6−14 模擬戦の反省会 (ダゴン視点)
模擬戦が終わり、教皇と共に帰還したダゴン視点のお話です。
「……教皇猊下、私共が不甲斐無いばかりにお手間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」
「別にいいよ、最悪の結果にはならずに済んだからね」
私達はあの模擬戦の後、後始末を他の枢機卿に任せて教皇猊下と共にクン・ヤン教国の首都ルルイエに帰還した。
教皇様はこの所体調をお崩しになられていて、ここ数年はほぼ寝たきりの状態になられているのだ。そんな身体なのに、私達の為に無理を通して駆けつけてくださった。なんとお優しい方なのだろう。
「ダゴン、なぜ今回の模擬戦を引き受けたのかな?今はまだ無理をする時期でも無いだろうに」
クン・ヤン教国は内戦の後、戦乱によって荒れ果てた都市や農地などの復興に十年程費やした。内戦自体は一年足らずで終了したが枢機卿……原初の眷属達による神霊術の攻撃によって滅茶苦茶になってしまったせいだった。……まさに自業自得だな。
そして復興したと言ってもまだ諸外国に影響を与えるほどの力はなかった。その為、各国に宣教師を派遣しトゥルー教を広めると同時に諜報活動を開始した。
徐々に国力を回復させていって、ようやく国外にも目を向けられる様になったきたのは内戦から七十年近く経過していた。
ようやく我々の本来の目的に本腰を入れられると思った矢先にケルト王国の計画の責任者であったイタカからの連絡が途絶えたのだ。イタカとは派閥は違えども同胞として信頼をしていたしその実力も認めていた。彼は自分の事を戦闘には向いていないと言っていたが、私よりも神霊力は多く、神霊術の扱いも上手だった。……実際、イタカよりも武闘派の眷属は多く存在していたので、それらと比較されたら自己評価が低くなるのも頷けるのだが。
イタカとの連絡が途絶え、組織内に緊張が走った。私達は同じ原初の精霊様の眷属といえども一枚岩ではなかった。ドリームランドが破壊される光景を見て神に反抗する事に恐怖の念を持っている者が多く存在しているのだ。イタカの失踪で自分達の行為が神に見つかったと怯える者が続出し、私はこれからの組織運営に不安を感じていた。……組織内の統一を早急に図らなければならない。そうしなければ、いずれ私達は空中分解してしまうだろう。
その後、イタカがクン・ヤンに戻って来て、この宇宙に新しく生まれた神の事を聞いた時に、私はこの幼い神を利用して組織内の意識を統一する事を画策した。
しかしその結果、私達は存続の危機に陥っている。
「確かに焦りがあった事は認めます。ですが、もしあそこで我々が引けば私達はもう二度と神に反抗することは叶わなくなりましょう。眷属の多くの者達はドリームランドの崩壊を見て怖気付いているのです」
「そうだね。あの光景は思い出しただけでも背筋が凍るよ」
「……ですが、その事に怖気付いていたら原初の精霊様方をお救い出来る事は二度と叶いません。ですから、あえて誘いに乗りました。結果はご覧のとおりですが……」
「うん、そうだね。私達が仲間の精霊達を封印から解き放つのは決定事項だ。変更は許されない。だけど、勘違いしてはいけないよ、私達の本来の目的の意味を」
「……意味ですか?」
「ああ、私達の敵は確かにフーシ様ではある。だけどそれは、フーシ様を排除したいのではなく彼と対等な立場になる為の手段だ」
「……対等な立場ですか?」
「そうだとも、たとえ私達がフーシ様よりも強い力を持ったとしても私達はフーシ様の代わりに宇宙を支配する事は出来ない。この宇宙はフーシ様の権能に紐づいているからね」
「神霊力が持つ力と、神々の権能は別の物ということでしょうか」
「そうだよ、権能とは神だけが持つ特別な力では無く、権能そのものが神という存在なんだ。それは誰にも変わる事は出来ない」
「なるほど……」
「だからドリームランドが完成したとしても、フーシ様がいなくては宇宙が維持出来なくなって意味が無くなってしまうし、たとえ別の宇宙があったとしても、私達はその宇宙には移り住む事は出来ない」
「それは何故でしょうか?」
「自覚は無いかもしれないけど、私達は神々の権能の元でしか生きる事は出来ないからさ。もし別の宇宙があったとしても、その宇宙は別の神の権能によって制御されていて、別の神の権能を拒絶する様になっている。私達は嫌でもこの宇宙で生きていくしか無いんだよ」
「……この宇宙でドリームランドを建設し認められるためには、フーシ様と対等にならなくてはいけないのですね」
「その通りさ、だから無理にアリア様に対して敵対する必要はない。それにアリア様はどこか特別な存在に感じる」
「……特別ですか?」
「アリア様は今までの行動から、母親であるナクロール様と姉君であるフリン様から神器を譲り受けていると推測できる。ナクロール様の神器は今までも多くの精霊達が譲り受けている。あの神器は神霊術との融和性が高いから非常に扱いやすいんだ」
ナクロール様の権能は『天地創造』。宇宙以外のあらゆる物を生み出すことができるとされている。……この力があればドリームランドの建設はもっと簡単に済んだだろうな。
