護 壱
第一章
「「いただきます」」
二人だけの朝ご飯は何か寂しいものがあると思う人がいるけど、俺と巫女兎は寂しいなんて思っていない。
ご飯にしても、出かけるにしても、好きな人と一緒にいることに寂しいなんて思う人がいるか?
もしかしたら、こう思っているのは俺だけかもしれない。しかし、俺にとって好きな人は巫女兎であってそれ以外の誰でもない。
巫女服か小袖しか着ないけど、彼女は俺のことをきちんと考えてくれているし家事だって本当は俺がやるべきなのに、彼女がやってくれている。
感謝しきれないくらい感謝しているんだぜ、これでも。
「護、この後どこかに出かけない?」
「済まない、いつものやってからでいいか?」
「いいわよ、別に。あれやるんだったら、あたしも着いて行けばいいんだしね!」
出かけるにしても……どこに出かけるんだ?
なんて野暮な事は訊かない。
そんな事を言った瞬間に、俺は黒く焦げているからだ。
巫女兎が作ってくれた朝ご飯を食べながらする会話はとても楽しい。
お互いに禁句はあるけど、それさえ言わなければ俺たち二人はどこまでも話し続ける事ができる。
雑談をしながら朝ご飯を食べ終えた俺は、巫女兎が食器を洗っている間に自分の刀――龍爪牙を手入れしておく。(鞘を拭くことしかできないけど)
この刀は巫女兎と自分の命の次に大事なもので、俺があこがれていた母親の形見。
俺が住んでいるこの世界――アスファルバインでは、死者の魂は天界か冥界に行くと言われている。
天界に行けば人として生まれ変わる事ができるが、逆に冥界に行けば動物や植物として生まれ変わるらしい。
「らしい」とつけたのは、この話に信憑性がないからだ。
まぁ、俺としてはどうでもいいのだけれど、急に母親がこんな事を言っていたことを思い出してしまう。
マザコンなのかな~、俺
こんなところを巫女兎に見られたら何されるか分からない。
俺はすぐに近くにあったQCD(この世界で通信をするための機器)で連絡を取る。
このQCDはQuick Communicate Deviceの略で主に連絡を取るための器械。連絡を取るためだけじゃなく、娯楽や趣味といった日常生活で必要なツールも搭載されている便利な道具だ。
巫女兎はあまり使わないけど、俺は待ち合わせとかに良く使う。
手入れを終え龍爪牙を腰に下げ、念のため木刀も装備して出かける準備を進める。
いつものあれが終われば、彼女とデートができる! なんて気前のいい事を思っているけど、そんな事を考えていたなんて彼女にバレたら怒られそうだなと思いつつ、軽く部屋を掃除し後にする。
今日一日いいことがありますようにと心で願いながら。
巫女兎と一緒に家を出ていつもの待ち合わせ場所に行くと、もう先に来ていたのか暇そうにしているやつがいた。
「よぉ、ちょっと遅くなった」
「ああ、そうだな。もう少し早く来れなかったのか?」
俺を待っていた友人の名前はアーク・D・レイン。
顔は見るからに悪役。髪は赤のツンツンヘアーで常に黒い衣服を身に纏っていて、耳にピアスをしている。
彼は冥界魔法といわれる魔法を使う事かできる魔術師だ。
冥界魔法というのは、自分の魔力を炎や水などにして相手を攻撃する魔法のこと。
この魔法を扱う事ができるこいつと待ち合わせをしていた理由は一つで、これから実戦形式の鍛練を始めるため。
「準備はいいか? アーク」
「いつでも来いよ! 騎士様!」
その一言が合図となり、腰に下げてある龍爪牙を抜こうとするけど、やっぱり抜けないから仕方なく、練習用の木刀を構える。
アークは何も構えていないけれど、いつでも魔術を発動できるようになっている。構えていないにもかかわらず、隙が見当たらない。
俺はどうしようか少し迷ってから、彼の脇腹辺りから攻める事にする。
懐に入ってしまえば魔法は使えないはずだ。
そうと決めたら行動あるのみで、俺は彼めがけて走り出す。
「相変わらず、接近戦に持ってこようとするか! 今日はオレが勝つ!」
言った瞬間に彼は「イクス」(爆発)の魔法を撃ってくる。
しかし、彼の手の動きに注意していればかわせる。今回も楽勝だなと思ってから、すぐに
フッ
何かが俺の横を通り抜けた気がした。止まってから見てみると服が若干濡れている。
「……いつの間に」
「イクスにばっかり気を取られてたんじゃ、死ぬぜ。どうせ死ぬなら想い人に想いを伝えてからの方がいいか? 騎士様」
「余計なお世話だ! 冥界魔術師殿」
彼は左手に自分の魔力で作った水の鞭を持っていた。
確か……あの魔法は「メイク」って言う名前のはずだ。
魔力による一時的な武器だから、彼の集中力が途切れてしまえば無くなるはず!
