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第14話:夏祭りでの大乱闘でした

 夜の商店街を埋め尽くす人波の中、祭囃子が響き渡っていた。だがその最中、乾いた銃声が空を裂いた。

 ――パァン!


 弾けるような音に、群衆のざわめきが悲鳴へと変わる。子どもが泣き、大人たちが押し合いへし合いで逃げ惑い、通りはたちまち修羅場と化した。


「……来やがったな」


 舌打ちを漏らすのは、屋台の前に立っていたタイガだった。浴衣姿に団扇という完全な一般人仕様の格好だが、その眼光は獣そのものだ。


 すぐ隣にいたリツとユウが顔を見合わせる。ユウは怯えた表情で「な、なに……?」と呟いた。



「リツさん、ユウくん! こっちだ!」


 タイガは二人の腕を掴み、群衆の流れに逆らって細い路地へと引き入れる。


「お、おじさん……あの、どちら様ですか?」


 息を切らしながらユウが尋ねると、タイガはあっけらかんと笑った。


「ああ、俺か? アキラの親父だよ」


「えぇっ!? アキちゃんのお父さん!? 全然似てない!」


「へへ、そうだな! 娘がいつも世話になってます!」



 軽く頭を下げると、真剣な目で2人に話す。


「祭りの混乱に紛れて、奴らが近づく可能性がある。俺と一緒に安全な場所まで避難しよう。」


 リツもすぐに理解し、ユウの手を握った。


「ユウ、安心しろ。絶対に俺たちが守る」


 ユウはこくりと頷くしかなかった。



―――――



 一方その頃。


「皆さん、離れていてください。ここは危険です。」


  狐の面を顔にかけた少女が、盆踊り会場の中央に現れた。人混みの中で“無明のカゲツ”と対峙する。



「……ここで暴れたら来ると思ってたんだよ。眠らせ屋の嬢ちゃん。」


「はあ、顔隠してもわかるのかよお前…。」


 カゲツは無言のまま銃を構え、次々と引き金を引く。弾丸が屋台の提灯を撃ち抜き、破裂音と火花を散らす。観客は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。


「……やっぱり銃か」


 狐の面の少女――アキラは舌を鳴らし、周囲に転がっていた射的の銃を拾い上げた。威力は比べものにならないが、当て方次第で牽制にはなる。

 カン、と音を立てて空き缶を撃ち飛ばし、彼女はその隙に屋台から焼きそばのヘラを拝借した。


「銃とヘラの二刀流……はは、なんか新しいですね!」


 額に汗をにじませながらも、市民を庇うように立ち回る。カゲツの銃弾が飛べばヘラで弾き、射的銃で威嚇射撃を返す。人々は次第に避難し、戦場には二人だけが残った。


「……悪いけど、私も引けないんです。」


 狐面の奥から睨みつけ、アキラは突撃する。

 数合打ち合ったのち、ついにカゲツの動きが鈍った。追い詰められた彼の耳に、無線の声が飛び込む。



『撤収しろ。今はそれ以上動くな』


 カゲツは苦々しい顔で銃を下ろした。


「……卑怯な真似をしてすまない」


 その一言だけを残し、夜の闇へと姿を消す。


「カゲツ……。随分とあっさり引くじゃないか…。」


 狐面を外して深呼吸すると、アキラは仲間たちを探しに行った。



―――――



 その刻、神社の裏手。


 ウメムラとカゲロウの戦いは、熾烈を極めていた。

 カゲロウは長刀を振るい、間合いを詰めては鋭い斬撃を放つ。対するウメムラは鋭いステップでかわし、拳や短刀で応戦する。


「衰えたかと思ったが……むしろ冴えているな、ウメムラ!」


「お褒めにあずかり光栄ですが……老体に鞭打つのも限界がありますのでね!」


 刃が交錯し、火花が散る。次第に優勢を握ったのはウメムラだった。

 カゲロウが膝をつきかけた、その瞬間――。




 シュッ、と影が割り込む。

 漆黒の刀を振るい、カゲロウを庇った男がいた。


「……っ! 貴様は……」


 リュウジが目を細める。


「“影纏う絶刀”――椿影つばきかげ夜刀やとう


 闇を纏ったような気配に、空気が凍りついた。カゲロウを助け起こしながら、ヤトウは薄く笑う。


「やあ、こんばんは。桜道組の皆さん。」


 リュウジが一歩前に出た。


「なぜ桜道組を執拗に狙う? お前の狙いはなんだ。」


 ヤトウは涼しげに目を細めた。


「理由なんて単純さ。椿影組を、僕のものにしたい。それだけだよ。」


 その言葉を残し、ヤトウと配下たちは闇に紛れて姿を消した。残されたのは、張り詰めた空気と、かつてないほど強大な敵の存在だった。



―――――



 敵が姿を消すと戦いの熱気が収まり、再び祭囃子が町を包む。提灯の明かりが揺れ、笑い声が戻ってきた。


 アキラが合流した頃、リツとユウはタイガに連れられて安全な場所に避難していた。そこへリュウジとウメムラも戻り、六人が顔を揃える。


「まったく……お祭りで大乱闘なんて、洒落になりませんね。」


 ウメムラが苦笑すれば、アキラが狐面をぶら下げて笑った。


「でもまあ、なんとか守れたし。よしとしましょう!」


 リュウジは大きく息を吐き、肩をすくめる。


「細けぇことは今は忘れろ。せっかくの祭りだ。楽しめ」



 その言葉に、皆が一瞬きょとんとした。だが、近くではしゃいでいたユウがぱっと笑い、金魚すくいの屋台を指差した。


「おーい! 一緒にこれやろうよ! リッくんも、アキちゃんも、おじさんも!」


 リツは照れくさそうに頷き、アキラは「金魚、怪我させずに取れるかなぁ」と苦笑。タイガとウメムラは肩を竦め、リュウジは小さく笑った。


 血なまぐさい戦いを経た直後とは思えぬほど、そこには穏やかな空気があった。

 夜空に花火が咲き乱れ、夏祭りはようやく本来の賑わいを取り戻していく。


 こうして、桜道組の面々にとって忘れられぬ「夏祭りの夜」は幕を閉じたのだった。

読んでくださりありがとうございました!

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