第4話:桜と椿、交わらぬ道でした
最強腐女子が活躍する「日常×裏社会コメディ」。
シリアスな要素もありますが、全体はコメディタッチで描かれています。気軽にお楽しみください!
駅前の賑わいから1本外れた細い路地裏。アキラは頭をフル回転させて全力で考えていた。
この状況から一番早く帰ることのできる手段を!
(えーっとまずは正面のコイツを殴って気絶させて右の細身は背後から首を極めて…いや、左のヤツは逃げ足速そうだし面倒だから先にこっちを沈めるべきかなぁそしたら残りの2人には膝蹴りをお見舞いして――)
1秒も経たないうちに、脳裏で敵を倒す順序をシミュレーションする。イメージの中では既に5人を無力化していた。
…しかし実際に動けば、目の前の紙袋は犠牲になるだろう。
(買い出しで頼まれた生クリーム……落としたら泡立たないじゃねえか!!ったく、急いで帰って自分時間を楽しもうと思ってたのに!めんどくさいな!)
すると、彼女の様子を見ていた先頭の男がニヤつきながら言った。
「おーおー、ビビって必死に逃げ方考えてるんじゃないの?」
「あぁ、すんませんねぇ。そっち5人、こっち1人。ま、計算するのは当然でしょ。」
アキラは軽口を返す。
「フン、随分と余裕だな。女の子供が1人で立ち向かえるとでも?」
「立ち向かう気はないんだよなぁ〜…。私はただ、材料持って帰ってお菓子食べたいだけで。」
「はは、ヤクザがお菓子だとよ!桜道組ってのは呑気なモンだな!」
男たちがどっと笑い声をあげる。だがアキラの目だけは、笑っていなかった。
アキラはゆっくりと路地の脇に腰を落とし、地面に転がる石を摘み上げた。男たちの拳くらいの大きさはあるだろう。
彼女が指先に力を込めると、
―バキッと音を立てて、その石は一瞬で粉々になった。
男たちの笑い声が凍り付く。
「…………」
「て、手品か?」
「いや…今の音、本物だぞ……」
アキラは砕け散った石の粉を、風に払うように指先から離した。そして無邪気な笑みを浮かべる。
「安心しなよ。今日はスイーツ優先だから、アンタら潰す時間はない。」
沈黙を破ったのは、後方に控えていたリーダー格の男だった。
「……まあ、今日は顔を見に来ただけだ。桜道組の小娘、腕前は確かに聞きしに勝るな。」
男は薄笑いを浮かべたまま、踵を返す。
「次は甘く見ないことだな。……刹那の眠らせ屋。」
その一言を残し、敵対組の一行は闇に消えていった。
アキラはようやく大きく息を吐く。
「……ふぅ。危なっかしいったらない。マジで紙袋守るのに必死だったわ……」
胸を撫で下ろしながら、彼女は足を速めた。
ーーーーー
事務所にて
「ただいま戻りましたー!」
『すいーつ道』のドアベルが鳴り、アキラが紙袋を掲げて入ってくる。
「おぉ、ありがとうございます! これで試作品が作れる!」
ウメムラが嬉々として袋を受け取った。
だがアキラは、冗談めかした顔をすぐに引き締める。
「……ところで。帰りに敵対組と鉢合わせしました。」
「………椿影組。やはり動き出しましたか。」
「椿影組?」
アキラが首を傾げると、ウメムラは頷いた。
「桜の名を掲げる我らにとって、椿は常に影となる存在……。桜道組が勢力を伸ばすほど、あちらも動かざるを得ないでしょう。」
アキラは内心でぞくりとした。敵はすでに、ただの挑発以上の意図を持って近づいてきている。
そこへリュウジも現れた。スーツ姿のまま、真剣な眼差しを向ける。
「数は?」
「五人。戦闘にはならなかったですけど、顔は完全に割れましたね。次は、甘く見ないことだって。」
「……なるほどな。」
リュウジは一瞬考え込み、それからいつもの調子でふっと笑う。
「まあ来るなら来い、だな!」
その気楽な言葉に、アキラもつい吹き出してしまう。だが、胸の奥では確信していた。
――椿影組との衝突は、もう避けられない。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
次回はちょっと雰囲気を変えて、アキラたちの学校でのお話になります。
明日の21:10に投稿するので、もしよければ読んで欲しいです!