巫女兎 零
護が鍛練をしているとき、あたし――姫神 巫女兎は自分の部屋の窓から彼の様子を見ていた。
小さい頃からやっている鍛練は本当に厭きないのかしら?
基本的に斬・突・抜刀の三つで構成されているこの鍛練は、彼の母親が毎日やっていたものと同じで刀と一緒に遺してくれたものだ。
シュルシュル。
あたしは巫女服に着替えるために、小袖の帯をはずす。
護はいつもこの服を着ていて不便じゃないのかと言っているけど、あたしからすればこの服じゃないと外に出る事ができない。
姫神家は代々この世界――アスファルバインの神を祀る神社を護っているのだから、この巫女服こそがあたしの正装。
護はいつだってあたしのことを考えてくれる。
あたしより小さいし、乳製品は食べようとしない。護自身は小さいほうがいいと言っているけど、あたしはあたしより大きいほうがいい。
彼が小さい理由は剣のために鍛えられている筋肉が原因。
小さい頃からやっているのだから、その筋肉量は同い年なら絶対に負けないに違いない。
彼から剣を取ってしまったら何が残るのだろう?
巫女服に着替え終えたあたしはそんな事を考えてから、護がまだ鍛練をしているのを確認して部屋を出た。
護の起きる時間が朝の五時半。あたしはいつもその三十分後に目覚める。
着替えるのに時間がどうしても掛かってしまうから、早く起きないと護の朝ご飯を作ることができない。
あたしはエプロンを巫女服の上から着けて、白米が炊けているのを確認すると火をつけて味噌汁を作る。
信条家の朝ご飯は白米に味噌汁、焼き魚と浅漬けの四品。
いい加減パンにすればと思ってしまうけど、これは信条家の伝統らしい。
よく覚えてないけど、姫神家もそうだったのかもしれない。
おばさんが亡くなるまでの四年間であたしは料理というものを覚え、作れるようになった。今の生活があるのは、おばさんとおじさんのおかげなのかもしれない。
調理するときはいつも護のことを考えながら作る。
あたしが初めて作った料理――カレーライスを食べ、彼は美味しいと言ってくれた。
あたしはその事がものすごく嬉しくて、嬉しくて仕方なかった。
それ以来あたしは毎日彼のご飯を作っている。
作って食べる度に彼は「いつもありがとう。めっちゃ、美味い」なんてことを言う。まるで、新婚夫婦じゃない!
新婚……あたしと護の未来だといいな。
昔から変わらない彼が好きで、大好きで、世界中の誰よりもあたしの事を考えてくれる彼はあたしだけのヒーローだ。
自分の頭の中を護で埋め尽くしながら、魚(今日は鮭)を焼き、味噌汁を取り分け、キュウリとキャベツの浅漬けも取り分ける。
近くにある時計を見て、後三十分もすれば護の鍛練が終わるなと思い、急いで朝ご飯を完成させる。
テーブルに朝ご飯を並べ、護が帰ってくるのを待つために玄関に向かう。
護のバカ!
あたしの気持ちも知らないで!
先にお風呂に入ってくるなんて……と憤慨してから、あたしは鍛練していたからしょうがないと思ってしまう。
彼は二十分で上がる事を約束してくれたから、許す事にする。あたしとしては今すぐに朝ご飯を食べたかった。もちろん、護と一緒に。
暇になった二十分であたしは彼の部屋に行っておばさんの遺品――龍爪牙という刀――を見てみる。
鞘にいる龍はすごく綺麗で強そう。
刀を抜こうとするけど、抜く事ができない。いや、これは『できない』じゃなくて『抜けない』と結論付けたあたしは龍爪牙をもとあった場所に戻す。
刀身も見てみたかったけど、今度、護に見せてもらうことにする。
ここから戻れば護がいるかな?
あたしは護の部屋の探索を終わりにして、リビングに行き彼を待つことにした。
いるといいな~。
ちょうどお風呂場を通りかかった所で風呂上りの護と会う。
行き先は同じだから、二人で一緒にリビングに行く途中で、あたしは前々から訊いて見たかったことがあったから、訊いてみる事に。
「護はあたしの事どう思っているの?」
彼はかなり驚いた表情であたしを見ている。あたしはあたしで質問の答えが気になるから彼を見つめる。だんだんと彼の顔が赤くなっているけど、何かあったのかしら?
そう思っていると、
「ただの幼馴染だ。それ以外のなんでもないだろ?」
あたしは驚愕した。何が起きたのか分からないあたしは無意識の内に「そうだったのね。護にとってあたしはただの幼馴染か……」と呟いていた。
彼にとってあたしがただの幼馴染なら、それ以上の関係にしてやろうと決意したあたしはリビングに着いた後の行動を考える。
覚悟してなさい! 護!