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アメイジング・グレイス 〜幼き女神は斯く語りき〜  作者: タカトウ ヒデヨシ
第一章 精霊の弟子?  第六話 入学前の慌ただしい日々

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6−18 旅立ちの挨拶

このお話が第一章の最終話となります。

 ケネスさん達と別れ、父さんにケネスさんの事を頼みに行く途中クリスからケネスさんの事について質問された。


「姫様はどうしてヴェニス商会にケネスを雇い入れなかったのですか?その方が監視をするにしても都合が良かったのではないでしょうか」

「別にケネスさんを監視したくてニュートン商会を勧めたわけじゃないんだけどね。まあ理由としては、ヴェニス商会の支店をオウルニィには置かないつもりだからね。オウルニィに支店を置くよりニュートン商会の取引先になった方が都合が良いの」


 ヴェニス商会の支店をオウルニィに置くということは、単純にニュートン商会の商売敵になり、ニュートン商会の収益が下がる事につながる。娘である私としては、父さんの商会の収益を下げてまで自分が儲けようとは思っていない。それにヴェニス商会は交易事業を主軸と考えていて、製品の製造や開発は取引先に委託しようと考えている。ニュートン商会はオウルニィで製造される武具や鉄鋼製品のメーカーとしてケルト王国では有名ブランド企業の一つなのだ。その製品を諸外国で安価で販売をした方が商売としては成功しやすいだろう。なのでヴェニス商会の支店をわざわざオウルニィに置く必要がないという事だ。


「そして、ケネスさんの人柄や才能はよくわかっているから、よそに取られるくらいだったらニュートン商会で雇った方がいいからね」

「……そこまでケネスを信用してもよろしいのでしょうか?」

「別に全幅の信用なんてしてないわよ。だから家族をクーパー家に引き込んだの。彼等はわかっていなかったみたいだけど母親と兄嫁親子は人質みたいなものね。これによってケネスさんや家族には恩を売り、いざという時のための人質もできた。ケネスさんも余程のことがない限り私達を裏切るなんて事はしないでしょう。正に一石二鳥ってなわけよ」

「全く、どこでそんな腹黒さを身に付けられたのやら……」

「私の教師はお姉様よ、腹黒くならないわけないじゃない」

「……私と致しましては、反面教師にして欲しかったのですが」




 私達は屋敷に戻って、私とアル兄さんの入学前の最後の晩餐の席に着いた。


「……こうやって家族全員でテーブルを囲むことは暫くないんだな。そう思うと寂しいよ……」

「あなた、今日はお祝いの晩餐ですよ。湿っぽい話題は無しに致しましょう」

「……そうだったな、メアリーのいう通りだ。貴族学校にしても魔術学校にしても入学するという事は大人の階段を一つ上がったという事だ、めでたいに違いない」


 伯父さんが乾杯の音頭を取って、私達は食事を始めた。


「今日の晩餐はいつもより豪勢だな」

「ええ、今日はアルウィンとアリアの好物ばかりですよ。少しでもこの家の思い出を良いものにする為に料理長が腕によりをかけてもらいました」

「母上、ありがとうございます」

「ええ、今日は私の大好物ばかりで食べすぎてしまいそうです」

「まあっ、アリアは食が細いから食べ過ぎなくらいが丁度良いかもしれませんね」


 母さんが珍しく口を大きく開けて笑っている。自分が平民出身だという事がコンプレックスだったので、食事の時はマナーを気にする余り会話に参加してこなかったのだが、今では所作も美しく優雅に食事ができる様になった。王都の辺境伯邸で行われたヒル夫人のマナー講座のおかげなのだろう。母さんにはキツすぎた授業だったがちゃんと努力が結実している。……良かったね母さん。

 その後も会話は弾み、その勢いのまま居間に移って大人達はお酒を飲み始めた。……私とアル兄さんは当然ジュースだったけど。


「それにしても、魔術師学校に入学式が無いのには納得できないよ!せっかくのアリアの晴れ姿だっていうのに!」


 父さんが珍しく酔っ払って愚痴っていた。

 今、父さんが言った通り、魔術師学校には入学式はなく、親子であろうとも学校の敷地に入ることすら許されていない。その代わりに魔術師学校では入寮式が行われるのだが、これは魔術師学校の寮に入るための儀式的な意味合いもあり新入生本人と後見人しか出席は許されていない。だけど、私の場合は貴族の令嬢である事と私が未成年である事からクリスの入寮が許された。しかし、これはあくまでも例外中の例外であって、父さんが魔術師学校の敷地に入る事は許されなかった。

