第17話:救出戦、決行です!
椿影組のアジト内部。薄暗い廊下には血の匂いと火薬の煙が漂い、桜道組の突入により戦場と化していた。
複雑な回廊の奥で、アキラは銃を構えたカゲツと対峙する。
「……来たな」
銃口を向けられても、アキラは眉一つ動かさない。
狐の面こそつけていないが、その目は鋭く敵を射抜いていた。
「……あんたと戦うの、怖いんだよ」
「そりゃどうも」
カゲツは震える手で引き金に指をかける。だが――。
――トンッ。
一瞬の隙を突き、アキラは背後に回っていた。指先でカゲツの首筋を軽く叩く。
その瞬間、カゲツの体から力が抜け、床に崩れ落ちた。
「……!」
倒れたカゲツを見下ろし、アキラは口元を緩める。
「そろそろ“刹那の眠らせ屋”っぽいこと、しないとと思いまして」
彼女の異名の通り、一瞬で眠りへと落とす技。戦場に静寂が訪れた。
「カゲツさん」
膝をついて、髪をそっと撫でる。
敵であるはずの彼に、慈しむような声をかける。
「少しずつでもいいから、自分の意志を持って生きてください。……今までの様子を見る限り、あなたは素直な人なんでしょうねぇ。」
彼女の言葉が届くことは今はない。だがアキラは確かに願いを込めて、その場を立ち去った。
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一方その頃、別の回廊。
金属がぶつかり合う甲高い音が響いていた。ウメムラとカゲロウの死闘だ。
「お前とやるのは、何度目だ……!」
「数えるほどしかないでしょうに。……しかし、勝てませんねえ」
短刀と長刀。重く鋭い一撃が交差するたび、火花が散り、床石が削れる。
ウメムラの動きは衰えていない。だがカゲロウの間合いは絶妙で、簡単には崩せない。
「昔は……互いに決着をつけられなかった」
「今も同じですよ、カゲロウ」
互いの呼吸が荒くなる。どちらも深手は負っていない。
戦いは一進一退、まるで長年の因縁を再現するかのようだった。
「……今日こそ決着を――」
「それはお互い様です!」
再び刃と刃が激突する。
辺りには、激戦を連想させる衝撃音だけが響いていた。
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そのさらに奥。広いホールの中央で、タイガとツバサが対峙していた。
天井から吊られた裸電球が揺れ、二人の影を大きく伸ばす。
「コウジ。……いや、タイガさん、だったっけ?」
「好きに呼べ。だが父ちゃん呼びのが、俺としては嬉しいがな!」
軽口を叩くが、目は笑っていない。
ツバサの双剣が光を反射し、不気味に輝いた。
「裏切られた気持ち、わかる? 僕、あんたのこと友達だと思ってたのに」
「……悪いな。だが俺の居場所は桜道組だ。今更裏切れるかよ。」
ツバサは苦笑を浮かべ、剣を構える。
「……やっぱり敵なんだね」
次の瞬間、双剣が閃光のように走った。
タイガは咄嗟に拳で受け、火花が散る。拳と刃が正面からぶつかり合う凄絶な音が響いた。
「チッ、相変わらず硬ぇ拳だなあ!」
「そっちは相変わらず速ぇ刃だ!」
二人の戦いは激しく、ホールを揺るがした。
ツバサの剣は目にも止まらぬ速さで連撃を繰り出し、タイガは全身を盾にして受け流す。
血飛沫が舞い、床が削られていく。
「父ちゃんの拳は、人を守るためにある!」
「僕の剣は、人を終わらせるためにある!」
咆哮と共に衝突する二人。壁が砕け、瓦礫が飛び散る。
だが決着はつかない。互いの力は拮抗していた。
「……タイガ。あんたと戦うと、昔を思い出す」
「俺もだ。……だがもう戻れねえ」
その言葉にツバサは悲しげに笑う。
戦いはなお続き、次回へと引き継がれる。
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そして――。
アジトの最奥、玉座のような間。
そこに立つのは椿影組組長、椿影夜刀。
「……待っていたよ。桜道組の組長さん」
黒い外套を纏い、刀を腰に携えたその姿は、影そのもの。
ゆっくりと足音を響かせ、彼の前に現れるのは桜道組組長・リュウジ。
「夜刀……!」
「初めまして、ではないね。僕はずっと、あなたに興味があった」
二人の視線が交錯する。その空気は、先ほどまでの戦闘よりもなお重く、張り詰めていた。
剣と拳。二つの“組長”が相対し、今にも戦いが始まろうとしていた。
「リツはどこだ。あの子さえ無事に返してくれたら、俺達もお前らに手出しはしない。」
「おや、説得かい? でも残念、これからが良いところなんだよー。」
静寂。
刹那、二人の間に緊張が爆ぜ――




