6−17 ケネスとの会談
ケネスの口からカフカースの現状が語られます。
私達は優雅なランチを楽しみ、食後のデザートに舌鼓を打ちながらクリスと会話を楽しんだ。
「……今度、オウルニィに帰れるのはいつになるんだろうね?」
「貴族学校なら夏に長期休暇があるので実家に帰られる方が多いらしいのですが、魔術師は基本的に王都から出る事が許されていませんからね……」
「魔術師本人自体が国家機密扱いだからね。王都に遊びに行く時も許可が必要なくらいだし」
「……別に姫様は許可など必要ないじゃありませんか。いざとなれば分身体を置いていつでも帰って来れますよ?」
「……やめて!私を誘惑しないで!簡単に出来そうで、ついついやっちゃいそうになるから……」
「まあ、モリガンに頼めば簡単に国王に許可をもぎ取ってきてくれますよ」
「モリガンは国王陛下に対して遠慮というものを知らないからね。後でフォローしなければならない私の事も考えて欲しいわ……」
「……姫様が辛気臭そうな顔をしていたので小粋なジョークのつもりでしたが、お気に召さなかったようで残念です」
「……ジョークだったんだ」
「……まあ、フィフティフィフティといった感じですが」
「やっぱり半分は本気だったのね……」
「姫様が何を不安に思っているのかはわかりませんが、今は魔術師学校に入学する事を楽しめば良いのではありませんか。姫様は前世で出来なかった事をやり直したいのでしょう?学校の入学なんて絶好の機会ではありませんか」
今のクリスの発言は目から鱗が何枚も落ちるかの様な発言だった。
私はこれまで怒涛の転生生活を過ごしてきたから、当初の目的をすっかり忘れていた。
そうだ、確かにそうだった!私は人生をやり直しにきたのだった!
クリスが言うように新しい学校の入学なんて、正に人生のやり直しのルートとしてはもってこいのイベントで間違いない。だったらこのイベントを心行くまで楽しんだ方が良いに決まっている。
「クリス、大事な事を気付かせてくれてありがとう!」
「……どういたしまして」
クリスは頬を少し赤くしながら返答した。
もうっ、せっかく感謝の言葉を言ったのだから、ここは素直に受け取っておきなさい。
「じゃあ、さっさと懸念事項を済ませちゃおう。カフカースの事はずっと気になっていたし」
「……姫様が気にする事ではないと思いますけどね」
私はいつものお澄まし顔に戻ったクリスを引き連れて店を後にした。
「お待たせしました、ケネスさん」
「いえ、私達もつい先程到着したところですから。まずは家族を紹介させてください。私の妻のキャサリンと息子のジョン。そしてこっちは母親のスーザンと兄の妻であるシェリーと姪のデイジーと言います。みんな、こちらはニュートン準男爵のお嬢様のアリア様だよ」
「あ、ケネスさん、父さんは陞爵して男爵になりました。以後お間違えのないようにしてくださいね」
「それは大変失礼いたしました。申し訳ございません」
「いえ、陞爵して一月位しか経っていないので知らない人の方が多いですから気にしないでください」
ケネスさんは商売人だからよく知っているとは思うが、貴族の爵位の間違いは大変な事になる可能性が高い。心の狭い貴族だと無礼討ちをしてくる人もいるとかいないとか……。
「それにしても、こんな大人数でオウルニィへ引っ越されるのですか?それとケネスさんのお父様やお兄様がおられませんが後で合流なさるのでしょうか?」
私がそんな質問をしたところ、ご家族の皆さんの表情が曇った。……これは、聞いてはいけない質問だったのだろうか。
「私の兄と甥はカフカースの騎士でね、あの爆発事件に巻き込まれたんだ……。父は随分前に亡くなっている」
「……すみません、なんと言ったら良いのか……」
「いや、私が騎士爵家の次男である事は秘密にしていたからね、アリアちゃんは気にしなくてもいいよ。あっ、アリアちゃんって言っちゃった……」
「構いませんよ。ケネスさんは家名があるからそれなりの身分がある人だと思っていましたけど、騎士家の生まれだとは思っていませんでした」
「私の体型はヒョロヒョロだからね、そう思われても仕方が無いか。けど兄は優秀な騎士で領主様の護衛騎士を務めていたんだ」
「……少し疑問なんですけど、そんなに優秀な方の奥様なら別にオウルニィに引っ越さなくても良かったのではありませんか?カフカースに残られた方が裕福な暮らしが出来ると思いますけど」
領主の護衛騎士を務められる程の騎士ならば、殉職した場合の遺族年金も結構な額を支払われるはずだ。その権利を捨ててまでオウルニィに引っ越してくる理由があったのだろうか?
