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第13話:お祭りは夏のビックイベントでした

昨日投稿できなかった分として本日は13話と14話の2つを投稿しようと思っているので、読んでくださいませんか(╥﹏╥)

 提灯の灯りが夜の空を染め、夏祭りのざわめきが商店街いっぱいに広がっていた。屋台の匂い、子どもたちの笑い声、太鼓の音……。その中心を、リツとユウ、そしてアキラの三人が並んで歩いていた。


「わぁ……! やっぱり夏祭りっていいねぇ。人もいっぱいだし、屋台もたくさん!」


 ユウが目を輝かせ、屋台をきょろきょろと見回す。隣のリツは、そんな彼の様子を見てふっと微笑んだ。だが、その笑顔の奥には緊張の影がある。

アキラも同じだった。楽しげな顔を装いながらも、視線は常に人混みの奥を探っている。


(……組長たちが後ろにいる。舎弟たちも一般人に紛れて配置されてるし。ユウくんは何も気づいてないけど……こっちは全然気が休まらないよなぁ)



 けれど、その一方で……


(いやでもやっぱり……。リツユウの夏祭りデートを、至近距離で目撃できるこのシチュエーション……。最高だよね! うーわぁ、カメラ持ってくるんだったな〜!)


 アキラは内心、大喜びしていた。ボディガードとしての警戒心と、腐女子としての歓喜の間で心が揺れ動いてはいるが…、やはり腐女子の思考回路の主張は強いのだ。





「なあ! これやらねぇ?」


 リツが立ち止まった射的の屋台で、アキラはすぐに乗り出した。


「おっ、いいねえ! こういうの得意なんだよー!」


 アキラが木の銃を受け取り、狙いを定める。その構えは、屋台の兄ちゃんも思わず「え?」と声を漏らすほど様になっていた。景品を見る目は、まるで獲物を逃さないとでも言うかのように冷酷だった。



次の瞬間、パン、と軽快な音と共に景品のぬいぐるみが落ちる。


「うおー! アキちゃんすごい!」


 ユウがぱぁっと顔を輝かせる。アキラは誇らしげに笑ってぬいぐるみを差し出した。


「はいこれ、ユウくんにプレゼント!」


「わーい! ありがとう! 上手なんだねぇ〜」


(へへ、推しに貢ぐのはオタクの使命ですから!)


 

横でリツが小さく呟いた。


「……こいつ、銃の扱い慣れてるもんなぁ……」


 だがその言葉は、アキラの心には届かない。今の彼女の耳には祝福の鐘しか鳴っていなかった。



―――――



 歩き疲れ、屋台のベンチに腰を下ろしたユウが、手にしたたこ焼きを頬張る。熱々の湯気に息を吹きかけながら、ふと隣のリツに視線を向けた。


「どうぞリッくん、たこ焼き美味しいよぉ。食べてみて欲しい!」


「お、おい……」


 差し出されたたこ焼きを、リツは一瞬迷う素振りを見せたものの、結局そのまま口を開けて食べた。ごく自然に、当然のように。



 アキラは完全に固まった。


(……え? は? ……公式供給!? ここで? 唐突に? え?)


 脳内に衝撃が走り、思考が真っ白になる。彼女はしばらくフリーズしていた。



「アキちゃん、なんで鼻つまんでるの?」


「ハッ無意識に!……鼻血予防?」


「なんで疑問形なんだよ」


「鼻血出ちゃった? 大丈夫?」


「まだ出てないけどこれから出るかもと思うヨ!心配しないでネ! フハハハハ」


「挙動不審!」



 楽しい時間を過ごしていた三人のもとに、不意にアキラの携帯が震えた。画面に「ウメムラ」の文字が浮かぶ。


「……っ」


 短く通話し、アキラの表情が引き締まる。彼女は、通話内容をリツに小声で報告した。


「リツ様。……椿影組の人間を見つけたそうです」


 リツの瞳が険しくなる。


 ユウの耳に入らぬよう、二人は自然な会話を装いながら言葉を交わした。


「ユウは……?」


「舎弟たちが周囲に散っています。父さんも近くにいて全体を見てるから、ユウくんと若様は大丈夫です。」



 アキラは短く頷き、ユウの肩を軽く叩いた。


「私、ちょっとジュース買ってくるね! 2人でお祭り見てて!」


「ん、わかった!」


 屈託のない笑顔で答えるユウ。その無邪気さが逆に胸を締め付ける。


 アキラはリツと視線を交わし、群衆の中へと消えていった。



―――――



 夜の商店街の奥。賑わいの中で、何やら銃声が聞こえてきた。

 アキラはまさかと思い、パニックに陥った人々をかき分け、その先にある盆踊り会場へと進む。そこに立っていたのは――


「……“無明のカゲツ”。」



 月明かりの下、無表情のまま次々と銃弾を放つ男がいた。その瞳は獲物を見定める蛇のように冷たい。

 アキラは茂みからその様子を伺っていた。


(あの人、一般市民まで怯えさせて……! でも困ったなぁ。私は大勢の前で暴れないようにって、リツ様たちから注意されてるし…。)


 彼女はどうすれば市民にバレずに、カゲツとやり合えるかを考えていた。




 一方その頃――


 人混みから離れた神社の裏手。提灯の光が途切れ、木陰に静かな影が落ちている。その中に、ウメムラとリュウジの姿があった。


「来るぞ」


 リュウジが低く呟く。その視線の先に、黒装束の男が立つ。鋭い双眸、長身痩躯。その姿を見て、ウメムラの眉間に深い皺が刻まれる。


「……貴方ですか。“真打ちのカゲロウ”。」


「久しいな、ウメムラ」


 低く響く声が夜を震わせる。


 かつて決着をつけられなかった因縁の相手。二人の視線が交わった瞬間、夏祭りの喧騒が遠のいていくようだった。


 ――こうして、夏の祭りは賑わいの裏で、新たな火蓋を切ろうとしていた。

読んでくださりありがとうございました!

14話を今日の21:00に投稿するので、もしよかったら読んで欲しいです m(_ _)m

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