左の鞭に次々と起こる爆発。いつもなら爆発だけに注意していれば勝てるが、今回だけは本気で勝ちにいくみたいだ。
手加減していると負けそうだから、木刀を腰に下げた状態でアークの懐に入るために走り出す。
当然それを腰に下げるという事はその分隙が出てしまうから、彼の攻めもさっきより勢いが増している。
そんな事にビビっているようじゃ俺はあいつには勝てない。
本物の戦闘を経験した事はないけれど大体の想像がつく。
ここが戦場なら、あいつの手に持っている鞭の属性は水ではなく炎か雷なっているはずだし、イクスの魔法だって威力が後数段階強くなっている。
一流の冥界魔術師が手加減しているが、今回は勝つといっている以上俺も奥義の一つや二つは見せるくらいの意気込みで挑まないと負けてしまう。
ここは一つ、奥義を見せてやるか!
左から来る水の鞭を何とかかわしつつ、イクスをどの位置に撃ってくるのか予想する。
案の定、彼は俺が予想した位置にイクスを仕掛けたみたいだ。
注意するものが鞭だけになった俺は彼の懐に入るとすぐに木刀を抜く。
彼の左脇腹にヒットした後すぐ、左に百八十度回転し背中に斬撃を加え、彼の右脇腹にも斬撃を与える。
奥義――左旋斬撃。
木刀だから斬撃というよりも打撃なのだけど、この奥義は龍爪牙で決めるためのもの。
それにこれは代々信条家に伝わるものじゃなく、俺が創ったものだ。
だから、実戦で使えるかどうか分からなかったんだけど、なるほど……一対一の時には有効なのか……。
アークは何が起きたのか分からないという顔をしている。
俺もこの奥義がスムーズに決まるとは思ってもいなかったから少し驚いてはいるけど勝ちは勝ちだ。
「負けた~! 今回は勝てると思ったのに!」
「イクスばっかり使うからだ。もう少し別の魔法も使えよ、お前は一流の冥界魔術師なんだからさ」
「イクスは爆発だけじゃなくて、地雷としても使える魔法だから捨てがたいんだ」
序盤のほうからイクスを爆発としてではなく地雷として使われていたら手も足も出なかったと思うけど、そうしてくれたから勝てたようなもんだ。
基本魔術師というのは動かないから、最初にいた位置さえ覚えておけば何とかなる。中には例外もいるけど、それは尋常じゃない精神力と集中力に魔力を持つ化け物だ。
アークが例外じゃない事に感謝しつつ、俺は巫女兎に天界魔法をかけてもらう。
天界魔法=回復・サポート魔法だと思ってくれればいい。
この魔法は体力の回復やサポートだけではなく、衣服や道具の修理などもできる。しかし、修理はできても創り出すことはできない。
「護もレイン君もこんな事毎日やっていて苦労しないの?」
「別に、楽しいし練習になるからやっているだけだ」
「その通りだけど、こいつのイクスのせいで服がボロボロになるのだけは勘弁だ」
今日も俺が勝ち、彼に別れを継げた後巫女兎とのデート(勝手に俺がそう思っているだけ)に出かける事にする。
彼女とのデートはよくよく考えればこれが初めてかもしれない。
十八年間一緒にいて家で二人きりという状況は多々あるけど、二人で出かけるという事はなかったから。
俺にとって初デートは想いを伝えたいのに、伝える事ができない相手――姫神 巫女兎とのもの。
彼女はいつ、いかなる時も巫女服で目立ってしまう。
だけど、巫女服を着て出かける事ができるのが巫女兎の魅力の一つだから俺はあえて口を出さないことにする。
「なぁ、巫女兎。これから、どこに行くんだよ?」
「それは内緒♪ あたしに着いてくれば分かるわよ」
どこに行くかは教えてくれないらしい。
仕方ないから彼女の後ろを付いていこうとするが、彼女はペースを落として俺の左手を握る。
おい! 何だ! この恋人的シチュエーションは!
