表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じー.えむ.  作者: 水持 剣真
4/12

巫女兎 壱

「「いただきます」」

あたしは護と一緒に朝ご飯を食べ始める。

八年前から何一つ変わっていない生活はあたしにとってはつまらないものだけど、彼がいるだけで百八十度変わって見える。

護はさっきただの幼馴染だと答えたけれど、それは護から見たあたしであって、あたしから見た護は「一生、傍にいたい人」

護は剣の鍛練を毎朝一人でやっていて、とてもじゃないけどあたしのことを考えてないといわれても仕方ない事をやっているわ。

だけど、そんな護が好きだからこの家の家事を全て引き受けている。

いつも傍にいてくれてありがとう。

と言いたいけれど、それを言うのはまだ当分先の事なのかもしれないわね。

ふと、一回も護と二人きりで出かけてないな~と思ったあたしは

「護、この後どこかに出かけない?」

「済まない、いつものやってからでいいか?」

「いいわよ、別に。あれやるんだったら、あたしも着いて行けばいいんだしね!」

いつものあれね……。

あたしは察してくれない護にちょっとムカついたけれど、表情には出さない。

出かけるにしても……どこに出かけるんだ?

そんなバカな事を訊いたら「フレイア」(火球を使って攻撃する冥界魔法)で丸焦げにするつもりだったが、彼は流石にそんなことはしない。

そんな事をしたらどうなるのか想像がついているに違いないわね。

デートの誘いをOKしてくれた彼とする雑談はいつもよりも数倍楽しく、デートどうしようという考えが頭の中を循環している。

着て行く服はやっぱり巫女服しかないのだけれど、それでもいいかな?

だって、この服にはあたしらしさが沢山含まれているのだから!

雑談をしながら食べ終えたあたしは彼と自分の食器を下げ、洗う事にする。

彼はすぐにどこかに行ってしまったけれど、多分自分の部屋で龍爪牙の手入れをしていると思う。

袖をまくり、洗い始めるあたしは彼とのデートについて考えるのと同時に昔お父さんが言っていた事を思い出す。

お父さんが言うにはこの世界は四人の守護神と一人の主神が治めていた時代があり、北を天界神セラフィスが東を竜神ドラグニス、南を冥界神メフィスト、西を戦神オーディンが守護し、それをまとめる長がゼウスだった。

あくまでお父さんが言っていた言い伝えだと思うから信じていないのだけど、もしこれが本当ならその時代に行ってみたい。

あたし、ファザコン?

いけない、いけない。ここに護がいなくて良かったわ。

こんなことを考えていたなんて彼に知られてしまったら、あたし一生立ち直れない。

すぐに頭の中を今日のデートに切り替えて急いで食器を洗う。

その途中であたしのQCDにメールが入ったから、一旦中断して受信したメールを読んでみると、

「巫女ちゃんおはよう! 相変わらずナイト君とラブラブしてる? それは置いておいて今日、暇?」

アスカ……今日もテンションが高いわね。

あたしのかなり困った親友――アスカ・I・ウィンディーはかなり元気な娘で、茶色い髪に、ちょっと大人びた顔立ちをしていて碧い瞳を持っているし、体型は……普通かな? グラマーとも言えないしスレンダーとも言えないから。

そんな彼女は幻界魔法という魔法を使いこなす魔術師。

この魔法は幻界という違う世界から契約した幻獣を呼び出し、使役する魔法で最大五体まで契約が可能だけど、神クラスの幻獣だと二体までが限界らしいわ。

あたしもこの魔法が使えるけど使役している幻獣は三体しかいない。それに対してアスカは五体フルに使役している。

テンションが高い事を除けば、幻界魔法の師匠といっても過言じゃない……かも。

あ! 彼女の説明をしている場合じゃなかった!

メール早く返さないと!

急いでQCDのメール画面を開いて返信を書く。

「ゴメン! 今日、これから護とデートだから暇じゃないわ。そんなに暇なら、レイン君とデートでもしてればいいじゃない」

返信してからあたしは急いで食器を洗う。

デート、デート! 今日はどこに行こうかな?