「だが、フリン様の神器は扱いが難しいとされていて、今まで誰もフリン様から神器を譲り受けた者はいなかったはずだ。だけど、アリア様はその神器を譲り受けている。彼女には使いこなせるとフリン様が判断したのだろう」
フリン様の権能は『森羅万象』。こちら権能はよく知らないが、人伝に聞いた話によるとこの世のあらゆる事が分かるといったあやふやな回答だった。多分、話を聞いた者もよく分かってはいないのだろう。それに、この世の事が全てわかるというのなら我々がこれからやろうとしている事などお見通しのはずだが、その気配は感じられない。それとも、我々など何をしようとも問題はないと考えられているのだろうか。……もし、そうだとするならば舐められたものだ。
「アリア様はお二人から神器を与えられた稀有な存在だ。それだけでも特別な存在なのだがアリア様には他の神とは違う雰囲気がある。それに、今回の模擬戦で起こった奇妙な現象……、アリア様に向かって撃った神霊術が光の粒に変化したり、アリア様が傷つけた者が治療できなかったりといった事はおそらくアリア様の権能が原因ではないかと推測しているんだ」
「私は神の権能を間近で拝見した事はございません。ですが、神が権能を使われる時は自分の意思で権能を発動させていると考えられます。しかし、アリア様の場合、どちらの現象もアリア様が意識的に発動されているとは思いませんでした。それにこの二つの現象はまるでコンセプトと申しましょうか、方向性が別の物だとも感じられます」
「それに関しては私も同意見だよ。もちろん、ナクロール様やフリン様の権能とも違う、全く別のコンセプトの元で働いていると思われる。だからあの現象はアリア様の力で間違いはないとは思っているのだけど、私は権能があんな受動的に機能している事自体信じられないんだ」
「神霊術が光の粒になる現象は確かに受動的だと思いますが、傷が治療できないのはどちらかといえば能動的な感じがしますが?」
「一見すればそう思うかもしれないけど、アリア様は今回の模擬戦でアフーム・ザーの顔面を治療している。しかも自分で傷つけたにも関わらずにだ。もし彼女が勝ちにこだわっていたとすれば治療なんてしなかったはずだが、彼女はその事に拘ってはいなかった。彼女の中では、今回の模擬戦はダゴン達が考えていた神達との前哨戦ではなくて、あくまでも試合の一つとして考えていたのではないかな。だとすれば、今までの彼女の一連の行動から考えてみて彼女自身は非常に子供っぽい性格をしているけど、不必要に他人を傷つける様な性格ではないと思う。だとすると、彼女は自分が傷つけた眷属達は簡単に治療出来ると考えていてもおかしくはない。実際、原初の眷属達ならあの程度の傷はたちまち治療が出来てしまうはずだからね」
確かに、アリア様は我々が原初の精霊の眷属である事を承知している。その為我々には死という概念は当てはまらず、どれだけ傷をつけても治療術で即座に元通りになると考えていたとしても不思議ではない。だからあの様な苛烈な攻撃を躊躇いもなく私達に向けてきたのだろう。……攻撃を受けた私達にとってはたまった物ではないのだが。
「おそらく傷が治療出来ない現象はアリア様自身も気づいていない可能性が高い。だとすると、この現象は彼女が積極的に発動したとは考えにくい。全く反則みたいな能力だよ」
「この現象がアリア様の権能なのでしょうか?」
「いや、権能と言うには抽象的すぎる気がする。多分、この現象は権能の副次的な効果なんじゃないかな。かと言って、これらの現象からアリア様の権能を推測するには情報が足らなすぎるけどね」
「……そうですね」
「これからの事を考えると、おそらくアリア様は特別な役割……そうフーシ様の様な神の可能性がある。私達は積極的に彼女の情報を集めなくてはいけないだろう」
「かしこまりました」
「それと、今回の模擬戦で私は初めてアリア様と会話したのだが、その中で少し変わった言動が見受けられた。多分、彼女の過去の経験から来ていると思うけれど……。ダゴン、アリア様の生い立ちを探る事は出来ないだろうか?」
「……アリア様は生まれてまだ百年ほどと聞いております。その当時の事を知っているのはこの世界の精霊ではいないのではないでしょうか。知っている可能性があるのはクリス様だけかと考えられます」
「……クリスか」
教皇様は何かを考えるように俯いてしまった。常に仮面を被られているので表情は読み取れないが、どこか懐かしさを感じさせる様な口調だったのははっきりと感じた。
「ありがとう、ダゴン。流石に今回の事は疲れたから少し横にならせてもらうよ。君も下がって休んでくれ」
「かしこまりました。おやすみなさいませ、教皇猊下」
教皇様のお言葉通りに部屋から退出しようとしていた時に、教皇様のつぶやき声が聞こえた。
「……アリア様の力は、もしかしたらあの方々が…………」
私には教皇猊下の音葉の意味はわからなかったが、猊下には何か思いついたことがあるのだろう。
私はその言葉を聞こえないフリをしつつ、そのまま退出した。
次回は模擬戦から一夜明けた朝の様子のお話です。アリアのモヤモヤは解消しているのでしょうか?