心臓がいつもより激しく鳴っているし、このドキドキ感も初めて感じる俺は少々戸惑ってしまうけど、巫女兎が笑顔で俺の事を見てくれているので必死に悟られないように隠す。
手を繋いで歩く事三十分くらいだろうか、俺たちが最初に着いた場所には「信条家之墓」と書いてある。
「おいおい、お墓参りか?」
「そうよ! 何か文句でもあるの?」
「いや、別ないけどさ」
どうしてここに来たのか俺にはサッパリだ。
とりあえず来た以上は母さんに報告しないといけないな。
俺、今好きな人とデートしているという事と、母さんが教えてくれた剣の鍛練を今でも続けている事を。
隣で合掌している巫女兎は何を母さんに報告しているのだろう?
チラッと彼女を見てみるけど、分からない。
彼女が眼を開けたのと同時に移動し、次に「姫神家之墓」と書いてあるおじさんとおばさんのお墓参りをする。
合掌している巫女兎はいつもより少しだけ大人びて見えて、いつもと違う魅力を感じた。
俺はそんな彼女の両親に「巫女兎は何があっても護って見せますから、どうか安らかに眠ってください」と心の中で言って合掌する。
やっぱり、さっきと同じくらいの時間を掛け合掌した彼女は満面の笑みで
「そろそろ、次の場所に行きましょ?」
「次ってどこだよ?」
「それも着いてからのお楽しみ♪」
巫女服を翻し、俺の手を握るとゆっくりと歩き始めた。
俺はそれに黙って従う事しか出来なかったけど、十分幸せだった。
それにしても彼女はいったい何を考えているんだ?
お墓参りを終えた俺たちが次に向かった場所は俺たち二人にとって庭みたいな所で俺の家以外で最もよく来た馴染みのある建物――姫神神社だった。
「懐かしいな、ここ」
「当たり前じゃない! いったい何年来てないと思っているのよ」
この神社は4人(?)の守護神と絶対神を祀っている神社で巫女兎の実家。
巫女兎の両親が死ぬ前はここに彼女は住んでいたけど、今じゃ彼女が使役している幻獣――ユニコーンとペガサスそれにグリフォン――がここを護っている。
ここに来たのは十二年ぶりで、彼女が今でも結界を張っているからか外観がとても綺麗だ。まるで、ここだけ時間が止まっているかのように。
「初めて、護と逢ったのはここの本殿だったわね」
「俺のほうが三ヶ月くらい上だけどな」
小さい頃はこの本殿でよく遊んでいた。巫女兎の母さんは見たことないけど、父さんは俺に「巫女兎と仲良くしてくれてありがとう」と言っていたのを覚えている。
それが彼女の父さんが俺に言った最後の言葉だったから……。
デートというよりも縁の場所を巡っているだけのように感じているが、それは彼女があえてそうしているのだろう。
「久しぶりに参拝していく?」
「そうだな。次、いつ来るか分からないからな」
そう言って俺たちは参拝した後におみくじを引いた。
もちろん、ここの現当主が俺の隣にいるからおみくじ代は無料で引くことができる。
俺が引いたのは
「げっ! 大凶じゃん。巫女兎、お前のは?」
「あたし? あたしは……大吉だよ! 護も運がいいじゃない大凶を引くなんて」
「どこが?」
「大凶なんてなかなかでないんだから。それだけ、普段の行いがいいんじゃない?」
彼女がそう言うのなら俺は運がいいのだろう。
俺はこのおみくじをそっとポケットに入れると自分から巫女兎の右手を握る。
「っ! どうしたのよ! 急にあたしの手を握るなんて」
「別に。ただ握りたくなっただけだ」
恥ずかしさのあまりぶっきらぼうに答えてしまったが、それでも良かった。
巫女服を着ている彼女が久々に自分の実家に帰ってきたのだからもっとゆっくりしていきたかったし、この瞬間が少しでも長く続けばいいと思っていた。
「…………」
「…………」
沈黙がすごく重い。
お互いに手を繋いだまま顔を背けているから、何について話せばいいのか分からない。
