるキャラクターです。
第二章のプロローグのひとつだと思ってください。
俺の名はトッド。ドニゴール侯爵領にあるトーリー村の出身の十二歳の男だ。
トーリー村はドニゴール侯爵領の南にあってユピテル帝国との国境付近にある森の中にある小さな村だ。
俺の親はトーリー村の村長をしている。俺の自慢の両親だ。
トーリー村は家の数が数十軒あるだけの小さな村だったが、そのお陰でみんなが親戚の様な間柄で何をやるにも隣近所の人全員で団結して農作業などを行なっている。
村の主な産業は農業で、代々、薬の原料になるという珍しい花を栽培している。春になると、赤や紫の花が畑いっぱいに咲いてとても綺麗な光景が見られる。
俺はこの光景を見る度に、この村に生まれて本当に良かったと思っている。
俺の身体に魔力が発現したのは十二歳の頃だった。
身体の内側から何かが溢れてくる様な不思議な感覚で、完全に魔力が身体を包み込んだ時は何をやっても成功する様な全能感に満ち溢れていた。
俺は両親に自分に魔力が発現した事を伝えると、最初両親は何やら複雑そうな表情を浮かべ、その後に俺を褒めてくれた。
その日の夕食はまるでお祭りの時のような豪華な食事が並べられ、しかも親戚のみんなが集まって俺に魔力が発現したことをお祝いしてくれた。そして俺は夢中でその豪勢な食事を堪能して楽しい夕食の時間を過ごしたのだった。
だから、その日の夜遅くまで両親と親戚のみんなが話し合っていた事を知らなかった。
俺が魔力を発現した数日後、俺の家に領主様の家来の人(後にドゥヴさんだとわかった)がやって来て俺の魔力の量を調べに来た。
どうやら俺の魔力量は結構多いらしく、家来の人は驚いていた。
そして両親と家来の人との話し合いがあり、両親はその家来の人に握り拳くらいの大きさの皮袋を渡していた。家来の人は皮袋の中身を確認し、嫌そうに顔を顰めながらその皮袋を懐にしまった。
俺の家は比較的に裕福だったが、今までそんな沢山のお金は見た事は無い。
都会の学校に行くにはたくさんのお金が必要なんだと思い、それを出してくれた両親に感謝した。
そして、俺はそのままその家来の人と一緒に村を出て領主様のお屋敷に行く事になった。
俺が困惑していると、両親は涙を浮かべながら俺に抱きついて来て「離れ離れになるけど、元気に暮らすんだよ」と言って俺を見送った。
それが、俺のトーリー村での最後の思い出となった。
「どうした坊主、随分と難しい顔をしているじゃないか」
俺に話しかけて来たのは、俺に魔術を教えてくれているドニゴール侯爵家に雇われている魔術師の爺さんだ。名前はまだ知らない、と言うか全然教えてくれない。
「……侯爵様が魔術師学校を三年で卒業しろって命令してきた」
「三年だと?そりゃ、不可能だろ。魔術師学校を卒業するには初等科で必ず一年は使っちまうし、高等科をたった二年で終わらすなんて正気の沙汰じゃないぞ」
「そう言ったんだけど、聞き入れてもらえなかった。……何でも、精霊の弟子って人が入学してくるから、そいつには絶対に負けるなって言われたんだ」
「……精霊の弟子?ああ、最近、王都で噂になっている奴だな。何でも魔力の多さが認められてキボリウムの精霊ダグザに認められたって話だったな」
「どんな人なのか知ってる?」
「さあな、俺は仕事で王都に立ち寄った時に耳にした程度だからな。さっさとこっちに帰って来たから噂の真相なんて知らん」
「そうかー。でも、そんな特別な人に勝てるかな?」
「……ああん、特別だ?……俺からしてみりゃ、坊主、お前だって特別な奴だぞ」
俺が特別だなんて初めて言われた。俺はキョトンとしながら爺さんの話を聞いてみることにした。
「十二歳で魔力が発現するなんて、坊主も充分特別な奴だ。普通は十五は超えてから魔力が発現するもんだ」
「……そうなのか?」
「ああ、俺だって魔力が発現したのは十六歳の年だった。それに比べたら十二歳で発現したなんて相当特別だろ」
「……特別な奴って、俺なんかじゃなれないだろ」
特別って奴はここに来て初めて勉強した時に習った初代国王とか、物語の中に登場した英雄とか、そんな奴等の事だろ。俺なんかがなれる訳無いじゃないか。
「特別な奴等でも、生まれたときは大概普通なもんだ。いや、そいつらだって何かを成し遂げる瞬間までは自分が特別だなんて思ってもいないもんだ」
「そんなことないだろ、生まれとか、血筋とか、他にも色んな事があるはずだ!」
「さてな、偉い親の後継が立派になるとは限らんだろう。もし、そんな奴だらけだったら世の中はもっと住み心地が良かったはずだからな」
「……本当にそんなものなのか?」
「さあ、未来なんてもんは誰にもわからんが、お前が特別な奴になりたいのならやらなきゃいけない事は山ほどある」
「やらなきゃいけない事ってなんだ?」
「坊主、お前はもっともっと勉強しろ。特別な奴等で怠けてる奴なんてもんは一人もいないからな。お前には、足りてない物ばっかだ。特別な魔術師になりたきゃ、勉強も魔術もお前は全然足りてない!」
それは図星だった。俺は礼儀や言葉使いを始め、侯爵様がつけてくださった家庭教師にずっと怒られっぱなしだった。
特に執事長のドゥヴさんは俺をいつも睨みつけてくる。……俺、あの人に嫌われているからな。
「……爺さんも俺に魔術をもっと教えてくれよな」
「……はん!気が向いたらな……」
俺が魔術師学校に入学する為に王都に移動する日、領都の侯爵邸でお世話になった人達に別れの挨拶をすることになった。
「今までお世話になりました。この屋敷の皆さんに恩返しができる様、精一杯頑張ってまいります」
俺はこの半年間、寝る間を惜しんで勉強し続けた結果、口調も変わり王都にいる魔術師として恥ずかしくない学力と魔術を会得した。
「魔術師の貴方にもご苦労をおかけしました。……結局、最後まで名前を教えては貰えませんでしたね」
「……坊主のお前から、そんな畏まった口調で反しかけられると背筋がゾワゾワっとするからやめてくれ」
「貴方は相変わらずですね。何年後になるかはわかりませんが、そう遠くない日にまたお会い出来る事を楽しみにしていますね」
「……俺はお前と二度と会わない様に祈っておく事にするわ」
時間が来て俺は馬車に盛り込む前に見送りに来てくれている皆の方に振り返り別れの挨拶をした。
「それでは、行って参ります」
そう言ってから馬車のドアを閉め、席に座るとゆっくりと馬車が動き始めた。
俺の隣には無表情のままのドゥヴさんが座っていて、まるで俺など存在していないかの様に書類をずっと読み続けている。
いつか俺が特別な存在になったとしたら、ドゥヴさんは俺の事を少しは見直してくれるのだろうか?
そんな淡い期待を乗せて、馬車はゆっくりと王都に向けて歩み続けた。
次回はアリアの伯父さんであるウィリアムのお話になります。