あたしは楽しみで仕方なかった。




護と一緒に家を出て、彼に着いて行くこと十分。見慣れた顔があたしの視界の中に入ってくる。

「よぉ、ちょっと遅くなった」

「ああ、そうだな。もう少し早く来れなかったのか?」

レイン君は待ちくたびれたかのように欠伸をしながら返事をした。

護のわがままに良く付き合う気になれた唯一の友人。それがアーク・D・レイン君。

彼らは準備運動とストレッチを良くやった後、軽く雑談してすぐに、

「準備はいいか? アーク」

「いつでも来いよ! 騎士様!」

戦い(護が言うには実戦形式の鍛練らしい)を始める。

あたしは巻き込まれないように、すぐに「スクエア」を張る。

この魔法は天界魔法という魔法の一種で結界を張るもの。

天界魔法には他にも回復やサポートの魔法もあるけど、あまり使わないわ。

なぜなら、護がこの鍛練を終えたときの回復や服の修理ぐらいしか使う場面がないから。

後、あたし何について説明しようとしていたんだっけ?

………………。

思い出した! 護が騎士と呼ばれている理由についてだわ!

彼が騎士と呼ばれている理由は、この世界で魔力を持たない人が武器を使って、誰かを守ろうとしている人達の中でも、「武聖四神」という称号を得ているから。

この称号は十年に一回行われる試験で合格した四人に与えられるもので、護は十五歳のときに合格したわ。歴代最年少記録で得たからものすごく有名なんだけど、この試験も彼は龍爪牙が抜けないために木刀で挑戦した事を今でもはっきりと覚えている。

で、さっきの神が支配していた時代という話に戻るけど、この「四神」というのは北のセラフィス、東のドラグニス、南のメフィスト、西のオーディンの事を指している。彼はその中のオーディンの称号を得ているから四神の中でも一番強い。

しかし、彼はそれに驕ることなく鍛練を続けているのだからすごいと思う。

そんな彼は今レイン君相手にちょっと苦戦中。

やっぱり龍爪牙は抜けないらしく木刀で応戦している。それに比べレイン君は「メイク」で水の鞭を作り「イクス」で地雷を仕掛けつつ、護を追い詰めている。

護は龍爪牙のすぐ上に木刀を挿すとレイン君めがけて走り出した。

冥界魔術師相手にそれはただの自殺行為にしかならないけど、オーディンの称号を持つ彼なら話は別で何か考えがあるのかもしれない。

爆発だけじゃなく地雷の効果もある「イクス」に脅えない。逆にそれを利用して地雷を爆発させ土煙を発生させると彼の左脇腹に接近し、攻撃する。

それだけじゃなく、百八十度回転してレイン君の背中に斬撃を加えてから右脇腹にも攻撃する。

これが彼の奥義かと感心しているけど、確かこの奥義は信条家に伝わるものではなく、彼が作った奥義に違いないわね。

多分この奥義は一対一のときにしか使えないのだろうけど、それでも急所を二回攻撃している辺り龍爪牙で斬ったら確実に殺せるわ。

今日の鍛練はこれで終わりかと思うとちょっとテンションが上がる。

「負けた~! 今回は勝てると思ったのに!」

「『イクス』ばっかり使うからだ。もう少し別の魔法も使えよ、お前は一流の冥界魔術師なんだからさ」

「『イクス』は爆発だけじゃなくて、地雷としても使える魔法だから捨てがたいんだ」

レイン君も護も服はボロボロだし、護に関しては出血している所もある。レイン君はレイン君で脇腹と背中に痣ができてる。

いつもは護がレイン君を家に連れてきてあたしが「ヒール」という魔法をかけているのだけど、今日はあたしがここにいるからその場ですぐに「ヒール」をかける。

「護もレイン君もこんな事毎日やっていて苦労しないの?」

「別に、楽しいし練習になるからやっているだけだ」

「その通りだけど、こいつの『イクス』のせいで服がボロボロになるのだけは勘弁だ」

護が勝った今日の実戦形式の鍛練はレイン君と別れて終了した。

これからデートだから、ものすごく嬉しくて、楽しみで、幸せな気分にあたしは浮かれていた。




今まで一緒に生活してきたあたし達にとって、二人でどこかに出かけるというのは初めてのことだわ。

あたしはどれだけ護とのデートを望んできた事か。

事ある度に誘ったけれど、何かと理由をつけて断られてきたから、実現できなかった。だから、今日はあたしにとって記念すべき日になることは間違いない。

彼はいつも肌身離さず持っている龍爪牙と木刀はデートにはふさわしくないものだ。しかし、この二つは護らしさが現れているから見て見ぬふりをする。

「なぁ、巫女兎。これから、どこに行くんだよ?」

「それは内緒♪ あたしに着いてくれば分かるわよ」

本当に情けないわね!

