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第11話:狙撃未遂事件でした

 体育館の床に響くボールの弾む音。バスケットシューズのキュッと鳴る甲高い音。放課後の校舎は静かだが、ここだけは熱気に包まれていた。


「リッく〜ん、パスちょーぉだい。」


「おう」



 ユウが伸ばした手に、リツの正確なパスが飛ぶ。瞬時にシュート体勢に入り、ボールはリングに吸い込まれた。歓声が仲間たちの間から上がる。


 その光景を、体育館裏の非常口近くからアキラが覗いていた。

 彼女は壁にもたれ、じっとコートを眺めている。


(バスケ部か〜。青春って感じだなぁ!……なんかユウくん、喋り方はふわっとしてるのに試合中はガンガン攻めてておっかないんだよなぁ…。この私でも“攻め”というワードがBLへ発展しない程に……)


 まるでサイコパスのような振る舞いを見せるユウに苦笑しつつ、アキラはボディガードの仕事としてリツの周辺の見張りを続けた。



ーーーーー


 その瞬間、空気の緊張が変わった。

 耳にかすかに届いた「ヒュン」という風切り音。

 アキラの体が反射的に動く。


 鋭い閃光がユウへ一直線に迫る。


「──ッ!」


 アキラは手首をひねり、指先からナイフを弾き出した。金属同士が激突する甲高い音が体育館に響き、弾丸はコンクリに跳ね返って床へ転がった。



 驚きの声を上げる部員たち。しかし何が起きたのか理解できたのはアキラと、…コートに立つリツだけだった。


 リツの目とアキラの目が一瞬合う。

 アキラは鋭い視線で「隠れろ」と伝えた。



「…ユウ、相手チームに足を踏まれてなかったか? あっちで休憩しようぜ。」


「わ、ちょっと押さないでよぉー!」


 リツは即座にユウの腰に手を回すようにして、死角となる壁の陰へ連れて行く。仲間には怪我人を庇うように誤魔化し、誰にも気づかせないまま。


(…なんか、若様がユウくんをエスコートしてるみたいだ。いやあ眼福眼福……! ……狙撃さえ無ければもっと眺めていたかったよぉ〜……。)


 アキラは深呼吸し、鋭い視線を校舎の外へ向けた。




 屋上。

 遠くのマンションに反射する光。狙撃手だ。


 アキラの目が捉えた瞬間、銃口が引き戻される。バレたと悟った狙撃手は屋内へ退こうとした。


「……待てよ。」


 アキラは即座にナイフを投げ放つ。

 ナイフは金属扉に突き立ち、狙撃手の退路を阻んだ。


 体育館裏を飛び出したアキラは、マンションへ一直線に駆ける。路地を蹴り、壁を登り、手すりを踏み台にして飛び移る。俊敏な動きで、瞬く間に屋上へ駆け上がっていく。


 ついに屋上の縁を越えたとき、狙撃手が再びライフルを構えていた。


「──チッ!」


 アキラは迷わず踏み込み、銃口を掴んでへし折った。金属が悲鳴をあげて曲がる。

 敵は驚愕に目を見開いた。


「は…? 馬鹿な……銃身を……!」


「残念、私そういうの得意なんです」


 次の瞬間には、敵の腕が捻り上げられ、地面に押さえつけられていた。拳銃を突きつけられ、狙撃手は完全に動きを封じられる。


「……なぜ白石悠しらいしゆうを狙ったんですか。答えないなら眠ってもらいますけど。」


 アキラの声は低く冷たい。しかし瞳の奥は鋭く光っている。



 敵は呻きながら答えた。


「は? ……あいつも桜道組の仲間じゃないのか?」


「…………」


 その言葉に、アキラは小さく息を呑んだ。


(ユウくんが……桜道組の人間に間違われて狙われた……?)



ーーーーー


 体育館裏。


 全てを終えて戻ってきたアキラは、リツに短く報告した。


「片付けましたよ。でも、ちょっとややこしい話が出てきました。」


 リツはシュート練習しているユウを遠目で見守りながら、アキラの言葉を聞いた。


「……ややこしい?」


「敵はユウくんを、桜道組の仲間だと思って狙ったそうです」


「……っ!」


 リツの顔に影が落ちる。不安げに視線を泳がせ、自分のユニフォームをぎゅっと掴んだ。


「……桜道組と関係があるなんて思われて……ユウにまで危険が及ぶのか……?」

 

 リツは拳を握りしめ、低く呟いた。


 アキラは黙って彼を見つめる。


(リツ様、やっぱり責任感が強い……。けど……それ以上に、ユウくんを巻き込みたくないって気持ちが強いんだな……)


 夕暮れのオレンジが差し込む体育館。

 リツは、ユウを眺めながら何か考え事をしている。


 アキラはそんなリツを横目に、心の中で大きくため息をついた。


(……組長とウメムラさん、あとは父さんに報告して…、。何か対策を練らないとだな…。)



 体育館には再びバスケ部の掛け声が戻った。しかしリツの胸には重い疑問が残る。


(このままじゃ、…ユウがもっと危険な目に遭うんじゃないか……?)


 その葛藤が、彼をさらに強く縛り付けていくのだった。

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