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第2話:シェフはベテランの若頭補佐でした

最強腐女子が活躍する「日常×裏社会コメディ」。

妄想以上 BL未満のシーンがあります!

 ここは、駅前の人気スイーツ店『すいーつ道』。店内からは甘い香りがふんわり漂い、ショーケースに並んだケーキが色とりどりに輝いている。




「こちらは、本日のおすすめ 苺のミルフィーユでございます。」


 すいーつ道のシェフは、梅村うめむら 慎吾しんご。今日も完璧な料理と接客態度で、常連へとランクアップするであろうお客様を増やしている。


「おっ、ウメムラさん!ありがとうございます!」


「いえいえ。わたくしの作ったお菓子やケーキを召し上がってもらい、皆さまが笑顔になってくださることが私の幸せですから。」


ウメムラは笑顔でそう言いながら、食器やケーキを丁寧に並べていく。しかし、アキラは周りに聞こえない声で返事をした。


「……とても‘若頭補佐’の人間とは思えない発言をしますねぇ。でもウメムラさんのそういうところ、素晴らしいと思います!」


――ウメムラは、ヤクザである桜道組の人間なのだ。その中でも序列の高い若頭補佐を任されている。


「あなただって、“普通の高校生”を演じながらリツ様を護っているのです。しかも、私達は2人とも若頭補佐。」


「似た者同士ですね!」


裏社会で長年の経験を誇るウメムラと、わずか数年で若頭補佐まで上り詰めたアキラ。正反対の2人だが、今ではおじいちゃんと孫のような関係である。


「だけど、それにしたって多才過ぎるでしょ。何者なのかわからなくなっちゃいますよ。」


「基本的にヤクザ、副業でシェフを務めさせて頂いているだけでございます。」


「さらっと凄いこと言いますねぇ!いやぁ、憧れるわー!!」

(…ん?なんだか美味しい気配が……!)


ーーーーー



 少し離れたテーブル席では、リツとユウが数学の課題に取り組んでいた。


「………リッくん?お店の手伝いがあるなら、お勉強とかしなくても良いのでは…?」


「今は休憩中。それに、俺が見張ってないとユウ勉強しねぇじゃん。」


「うわーん!鬼教師ぃー!!」


「いいから問題解け〜。」



その様子を隅の席から見守るアキラ。


(うわぁぁぁ、始まっちゃった! 若様がユウくんに勉強教えてる……!! しかも距離近い! これ、絶対『家庭教師ものBL』展開だよ!)


目を輝かせながらミルフィーユに手をつけるフリをして、心の中で叫ぶ。


「この式が分かれば、次は余裕だよ」


「ちょ、ちょっと待ってよ……。あっ、これリッくんの消しゴムか。」


(はい来たーー!! 手、重なっちゃうやつ! ユウくん照れてるんじゃないの?いやコレ尊い……!!)


 リツとユウにとってはただの自習時間。

だがアキラにとっては至高のワンシーンである。


ーーーーー



そのとき、店のドアが開いた。


「……リツ」


「親父!」


 現れたのは桜道龍司おうどう りゅうじ。桜道組の組長にして、リツの父である。

黒いスーツに身を包み、鋭い眼光を放ちながらも、リツに視線を向けた瞬間わずかに柔らかくなる。


「ちゃんと宿題やってるのか?」


「見ればわかるだろ。今ユウと勉強中。」


「そうか。なら大丈夫だな。」



アキラはすかさず、リュウジに声をかけた。


「リュウジさん。ご報告したいことが。」


「ああ、すぐに行く。」


2人は、すいーつ道の地下へと消えていった。


ーーーーー



 このスイーツ店には、表に出ていないもう一つの顔がある。

 地下へ降りた場所にある、“控え室”。この場所こそが、ヤクザ・桜道組の事務所なのだ。

だがユウだけは、その存在をまだ知らない。彼にとってここは、ただ甘いお菓子を売る店なのであった。



夜。

部屋の壁際にはソファと書類棚、中央には大きなテーブルが置かれており、甘い匂いの残る店内とは対照的に、緊張感の漂う空間だった。


アキラはリュウジの正面に座り、真剣な面持ちで口を開く。


「……最近、事務所の近くで不審な連中を何人も眠らせました。」


「ふむ」 リュウジが短くうなずく。


「皆、桜道組の名を出されるとすぐに黙る……。ただのチンピラじゃありません。誰かが裏で糸を引いてます。」



 一瞬、室内の空気が重くなる。

 リュウジの目は氷のように冷たく、普段の柔和さを微塵も感じさせなかった。


「……リツを狙う流れが確かにある、というわけか。」


「はい。敵は、確実に増えています。」



沈黙。

アキラは拳を握りしめた。


 リュウジはゆっくりと立ち上がり、背を向けながら低く告げる。


「備えろ、アキラ。

平穏など、長くは続かん」


 その言葉が落ちた瞬間、控え室の空気は凍りついた。

スイーツの甘い香りすら、どこか遠のいてしまったように。



――だが、その沈黙を破るようにアキラは言った。


「任せてください、組長!

 だって私は、あの“刹那の眠らせ屋”なんですよ!?」


「……お前、その二つ名 気に入ってるよな。」


「はい!誰が付けたか知りませんが、命名者は仲良くなれるタイプの厨二病だと思ってます!」



リュウジは腕を組み、目を細める。


「リツを守るのはお前の役目だ。刹那で眠らせる腕、これからも存分に使え。」

「はっ。」



アキラは誓った。リツ達の平穏な日々を護ると。そして、

――自分のBL供給時間を確保することも。

読んでくださりありがとうございました!

※『すいーつ道』は桜道組が営んでいる店の名前です。


次回は、なぜヤクザが駅前スイーツ店を営んでいるのかが語られます!

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