黙ってあたしに着いてくれば分かるのに、聞いてくるなんて!

そう思ったけど、自分の顔にそう書かれていないか心配になったあたしは歩くペースを落として、彼の左手を黙って握る。

少し恥ずかしかったが、久しぶりに握る護の手は大きくて暖かい優しさの温もりを感じ、ちょっとだけ顔が赤くなるのを感じる。

護も顔が赤くなっているのを横目で確認してから、恥ずかしさのあまり前を見て歩く。

歩く事三十分たって、やっと最初の目的地に着く。

そこには「信条家之墓」と書いてある。見ての通り護のお母さんが永眠している場所。

「おいおい、お墓参りか?」

「そうよ! 何か文句でもあるの?」

「いや、別ないけどさ」

ここに来た理由は特にないけれど、強いて言うなら久々に挨拶がしたくなっただけ。

お墓に水をかけて、線香を供えると黙って合掌する。

あたしはおばさんに「護はあたしが一生支えますから安心してください」と内心で言ってお祈りする。

護はおばさんに何を言っているのか、気になったけどそれを訊いちゃいけない気がしたから、そのまま三十秒くらいじっとしていた。

彼はもう終えたようだから、あたしの両親が眠る「姫神家之墓」に向かう。

護はあたしの両親に何か言うことでもあるのかついた瞬間に、一連の作業を終えてすぐに合掌し始めた。

その彼の横顔はいつもよりかっこよく見えて、胸がキュンとした。

あたしはそんなことを彼に悟られないように急いで両親に「神社はあたしが使役している幻獣たちに護ってもらっているから大丈夫だよ。それより、あたしの恋を応援してね!」と自分勝手なことを両親に告げる。

あたしが眼を開けると彼はもう終わりにしていたから、とびっきりの笑顔で、

「そろそろ、次の場所に行きましょ?」

「次ってどこだよ?」

「それも着いてからのお楽しみ♪」

巫女服を翻して歩き出そうとする。しかし、さっきの感覚がぬけないし恥ずかしかったけど、嬉しかったからもう一度彼の左手を握る。

あたしは護の顔がさらに赤くなったんだろうなと思いながら、次の場所に向かって歩き出した。

彼は黙ってあたしに着いて行く事しかできないことは分かっていた。普段から迷惑を掛けている分それくらいは勘弁してほしい。

あたしはそれだけで幸せなのだから。




挨拶を終えたあたし達二人が次に向かった場所は護とあたしが生まれた場所で、小さい頃よく遊んだ思い出がある、あたしの実家――姫神神社だ。

「懐かしいな、ここ」

「当たり前じゃない! いったい何年来てないと思っているのよ」

この神社を護っているのはあたしが使役している幻獣達――ユニコーンとペガサスそれにグリフォン――だ。本当はあたしが護るべきなんだけど……。

ここに来るのは何年ぶりなのかしら? ここを離れた年から自分の今現在の年を引いてみると……十二年!

今、この神社はあたしが魔法で張った特別製の結界に護られていて、そこに幻獣が警備(?)しているのが現実。だから、この神社の外観は十二年前のまま。

「初めて、護と逢ったのはここの本殿だったわね」

「俺のほうが三ヶ月くらい上だけどな」

小さい頃はここでよく遊んでいたけど、お父さんが死んでからは全くと言っていいほど来なくなった。

お父さんは「僕や瑠璃のぶんまで精一杯生きてほしい」と言ってこの世から去っていったわ。ちなみに瑠璃というのはあたしのお母さんの名前。

これじゃあ、あたし達二人に縁のある場所を巡っているだけのような気がするのだけど、あたしが行きたい場所に行っているだけだから仕方ないかっ!