俺は勇気を出して話をしようとしたときに
「護は何をお願いしたの? この世界の神様に」
「答えられるわけねぇだろ! 言った時点で叶わなくなるから。そう言う巫女兎は何をお願いしたんだよ?」
「ひ・み・つ♪ 護と同じ理由でいえないわ」
俺は少しだけ残念に思ったけど、それは巫女兎も同じだろう。
巫女兎と幸せに過ごせますように……。
なんてお願いしたといったら俺はどうなるのだろうか?
少し脅えつつ、俺たちは次の目的地に歩いていく事にした。会話から約一時間後に。
俺が次どこに行くのがわからないことをいいことに散々振り回した巫女兎は、町にあるレストランで食事をすることにしたらしい。
流石に俺もおなかが空いていたのでちょうどいい時間だった。
「こんな所で仲良く食事ですか? 武聖四神様」
「あれ? お前こそここで食事か? ジース」
「私の事忘れてないわよね? ナイト様」
俺たちが会ったのは、天界魔術師のジャスティン・A・スカイと錬成魔術師の創麗 美生のカップルだ。
二人とも完全に巫女兎の事忘れている。俺の隣で彼女が今にもここを「イクス」でフッ飛ばしそうなくらい、どす黒いオーラを身に纏っている。
とりあえず触らぬ神に祟りなしと言うから触れないで置こう。
天界魔術師のジャスティンは名前が長いから皆ジースと呼んでいる。そんな彼の顔はものすごくイケメンで俺なんかが敵わないくらいかっこいい。体型もかなりの筋肉質で無駄な脂肪はほとんどついていないのに、マッチョには見えない。剣以外の全てにおいて俺よりも遥かに上を行くやつだ。
錬成魔術師の創麗 美生は少しだけ幼さが残る容姿をしていて、体系が巫女兎と正反対。ものすごいジースにべったりくっついている。それも、ジースがロリコンかと思わせるくらいに……。
さて、彼女の紹介もいいけど錬成魔法について説明しないと。
錬成魔法というのは道具の生成と修理を司る魔法でこの魔法がなければ今のアスファルバインはないだろう。生活のほとんどがこの魔法に頼っているのが現実だ。普通の人は絶対に錬成魔術師に頭が上がらない。
そんなやつらがここにいるということは……
「デートだよね、美生」
「そうよ、それが何なの? 巫女?」
また、始まった……。
俺とジースはすぐ近くの席に座るとどうすればこの二人が仲良くなるのかを考える。
「この二人に共通するのは何だと思う?」
「何にもないんじゃないか? それこそ、海の中で宝石を見つけるような難しさだと思う」
ため息を付いて彼女達を見ると
「どうしていつも私達の邪魔をするのよ! この兎!」
「それはこっちのセリフよ! そんなにあたしと護が嫌いなの!?」
二人とも魔方陣を展開して何かしようとしているが、巫女兎は不正が嫌いなのか錬成魔法で応戦している。冥界魔法を使えば簡単に勝てるのに……。
このまま放って置くと店に迷惑がかかると判断した俺たちは二人を羽交い絞めにして別々の席に座らせる。当然俺とジースもそれぞれ別の席へ。
「なに食べるよ?」
「何でもいいわよ!」
「機嫌直せよ……。そうだ! 俺がこのレストラン内だけ一つだけおまえの言う事を聞いてやる。これでどうだ」
瞬間的に彼女の眼の色が変わる。
少し驚いたがそれだけじゃなかった。
「言ったわね! じゃあ……あたしが注文した料理を食べさせて♪」
完全に墓穴を掘った……。
後悔先に立たず、だな。
俺はハンバーグとライスを彼女は俺と同じものを注文した。同じものを注文するなら頼むなよとツッコミを入れたかったけど、そんなことをしたら俺の命が亡くなりそうだからやめておく。
注文してから料理が届くまでの時間は簡単なゲームで時間潰す。
ハンバーグとライスが届くとすぐに巫女兎が
「約束よ。早く食べさせて♪」
可愛いな! この野郎!
