第9話:若頭は出張帰りでした
9月のはじめに9話を投稿できて嬉しいです ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
すいーつ道の扉が開き、アキラと共にガタイの良い男が入ってきた。鋭い目つき、無骨な背中。だが背負っているのは土産物の紙袋という、妙にアンバランスな姿。
彼こそが、アキラの父であり桜道組の若頭・藤吉大雅だった。
「よう、みんな!」
「タイガぁぁぁーーーっ!!」
真っ先に飛びついたのはリュウジだった。
「お前、無事でよかったぜ! 寂しかったんだよ、もう! いや仕事任せたの俺だけどさぁ!」
「……やっぱりリュウジさんと父さんって仲が良いですよね!」
「ああ、若え頃からの友達だからな!」
「付き合いが長いだけで、俺は部下なんですがね。」
「うんうん、それだけ信頼しているということですかぁ!」
(立場とか関係なくイチャコラしてるBL作品、今度探そぉ〜)
そこへ、他の桜道組の構成員たちが次々とやって来る。
「お帰りなさいませ、タイガさん。」
ウメムラも深々と礼をするが、口元には抑えきれない笑み。
店内は一気に賑やかな空気に包まれた。
ーーーーー
「で、父さんの出張って……何やってたんですか?」
アキラが問いかけると、横からリュウジが胸を張って答えた。
「そりゃあもちろん! タイガには敵対組にスパイに行ってもらってたんだ!」
「スパイ……!」
アキラが息を呑む。
「詳細は後で話すさ。……それより、アキラ」
タイガの目がぎらりと光る。
「お前、どれだけ強くなった?」
「は?」
「丁度いい。訓練試合だ。リュウジさん、どこか良い場所ないですか?」
「ああ、しばらく使ってない武器庫があるぞ!」
「よし来た。さあ行くぞ、アキラ!」
「怪我とかしたくないんですが?」
ーーーーー
桜道組の古びた武器庫。今は武器を撤去され、がらんどうのコンクリートの箱だ。だが柱や鉄骨、工具の残骸など、障害物は多い。
「ルールはなしだ。掛かってこい、アキラ」
タイガが腕を組み、真正面から立つ。
アキラは一瞬だけ深呼吸し、鋭く踏み込んだ。
「……ッ!」
父を相手にした初撃はナイフを想定した手刀。タイガは片腕で受け止め、無駄なく払う。
「悪くない」
アキラはすぐさま床を蹴り、鉄骨を利用して高く跳び上がった。壁を蹴って角度を変え、タイガの背後へ。
「後ろだ!」
だが振り返りざまの拳に、アキラは咄嗟に柱へしがみつき回避。柱を蹴って勢いを乗せ、飛び膝蹴りを繰り出す。
「おおっ! 環境利用してる!」
見学席のリュウジが叫ぶ。
「反射速度も以前より向上しておりますね」
ウメムラは冷静に分析する。
衝撃音が響く。膝蹴りをタイガが腕で受け止め、そのまま力任せにアキラを床へ投げ飛ばした。
「カハッ……!」
背中を強かに打つも、アキラはすぐ転がって距離を取る。汗が額を伝う。
「いいぞ。前の甘さは消えた」
大雅の声はどこか嬉しそうだ。
「娘を相手に手加減もなしかよ…!」
「少しでも手を抜けば、お前に叩きのめされるだろうからな。」
ーーーーー
数分に及ぶ攻防の末、試合は大雅の一撃で終わった。
だがアキラは立ち上がり続けた。息は荒いが、その瞳に折れはない。
「はぁ……まだ動けます。」
「もういい。お前の成長はわかった」
タイガは両腕を下ろし、ようやく試合を終える合図をした。
「リツ様は元気か?」
不意に投げかけられた問いに、アキラは驚いた顔をした。
「あー、元気だよ。……父さんに心配されなくても大丈夫だ。」
「そうか」
タイガは僅かに目を細め、そして真っ直ぐ娘を見た。
「前よりも強くなったな」
「……父さん、おかえり」
アキラの声には、幼い頃の響きが残っていた。
「ただいま」
タイガは短く返し、娘の頭を撫でた。
ーーーーー
その夜、すいーつ道の控え室。
タイガ、リュウジ、ウメムラの3人が卓を囲んでいた。
「さて……報告です。」
タイガは低い声で切り出す。
「御二人もご存知の通り、俺が潜り込んでいたのは――椿影組。」
空気が張り詰める。
「収穫は大きいです。我々を狙う組織の中枢に、ボスがいることはわかっていたが……ようやく名前を掴みました。」
タイガは一拍置き、口元を歪めた。
「通称 “影纏う絶刀”……
――本名は『椿影 夜刀』です。」
「それが、黒幕の名………。」
リュウジが珍しく真剣な声を漏らす。
「…とうとう、来たか。」
ウメムラもまた表情を引き締める。
「動乱の幕明け、ということですね。」
こうして桜道組に、最大の脅威の影が迫り始めていた――。
読んでくださりありがとうございました!