「久しぶりに参拝していく?」

「そうだな。次、いつ来るか分からないからな」

あたし達はお賽銭を入れると仲良く神様にお祈りした。

その後におみくじを引きに行ったのだけど、ここの当主があたしだからおみくじ代は無料なんだよね。引いた結果が、

「げっ! 大凶じゃん! 巫女兎、お前のは?」

「あたし? あたしは……大吉だよ! 護も運がいいじゃない! 大凶を引くなんて」

「どこが?」

「大凶なんてなかなかでないんだから。それだけ、普段の行いがいいんじゃない?」

大凶を引く人はあまり見たことないわ。大吉より珍しいおみくじだからね。

あたしは大吉のおみくじを小さくたたんで護に預けると、急に彼があたしの右手を握ってきた。

「っ! どうしたのよ! 急にあたしの手を握るなんて」

「別に。ただ握りたくなっただけだ」

彼はぶっきらぼうに答えたけど、本当はただあたしの手を握りたくなっただけなのかも……とちょっと期待したけど、それは多分ないわね。

彼は久々に実家に帰ってきたあたしに気を使っているのか、本殿を見たままじっとしている。このときが永遠だったらいいのにと思っていた。

「…………」

「…………」

沈黙がものすごく長く感じる。

お互いに顔を背けているから、表情は分からない。だけど、あたしも護も顔が真っ赤なりんごのようになっているに違いない。

このままでもいいかなって思ったけど、何か寂しいものを感じたあたしは、

「護は何をお願いしたの? この世界の神様に」

「答えられるわけねぇだろ! 言った時点で叶わなくなるから。そう言う巫女兎は何をお願いしたんだよ?」

「ひ・み・つ♪ 護と同じ理由でいえないわ」

少し残念に思ったけど、それはきっと護も同じだと思うわ。

護とずっとこのまま一緒に過ごせますように……。

あたしは自分の望みをこの世界の神様にお願いした。この事がどうか護に悟られないように祈った。

あたし達は次の目的地(どこか分からないけど)に向かって歩き出した。この会話から約一時間たった後に。




護をたくさ~ん振り回したあたしはおなかが空いたから、町にあるレストランで食事を取る事にする。

機嫌がいいからここの食事代はあたしが出そうかな? と思った矢先、

「こんな所で仲良く食事ですか? 武聖四神様」

「あれ? お前こそここで食事か? ジース」

「私の事忘れてないわよね? ナイト様」

一番会いたくない人達に会ってしまう。よりよって機嫌がいいときに!

スカイ君と美生のカップルはあたし達の仲間内では有名なカップルでこの二人の右に出るカップルはいないと言われるくらいだ。

それに彼はロリコンだという噂があるくらいだしね。

あたしとしては、スカイ君はどうでもいい。むしろ彼の隣にいる生意気なロリっ娘錬成魔術師――創麗 美生がものすごくムカついて仕方ない。

いつも、いつも巫女服ばかり着ていてダサいわねなんて言うやつと仲良く出来るかっ!

彼女だっていつも、いつも同じような服ばかり着ているくせにっ!

「デートだよね、美生」

「そうよ、それが何なの? 巫女?」

本当にムカつくやつだわ。

絶対にこいつとだけは仲良くなれない。

瞳の中に「こいつにだけは絶対負けない」というメッセージが込められている。

いい度胸じゃない! あたしの錬成魔法のほうが上だということを思い知らしてやるわっ!

席に座っているスカイ君と護は何か言っているけど、とりあえず無視する。

すぐに右手で魔法陣を展開させ、すぐに錬成物を出せるようにしておく。美生もあたしと同じことを考えてるみたい。

何も創り出そうとしないあたしに少しムカついた彼女は、

「どうしていつも私達の邪魔をするのよ! この兎!」

「それはこっちのセリフよ! そんなにあたしと護が嫌いなの!?」

すぐにナイフを作って投げ出そうとするが、護に羽交い絞めにされてしまう。それは彼女も同じことでスカイ君に羽交い絞めにされ、彼の席に連行される。

本当に腹立たしいわね! どうしてあたしをムカつかせる事しかできないのかしら!

レストランに来たのだから、何か注文しないといけないのだけど、とてもそんな気分にはなれない。

「なに食べるよ?」

「何でもいいわよ!」

「機嫌直せよ……。そうだ! 俺がこのレストラン内で一つだけおまえの言う事を聞いてやる。これでどうだ」

それを聞いた瞬間あたしの中で何かが弾ける。

これは乗るしかないわね。

「言ったわね! じゃあ……あたしが注文した料理を食べさせて♪」

やった! 思いがけないサプライズね! 本当に。

ふふ~ん! どうよ! 護。絶対に後悔しているに違いないわ。

これからもっと後悔させてやるんだから、覚悟してなさい!

