第7話:ついに来ちゃった幹部さんでした
未成年による暴力描写(?)の場面があります。
その辺りがよくわからなくて申し訳無いです。
夜の報告会の翌日。
空はよく晴れ、校門前には生徒たちのざわめきが満ちていた。
リツとユウが連れ立って登校する。今日は、いつも一緒に登校しているアキラがいないようだ。
「あ〜、忘れ物しちゃった! 2人で先に学校行ってて!」
そう言って来た道を戻っていった………かのように見えたが、実は距離を取って後ろからリツ達の周囲を見張っていたのだ。
(よし、ここなら若様たちに何かあっても対応できるぞ。……敵の狙いは“刹那の眠らせ屋”。つまり私だ。ボディガードの身ではあるけど、むしろ私が近くにいたほうが危険かもな…。)
彼女は隠し持っている武器を確認しながら、カバンや内ポケットなどにセッティングしていった。
(念の為持って来たナイフと爆弾、銃はカバンに入れておこう。ポケットには入らないし。)
随分と物騒な物を学校へ持ち込もうとしているが、大丈夫だ。誰にも気付かれてはいけない状況での戦闘にアキラは慣れているので、武器が見つかることは無いだろう。
「今日は荷物検査の日だぞ〜。お前ら、教室行く前にカバンの中身出して見せろー。」
(………あれ先生じゃね?)
全然大丈夫じゃなかった。
(もう物陰から離れて歩き出してるんですが? 教頭の視界に入ってるこのタイミングで隠しに行くのは怪しまれるよ?)
アキラは咄嗟に武器を上空へ投げ捨てた。それはもう残像すら残らないスピードで投げた。天高く打ち上げられたそれに気づけたのは、おそらくリュウジとウメムラの2人だけだろう。
「ふむ。あれはアキラ殿のお気に入りの武器たちだったはずですが……。」
「トドメ用として重宝していたよな…? 強敵に狙われているようだが、持っていなくて良いのか?」
……荷物検査は無事に突破できたのだった。
ーーーーー
チャイムが鳴り、授業が始まる。
ユウはいつも通り 眠たそうにしており、リツは真剣に教師の話を聞いている。
アキラも珍しく真面目にノートをまとめていたが、突然、そのペン先が止まった。
(殺気、、、1人じゃない………?)
次の休み時間、彼女は静かに姿を消した。
ーーーーー
校舎裏の植え込み。
人目の届かないそこに、制服を着た男が背を預けていた。
「あのぅ〜……。あなた、学生のフリ下手すぎません?」
男が振り向いた瞬間、肘で鳩尾を突き、気絶させる。
続けて二人目。廊下に紛れていた影に向かって吹き矢を突き刺し、呻き声もなく崩す。
三人目は屋上から覗いていたが、アキラが投げた小石が正確に額を打ち抜き、あっけなく倒れ込んだ。
「ふふん、これでスッキリしましたね!」
――その直後、冷たい声が背後から降る。
「なるほど。これが“眠らせ屋”の手際、か」
アキラの振り返った先に立つのは、見知らぬ男。
黒い着物を羽織り、長身で鋭い目。
だが何より異様なのは、彼の周囲に漂う“静かな殺気”だった。
「……誰です?」
「椿影組、幹部の一人――“真打のカゲロウ”だ。」
彼の口元に浮かぶ笑みは、挑発とも冷笑ともつかない。
アキラは小さく舌打ちした。
「で、幹部さんがわざわざ来たってことは……本気で試す気ですか?」
「試す……そうだな。俺に課された役目は、お前の力量を確かめること。ただし――殺す気はない。」
「ふーん……優しいですねぇ。殺す気満々のオーラ出してるくせに。」
次の瞬間、空気が張り詰めた。
カゲロウが一歩踏み込むと同時に、アキラも地面を蹴る。
金属音が響く。
アキラのコンパスが、カゲロウの仕込み刀とぶつかった。
「速いな」
「……あざっす」
互いに一合だけ交え、すぐ距離を取る。
アキラの額に汗が滲む。
(今までの雑兵とは全然違う……。こいつ、面倒だなぁ。)
だが、カゲロウは追撃してこなかった。
刀を収め、ふっと笑う。
「――今日はこれで十分だ」
「は? 今の一瞬で何が分かったっていうんですか?」
「分かるさ。“眠らせ屋”の匂い……まだ底を隠しているな。」
カゲロウは踵を返し、屋根伝いに去っていく。
「次は甘く見ないことだな。」
その言葉だけを残し、闇に消えた。
「……お疲れさんでーす。」
鼓動がまだ速い。
だが同時に、胸の奥で熱く燃えるものがあった。
(幹部……カゲロウ。次は本気で来る。)
ーーーーー
放課後。
事務所に戻ったアキラは、ウメムラやリュウジに報告した。
「……なるほど、“あの方”とはそやつのことでございますか。」
「はい。真打カゲロウ……一瞬でもわかりました。あいつ、雑魚とは次元が違う」
深刻そうな顔で話していた彼女だったが、急に表情を変えて交渉しだす。
「ところでリュウジさん!うちの組の仕事って武器の流通でしたよね?」
「それがどうした?」
「……なにか武器を支給してください!」
「…もう失くすなよ。」
「さっすが組長!!」
「それならついでに、私の調理用ナイフも頂きたく存じます。」
「組長ね、調理用は武器庫に無いと思うんだ?」
ーーーーー
すいーつ道にリツが訪ねてくる。
今朝のアキラの様子に気付いていた彼は、アキラに声をかけに来たのだ。
「お前今日の朝、また俺らと距離取って見てただろ。小学生の時みたいに。」
「仕方ないじゃないですか! 最近は若様より私の方が狙われてるんだから、近くにいると危険なんですよ!」
アキラは俯いてしまった。多少は寂しい気持ちがあるのだろう。
(……私だって2人のじゃれ合いを近くから見たいに決まってんじゃねぇかァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ー!)
若様。こいつとは距離を置いた方が良いかもしれん。
「…お前なら平気だろ?」
「……へ?」
アキラは顔を上げた。
「せっかく仲良くなれたと思ったのに、急に避けられるのは嫌だ。 朝だけは一緒に行こうって約束したの忘れたか?」
「すみません忘れてました。」
「…まあ良い。登校中は俺も警戒しておくから、大丈夫だから一緒に行こう。いざって時は、お前が護ってくれるんだろ?」
「若様ぁ〜!!」
「それに実際、どんな建物よりもお前の近くが一番安全だからな!」
リツは数年間一緒に過ごしてきたアキラの事を、友達のように思っていた。
「一生ついて行きます!!」
「はは、凄くヤクザっぽいセリフだな。」
「ええ、ヤクザですからっ!」
読んでくださりありがとうございました!