ものすごぉぉぉぉぉく、やりたくないけど約束は約束なので腹をくくって
「ほら、あ~ん」
「あ~ん」
パクッ
彼女は幸せそうにハンバーグを食べると
「護も、あ~ん」
クソ! これ、俺もやらないといけないのか?
やる側ならまだしも食べる側になるとものすごい羞恥心が俺の中に芽生える。
しかし、それでも男にはやらないといけないときがある!
「あ、あ~ん」
少し躊躇いがちに食べる巫女兎がくれたハンバーグはメチャメチャ美味しい。彼女もこの美味しさを感じているのだろうか? もし、感じているのならもうちょっとだけやってやろうかな?
「美味しい? 護」
「ああ、美味いよ。巫女兎は?」
「ものすごく美味しい。今まで食べたどの料理の中デモね!」
俺たちは周りにバカップル振りを見せながらハンバーグを食べた。
「ジース、あれどう思う?」
「ものすごい二人だよ。あれで付き合っていないって言うのだから」
食べ終わった後やはりと言うかなんと言うか喧嘩を始めた二人を何とか宥め、ジースと創麗と別れた俺と巫女兎は近くの武器屋で俺の刀を選んでいた。
「これなんかいいんじゃない?」
「そうか? ちょっと切れ味が悪そうだな、これ」
刀を選んでいる理由は簡単で龍爪牙が抜けないからだ。抜けない刀はただの役立たずと同じだからな。
どうすれば、抜く事ができるのだろうか? この龍爪牙は……。
もうちょっとマシなやつは無いのかと探していると、龍爪牙に鞘が似ている刀を見つけた。その刀の鞘は白くてものすごく綺麗な輝きを見せていた。
「これがいいな。巫女兎、この刀ものすごく綺麗じゃないか?」
「確かに……。これがいいんじゃない? 最後に決めるのは護だから護が決めてね」
無責任だな……。確かにさ、最後に決めるのは俺だけど。
この刀に見蕩れた俺は咽から手が出るほど欲しくてたまらない。
「すいません! この刀の名前と値段を教えてください!」
「え~とですね、この刀の名前は白虎爪牙という名前で三刀神のひとつです。お値段のほうは……百万フリーですね」
フリーというのはこの世界でのお金の単位だ。しかし、百万かどうしようかな……。
「すいません、あたしの彼は武聖四神のオーディンであたしは錬成魔術師なんですけど、もう少し安くなりませんかね?」
思った以上に巫女兎は腹黒いな。
俺が言わないで置いた事をさらっと言うなんて……。この肩書きをいって買うのはなんか反則的な気がするのだけど安くするためなら仕方ないか。
「分かりました。では、十分の一の十万でどうですか?」
かなり安くなったなっ! おいっ、これはいったいどういうことだ!
彼女は彼女でやったね! という顔をしている。
ここまで安くしてもらったのだから買わざるをえないな。本当に。
「買います。会計お願いします」
俺は懐から財布を取り出すと十万フリーを置く。
白虎爪牙は三刀神の内の一本だといっていたな。他の二本は何なんだろう?