あたしは内心そう思うと彼と簡単なゲームで遊ぶ。

護と同じもの――ハンバーグとライス――を注文したあたしはそれが届くと早速仕掛ける。

「約束よ。早く食べさせて♪」

純度二百パーセントの笑顔でそういうと彼はものすごく嫌な顔をしていたけど、あたしの笑顔には勝てなかったのかハンバーグをナイフで切りフォークで刺すと、

「ほら、あ~ん」

「あ~ん」

パクッ。

と食べたあたしの口の中に広がるのは、ジューシーな肉汁。それに護が食べさせてくれているからいつもより数倍美味しく感じてしまう。

この美味しさを彼に伝えたいあたしは、

「護も、あ~ん」

同じようにあたしも彼に食べさせようとする。しかし、彼は恥ずかしさや照れくささが勝っているのかなかなか口を開けようとしない。

漢なんだから腹をくくりなさいよっ! この意気地なし!

彼は覚悟を決めたのか、

「……あ、あ~ん」

躊躇いがちに口を開けた彼にハンバーグを食べさせてあげる。

思ったより美味しかったのか、急に彼が

「美味しい? 護」

「ああ、美味いよ。巫女兎は?」

「ものすごく美味しい。今まで食べたどの料理の中デモね!」

周りの視線なんて気にすることなく食べさせあうあたし達はバカップルに見えたに違いない。だけど、まだ付き合ってはいないんだからっ!

そんな中、あたし達が知っている声が聞こえたような気がした。

「ジース、あれどう思う?」

「ものすごい二人だよ。あれで付き合っていないって言うのだから」




食べ終わった後すぐに美生と喧嘩したあたしは護に宥められた後、レストランから近い武器屋で彼の刀を買いに来た。

「これなんかいいんじゃない?」

「そうか? ちょっと切れ味が悪そうだな、これ」

刀にこだわりがあるのか選ぶのに時間がかかってしまう。

龍爪牙の刀身を見せてもらおうとしたけど、抜く事ができないからすぐに新しい刀を買う必要があると感じたあたしは護を連れてきた。

どうしたらいいんだろう? この龍爪牙を抜くためには……。

適当に護身具を探しているあたしは急に、

「これがいいな。巫女兎、この刀ものすごく綺麗じゃないか?」

「確かに……。これがいいんじゃない? 最後に決めるのは護だから護が決めてね」

彼は無責任だと思っているのかもしれない。だけど、刀はあたしが決めるべきものじゃないから、ちゃんとした刀を選んで欲しい。

見蕩れたなら即決しなさいよっ! 少なくともあたしならそうする。

「すいません! この刀の名前と値段を教えてください!」

「え~とですね、この刀の名前は白銀翼という名前で三刀神のひとつです。お値段のほうは……百万フリーですね」

結構高いわね……。彼も少し迷っているみたい。

だから、助け舟を出してあげる事にする。

「すいません、あたしの彼は武聖四神のオーディンであたしは錬成魔術師なんですけど、もう少し安くなりませんかね?」

少し、腹黒い気もしたけどこれぐらいしないと安くならないからね。

本当に武聖四神であることをいえば約半分にまで値段が落ちるに決まっているじゃない。世界に四人しかいない人に錬成魔術師であることを加えれば七割くらい値段が落ちるかなと踏んでいたあたしは、

「分かりました。では、十分の一の十万でどうですか?」

嘘でしょっ! 九割も落ちるなんて!

不覚にも驚いてしまった。ここまで落ちるとは思わなかったわ。

すぐにやったね! と表情に出す。

これなら買わざるを得ないはずだけど、どうしてここまで安くなったのかしら?

あたしが疑問に思っているのに、彼は一切訊こうとしない。

「買います。会計お願いします」

どうしてここまで落ちたのか訊かないのっ!?

彼は財布から十万フリーを取り出しレジに出す。

しかし、この刀――白虎爪牙は三刀神の一つだといっていたけど、他に何があるの?