「……それはカフカースの現状を説明しないとわからないかもしれないね。今、カフカースは国王陛下の直轄地になっているのは知っているかい?」
「カフカースは国境を守護する特別な土地ですから、例の爆発事件で政治的な空白期間が出来る事を危惧した国王陛下が特例で直轄地にしたと聞いていますが」
「やけに詳しいね?正にその通りで、現在カフカースには国王陛下から委任された代官がカフカースを取り仕切っているんだ。そこで露見したのが前領主の不正や公金の着服や横領だったんだ」
そう言われてみれば、前にヨセミテ商会のガレンが税金が高いとか言っていたな。それに、慰謝料がわりに貰った物の中に隠し帳簿があったはずだ。あれはいつかその代官か国王陛下に差し出した方が良いのだろうか?いや、今更そんなものを出されても困惑するだけかな。
「そこで代官は税率を引き下げ、不正を行っていた貴族達を片っ端から捕まえていったんだ。そのせいか、代官様は庶民の味方として人気者になったんだ」
代官としては普通に戻した程度にしか思っていなかっただろうが、今までと比べたらそりゃ人気も出るはずだよ。比較対象の前任者の程度が低すぎたしね。
「そして、領民達の前領主に対しての怒りがカフカースの古参貴族達に向けられるようになってしまったんだ。おかげでうちの実家は言われのない差別や暴言を吐かれるようになってしまった。兄も甥っ子も不正なんかに手を染めてはいないのにみんなは聞く耳を持たなかったのさ。そんな土地では静かに故人の冥福も祈ることなんて出来ないと思ったから私は母や兄嫁に引っ越しを勧めたんだ。幸い手元に潤沢な資金があったからね」
「なるほど、事情はわかりました。それと、話辛い内容を話させてしまって申し訳ありませんでした」
「いや、黙っていてもいずれはバレる事だから」
「ケネスさん、オウルニィに引っ越されるのであれば町民権は私から伯父さんと父さんに頼んでおきますね。ケネスさんはずっと父さんとお取引していましたから大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。それは助かります」
「それと、ケネスさんはどこかの商会に入られるのですか?もしお決まりでないのであれば、ニュートン商会に入れるように一緒に頼んでおきましょうか?」
「……いいんですか?」
「ええ、ケネスさんなら信用もありますし、父さんも賛成なさると思いますよ」
「それでしたら、よろしくお願いします」
「それとスーザン様やシェリー様が就職先を探しているのであれば、我が家の使用人として働く気はございませんか?我が家は現在、クーパー家とニュートン家が一緒に陞爵したのと王都に邸宅を構えた事によって使用人の数が非常に不足しているのです。今まで拝見してみましたが、お二人とも所作が大変お綺麗でしたので是非とも我が家で働いて頂きたいのですけど」
「……私どもはカフカースの元貴族でしたけど、よろしいのでしょうか?」
「全く問題ありません。もし、その事でお困りになる様な事態になりましたら私や伯父が責任を持って対処させて頂きます」
「……ありがとうございます。アリア様、これからよろしくお願いいたします」
「では、伯父さんにその様に頼んでおきますね。クリスも他の使用人達に根回しをお願いするわ」
「かしこまりました」
こうして私とケネスさんとの会談は終了したのだった。
次回、第一章の最終話となります。