 なので、私とアル兄さんと伯父さん夫婦は王都に行く事になるが、父さんと母さんはオウルニィに居残る事になったのだ。


「ジョン落ち着け、ちょっと飲み過ぎだぞ」

「……兄さんはいいよ、アルウィンの入学式にちゃんと出席できるんだからね。でも私達は王都に行ってもやる事がないからこっちに居残りなんだよ。愚痴の一つぐらい聞いてくれたっていいじゃないか」

「全く、酔っ払いには付き合いきれんな。まあ、俺も同じ立場ならぐだぐだと愚痴りまくるんだろうがな」


 父さんは、二日酔いになったとしても明日はやる事何てないからと言ってまたグラスを傾けている。……元々、そんなにお酒に強い方でもないのに……。


「父さん、二日酔いになって私の見送りに出られない様なら一生口聞かないけど、それでもいいの?」

「……それは嫌だから、もう酒は飲まない」


 父さんはグラスの中に少しだけ残っていたお酒を一気に飲み干し、代わりに酔い覚ましの水をちびちびと飲み始めた。周囲の大人達は苦笑しながらその様子を見つめていた。


「……アリア、お父さんを余り責めないであげて、お父さんはアリアがいなくなる事が寂しくてしょうがないのよ」

「……メアリー、格好悪いから言わないで」

「いいじゃない、こうやって寂しがるのも愛情表現の一つよ。格好悪くたっていいじゃない」

「義姉さんまで……、ああ、そうですよ!寂しくて寂しくてしょうがありませんよ!」

「…………父さん、ありがとう。格好悪くたって、私は父さんの事大好きだよ」

「うあああああん、アリア〜〜〜〜〜!父さんもアリアの事が大好きだよ〜〜〜〜〜!」


 父さんは涙でぐちょぐちょになった顔で私に抱きついてきた。

 普段はあんなにハンサムなのに、こうなっちゃうと台無しだね。

 それから私達はいろんな思い出話をして、夜遅くまで語り合った。




 翌朝、私達は中庭にある転移門の前で整列していた。

 今回、転移するメンバーは私とクリスが魔術師学校組で、アル兄さんと伯父さん夫婦が貴族学校組となっている。

 私達はダグザの住処を経由してモリガンの住処に転移し、そこから更に王都の辺境伯邸に転移する手筈になっている。そして辺境伯邸から二手に分かれてそれぞれの学校に行く事になっている。

 旅立ちの前に、父さんと母さんが私の前で跪いて話しかけてきた。


「アリア、魔術師学校での生活を楽しんできなさい。私もそうだったけど学校生活での思い出は一生の宝物になるから」

「はい、精一杯楽しんできますね!」


 父さんは私の頭をポンポンと軽く叩いて母さんに場所を譲った。


「アリア、周りの皆さんにご迷惑をかけない様にね、それと学校に行ったらお友達をたくさん作る事、そしてそのお友達と目一杯楽しんでいらっしゃい。そして健康に気をつけて病気にならない様にね、それから……」

「ふふっ、母さんまだあるの?たくさんありすぎて頭がこんがらがっちゃうよ」

「そうね、じゃあ最後に一つだけ……、いつになるかはわからないけど、元気で帰ってきてね。愛しているわ、可愛いアリア……」


 母さんの頬に涙が一筋流れた。


「……母さん、約束する、私、絶対に元気な姿でオウルニィに帰ってくるよ!それと、私も母さんの事、大好きだよ!」


 私はそう言って母さんに抱きついた。いつの間にか私の目にも涙が溢れている。ああ、この温もりに包まれるのは暫くないんだなと思うとまた涙が溢れてきた。


「……クリス、私達の代わりにアリアの事を頼みますね」

「お任せください、奥様」

「……さあ、名残惜しいだろうけど、そろそろ出発だ」


 伯父さんが申し訳なさそうにしながら出発を促してきた。

 私は転移門の前に立って両親に向かって、いつか来る再会の思いを込めて旅立ちの挨拶をした。


「じゃあ、行ってきます!」

次回のお話は第一章の短編を投稿いたします。


全部で六話ありますので、どうぞお楽しみに!

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