閑話 3 私の推しは…… (アン視点)
アンの事を忘れている人の為の補足説明……。アンはアリアのお母さんに仕えているメイドの一人で、屋敷内ではアリアと一番年齢が近いため、アリアとアンはとても仲良しなんだ。オウルニィに朱色熊が襲撃した時と、アルウィンがダグザの住処に遊びに行った時にアンが登場しているので、忘れている人はそのお話を読み返してみてね。
このお話の時系列的には、第一章が終わった後のお話となります。
今日の仕事が無事終了し、私は小メアリー様に「御前を失礼致します」と告げて寝室から退出した。
私は足早に使用人区画にある自分の部屋に戻り、お仕着せを脱いで寝巻きに着替えた。
……お仕着せはキッチリしすぎていて、着てると結構窮屈なのよね。
体のどこにも締め付けられていない寝巻きに着替えるとホッとする。ようやく一日が終わったという充実感を感じている時、同室のキッチンメイドであるダイアナが戻ってきた。
「お疲れ様、ダイアナ。今日は少し遅かったのね。何かあったの?」
「料理長に言われて明日のメニューの変更があって仕込みをやり直したの。最近、旦那様と奥様の食欲が落ちているみたいだから、ちょっと軽めのメニューに変更したんだって」
「アルウィン様とアリア様がこの屋敷から出て行かれて今日で二日目か……。旦那様も奥様もアリア様を溺愛していたから寂しいのでしょうね」
「……でしょうね。特にアリア様はこの家の、いえ、オウルニィのアイドルだったからね」
アリア様はその可愛らしい容姿と人懐っこい性格だったのでクーパー家のみならず、オウルニィの町での人気も高かった。
私がこの家に奉公に来たのは三年ほど前のこと。我が家はニュートン商会の取引先の一つである商会を経営しているのだが、三女であった私は商会の後継にもなれないので将来の事も考慮され準男爵でもあるニュートン家に行儀見習いとして奉公に出された。
まだ十二歳だった私が親元から離れ一人で生まれ故郷から離れて生活することに不安を感じていたのだが、以前から花嫁修行としてどこかの貴族か大商会の所に奉公に出すと親から言われていたので「ついに来たか」と思った程度の衝撃だった。
それに、ジョンとは以前に何度か見かけていて、端正な顔立ちと穏やかな口調だったので高慢な奴の所に出されるよりかは断然良いと思っていた。
初めて領都から離れオウルニィの町に到着した時は北の辺境に来た事に少しがっかりとしていたのだが、お屋敷に入り初めてアリアお嬢様を紹介された時は衝撃が走った。
……か、可愛すぎる……、こんな可愛い子、領都でも見た事ないよ……。
確かに旦那様であるジョン様や、その奥様のメアリー様もお綺麗なのだがアリア様は可愛らしいだけではなく神々しさが段違いなのだ。聞けばまだ四歳なのだという。けれど、その一挙手一投足全てが洗練されているにもかかわらず、とてもフレンドリーで私に対しても全く偉ぶるような事はなかった。それどころか、この屋敷でアルウィン様に次いで年齢が近い私をまるで姉か年上の友人のように慕ってくれていた。
……こんなん、惚れてしまうでしょーーーー!!!
だけど、そんな事は表に出す事は出来ない。何故なら、私以上にアリア様に惚れている人がいるからだ。……そう、クリスさんという完璧超人という存在が……。
クリスさんは、アリア様原理主義を地でいく人の代表格だ。聞いた話によれば、オウルニィの地下組織にアリア様ファンクラブなる怪しげな集団があって、クリスさんがその会長だという噂が実しやかに囁かれているという。
そんな私が将来的にアリア様の侍女になるという話を奥様から聞いた時には無茶苦茶びっくりしてしまった。
「アリアは将来、魔術師として王都で暮らす事になるでしょう。そうしたら侍女がクリス一人だけでは大変ですもの。だからその時にアンがアリアの所に行って貰えたら助かるわ」
「でも私は、アルウィン様がダグザ様のお屋敷に行った際に大変な失敗をしてしまいました。そんな私がお嬢様の侍女になるなんて、そんな事許されるのでしょうか」
「あの事はキボリウムの山の恐ろしさを理解していなかったアルウィンの単独行動が原因だし、あの年頃の男の子は女の子の言う事にはなかなか聞いてくれないものよ。もちろん、アンにだって責任はあるだろうけど、元を辿ればあの時にアンを推薦したのは私ですからね、アンのせいだけではないわよ」
「……でも」
「それにアリアに一番必要なのは歳の近い同性の友人よ。これは、アルウィンやクリスには任せる事はできない事なの」
「……私が、お嬢様の友人ですか?」
「ええ、よく考えてみて?アンにも親には話せない内緒話や恋のお話なんかを友人に話したり相談に乗ってもらった経験はないかしら?私は孤児院で生活していたから親に相談することなんてなかったけれど、孤児院時代の友人やジョンと結婚してからはお義姉様によく相談事を聞いて貰ったりしていたわ」
「私もルームメイトのダイアナとよくお喋りします」
「アリアは将来王都に行って貴族の友人が出来るかもしれないけど、あの子には色んな目線で物事を考えてほしいの。貴方は平民でありながら大商会のお嬢様だけあって、平民の立場と貴族の立場のどちらの立場もよく理解している貴重な存在よ。そして、あの子の事を小さい時から知っている数少ない人間の一人よ」
「お嬢様は今でも十分小さいですが……」
「ふふっ、そうね、今でも小さくて可愛いアリアのままね。でも、この事はアリアには内緒よ、あの子、自分の背が低い事を気にしているから」
確かに、アリア様は七歳の平均的な身長よりも若干低めだが、それが余計に可愛らしく感じてしまうのは私だけでは無いはずだ。
「あの子の将来はオウルニィで生活していた頃とは全く違った生活になるでしょう。けれど、クリスとアンにはあの子の普通の生活を守ってほしいのです。クリスには親代わりとして、アンには一番親しい友人としてアリアを支えてあげてください」
「……畏まりました。奥様、アリア様の事は私にお任せください。私が将来にわたってアリア様をお支えいたします。ですが、アリア様は私のことをアルウィン様のファンだと勘違いなさっていますが、大丈夫でしょうか?」
お嬢様はずっと私に対して、私がアルウィン推しだとかアルウィン贔屓だと勘違いしている。
私がアルウィン様を特別視しているのは、私がアルウィンを推しているからではなくアリア様がアルウィン様の事を推しているからだ。なのでアリア推しの私としては、推しの推しと言う事でアルウィン様の事を特別視していたわけだけど、いつの間にか誤解されていた。
私が見たところ、お二人には恋愛感情は無いようだが、一応、従兄弟同士なので将来的にお付き合いなされても支障がないと思う。
「あの子は少しズレた所があるのが残念なのだけど……、まあその事を聞かれるかもしれませんが、その時は適当に返事をはぐらかしても大丈夫よ!」
いえ、奥様!私としては、推しであるアリアお嬢様に誤解されっぱなしなのは嫌なんですけど!
次回は第二章で登場する魔術師学校の同級生の前日譚的なお話です。