少し疑問に思った俺は思い切って店員さんに訊いてみることに
「三刀神ってこの刀以外に何があるんですか?」
「他に確か……龍爪牙と戦神オーディンが使っていたといわれる黒刃剣ですかね。龍爪牙はこの世界で最初の錬成魔術師が作ったと言われていて、切れ味が三刀神で一番といわれています。黒刃剣は三刀神の中でも扱いやすさが白虎爪牙は美しさが一番といわれています。まぁ、白虎爪牙以外見たこと無いんですけどね」
俺はかなりいい買い物をしたんだな。ちょっと得した気分。
巫女兎に感謝しつつ、俺たちは家に帰ることにした。
家に帰り、巫女兎が作る夜ご飯――炒飯とフカヒレスープ――を食べさせあっている。(巫女兎がもう一度と五月蝿かったから)
俺は彼女が作ってくれたことに感謝しているから断れない事をいいことに、要求してきたので性質が悪い。
「なぁ、巫女兎。美味しいのは分かったから終わりにしないか?」
「だめよ! 食べ終わるまでやるんだから!」
俺はため息をついて、諦めてそれに従うことにする。
炒飯を蓮華で救って「あ~ん」を要求する彼女はとても可愛いけど、それに騙された俺はどれだけ愚かなんだろう……。
まぁ、幸せそうに微笑んでいるから良しとしますか!
俺は今日一日とても楽しく、面白かったし巫女兎の新しい一面を見れた気がしたので、俺は今日一日の出来事に感謝しながら夕食を食べ続ける事にしたけど……。
「少し顔色悪いけど、大丈夫?」
「心配すんな! 大丈夫だからさっ!」
「なら良いんだけど……」
少し食べ過ぎてしまったから気分が悪い。
心配してくれるのはありがたいけど、その原因が彼女だと思わせたくないから、頑張ってみるが流石にもう限界だな。
彼女も察してくれたのか、炒飯にラップをかけて冷蔵庫にしまっている。その代わりフカヒレスープは俺に飲ませる。
頑張ってそれを飲み込むとゲップをし、それから「ごちそうさま」と伝える。
彼女は笑顔で「お粗末さまでした」と答えると空になった自分の皿を片付け始める。俺は少し情けなく感じてしまう。
ふらふらと部屋に向かう俺の肩を持ってくれる彼女の存在はとてもありがたいもので、これだけはこの世界の神様達と俺自身の運命に対しての感謝の思いでいっぱいだった。
「ねぇ、護。今夜久しぶりに一緒に寝ない?」
「お、おお、お前。何を言っているんだ?」
事の経緯が良く掴めない。
俺はどうしてここにいるんだ?
自分の部屋に向かっていたはずだが……巫女兎に肩を持ってもらって着いた先がここなのか?
好きな人と寝るのは嬉しい事極まりないが、順序というもの踏んでからやったほうがいいと思う。
食器を洗い終えた巫女兎は俺を心配してくれたのか、わざわざ部屋に来て開口一番に言ったセリフがあれだったら動揺以外反応の仕様が無い。
俺はどうしようか悩んでいるにもかかわらず、彼女は自分の体を俺の腕に引き寄せる。柔らかい二つの果実が当たってしまい、思考停止。
「黙ってるってことは一緒に寝てもいいんだよね!」
これ、確実に狙ってやったな!
女の武器を最大限に活かした攻撃でKOされた俺に、無理矢理認めさせる作戦に出たらしい彼女はカチンコチンに固まっている俺を引きづって両親が使っていたベットに横にさせられる。この寝室は入室禁止だったから一度も入ったことが無い。そんな場所をどうして彼女が知っているのだろうか?
「さっ! 早く寝ましょ?」
「はいはい。寝ますから大人しくして下さい。プリンセス」
どうやら一緒に寝る以外の選択肢は頭の中に表示されないらしい。それどころか、彼女も一緒に寝る気満々だからどうすればいいのか分からない。俺の腕をがっちりと掴んでいるし……。
半ばヤケクソ気味に
「電気消すぞ!」
「分かったわ。おやすみ、護」
「ああ、おやすみ。巫女兎」
しんしつのドアをしめた後、彼女の隣に戻り寝る事にする。
寝ている間も俺の腕を抱いていそうだな、こいつは。