「三刀神ってこの刀以外に何があるんですか?」

「他に確か……龍爪牙と戦神オーディンが使っていたといわれる黒刃丸ですかね。龍爪牙はこの世界で最初の錬成魔術師が作ったと言われていて、切れ味が三刀神で一番といわれています。黒刃丸は三刀神の中でも扱いやすさが白銀翼は美しさが一番といわれています。まぁ、白銀翼以外見たこと無いんですけどね」

ふ~ん、あたしはかなり良い買い物の手助けをした事になるわね。

良かったわね、護。

あたしは護にそんなことを内心思いながら家に帰る事にした。



家に帰り、すぐに夜ご飯――炒飯とフカヒレスープ――を護から食べさせてもらい、その代わりにあたしから護に食べさせてあげている。

理由なんていう必要あるかしら?

彼は飽きてきたのか、

「なぁ、巫女兎。美味しいのは分かったから終わりにしないか?」

「だめよ! 食べ終わるまでやるんだから!」

それを聞いた彼は諦めたのか、黙って従っている。

それでこそ男ね。

あたしは蓮華で自分の炒飯をすくってから、純度二百パーセントスマイルで彼の口に入れてあげる。

護がおいしいと言ってくれるからあたしは頑張れる。

あたしは今日一日、言葉では言い表せないくらい面白くて楽しい一日だった。それに、絶対に忘れないし、忘れたくない。さらに、彼の新しい一面を見たしねっ!

でも、段々と彼の顔色が青白くなってきている。

「少し顔色悪いけど、大丈夫?」

「心配すんな! 大丈夫だからさっ!」

「なら良いんだけど……」

大丈夫と言いながら食べてはいるもののこれ以上食べさせたら吐いてしまう気がしたから、、フカヒレスープだけを飲ませて他の料理を片付け始める。

それを飲み終えた彼は「ごちそうさま」と言ってから席を立ち上がる。

あたしはそれに「お粗末さまでした」と彼に伝えてから自分の料理も片付け始めたけど、どうしても彼の事が気になってしまう。

案の定、自分の部屋に向かっていた彼はふらふらとした足つきで歩いている。心配したあたしは彼の肩を持って、彼の両親が使っていた寝室に向かう。




「ねぇ、護。今夜久しぶりに一緒に寝ない?」

「お、おお、お前。何を言っているんだ?」

彼はきっと事の経緯を掴めていないはず!

あたしの計算どおりなら、かなり戸惑っているに違いないわ。

開口一番に言ったセリフがこれなら相当なインパクトを彼に与えたことになる。

あたしは久しぶりに彼と寝るべく行動を開始する。彼は意外と初心だから、こういうことは順序を踏んでからにしてほしいと思っているに違いない。しかし、あたしはそんな彼に有無を言わせない。

彼が黙って悩んでいる所に女として最大の武器である、自分の胸を彼の腕に当てる。

これなら間違いなく何も言えないわね。

あたしってとんでもない策士なのかも!

「黙ってるってことは一緒に寝てもいいんだよね!」

彼は「これ、確実に狙ってやったな!」という顔をしている。

自分の武器を最大限活かした攻撃にKOした彼はまるで、氷の中にいるかのようにカチンコチンに固まっている。QCDで撮って待ち受けにしたいわ。

彼を無理矢理ベットに寝かせる。すると彼は「どうしてこの部屋の場所を知っているんだ?」という疑問を持っているみたいな顔をしている。

その答えは彼の教える気は全くない。

だって、あたしがこの部屋を知っているのは、お父さんがこの部屋に護の両親と一緒に入るところを見たから。

「さっ! 早く寝ましょ?」

「はいはい。寝ますから大人しくして下さい。プリンセス」

彼の頭の中には、一緒に寝る以外の選択肢が存在しない。

なぜなら、あたしは一緒に寝るために彼の腕をがっちりと掴んでいるから。それにあたしの武器を彼の腕に密着させているし。

彼は諦めたのか、半ばヤケクソ気味に、

「電気消すぞ!」

「分かったわ。おやすみ、護」

「ああ、おやすみ。巫女兎」

彼は電気を消して寝室のドアを閉めるとあたしの隣に戻ってくる。

あたしは久々に彼と寝る事にドキドキする。この事が彼にばれないか心配だから、彼の腕を抱いたままでいそうだわ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