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第1話:天才ボディガードは腐女子でした

初投稿です!

最強腐女子が活躍する「日常×裏社会コメディ」。

BL妄想あり、軽い暴力描写あり。

アキラと一緒に妄想を楽しんで頂けたら嬉しいです!

「おい、見ろよ。あそこに座ってるのって…」


 男が指をさす方向には、ベンチに座って本を読んでいる少女がいた。本はカバーで丁寧に包まれていて、大事にしているのが伝わってくる。



「あの子……。まさか、特例で若頭補佐に昇格したっていう『藤吉ふじよし あきら』か?あんな女の子が上司!?」


「俺達の所属している桜道組おうどうぐみは、実力で序列が決まるだろ?若様と年が近くて強い奴に護衛を頼んだところ、予想以上に才能があってどんどん昇格していったんだとさ。」


「若様と同い年って、加入した当時は小学生だろ。よく専属で護らせたな…。」


「あの子の父親が若頭で、組長から1番信頼されているからな。その若頭本人が鍛えた子供だ、入団した頃から活躍できる強さだったらしいぞ。」


「経歴エグすぎるだろ、”刹那の眠らせ屋“さんよォ…」




 そんな噂をされているのも知らず、読書を楽しんでいるアキラ。



―彼女は今、BL小説を読んでいた。


(やっぱり、ブックカバーを付ければ周りからバレにくいですなぁ。)


 ブックカバーを付けていたのは、几帳面な性格だから…という訳ではなさそうだった。


(外でBL読んじゃうこの背徳感!たまんねえなぁ!)


 駅前のベンチに座ってBL小説を読む変人ではあったものの、事務所を見張れる位置からしっかりと警戒はしているのだから、アキラはシゴデキ人間と評価されているのである。



(…あっ!あそこにいるのはユウ君じゃないか!若様と話してる!?……彼氏の職場に来ちゃう系彼氏か?)


別に彼氏ではないし、本人達にとってもお互いが幼馴染でしかない。


 今日も、BL展開の妄想をしてばかりのアキラと、ヤクザの事務所なのに可愛いお菓子が並んでいるスイーツ店の、忙しい日常が始まる。



---



アキラがページをめくろうとしたその時だった。


「……っと、出ましたね。」



視界の端に、見慣れない男が立っていた。

スーツの着こなしは雑、目つきも鋭すぎる。何より、こちらを凝視している視線が気に食わない。


(あれ、完全に敵対組の見張りじゃん。若様たちのとこに行かれたら面倒くさいな…)


 アキラは立ち上がりもせず、ページをめくる動作に紛れて、指先で針を取り出す。

針には淡い液体が塗られており、光を反射して一瞬きらりと光った。


(そんじゃあ、おやすみなさい――)


シュッ。

風を切る小さな音。


「……っ!?」


男は息を飲む間もなく、ベンチ脇の街路樹にもたれるようにして意識を手放した。


通行人は誰も気づかない。

男はただ「疲れて寝てしまった人」にしか見えなかった。


(よし。これで邪魔者はいなくなったっと。)


アキラは何事もなかったかのように再び本に視線を戻す。



---



「さて、そろそろ休憩タイムかな。」


 アキラは本を閉じて立ち上がり、駅前のスイーツ店へ向かった。


 店内に入ると、甘い香りがふわりと漂ってくる。ショーケースには色とりどりのケーキやマカロンが並び、ここが本当に桜道組の事務所なのかと誰もが疑うほど可愛らしい雰囲気だった。


カウンターの奥には、一人の少年が立っている。

 桜道律おうどうりつ――桜道組の若にして、現組長の息子。年齢は十五歳。短く整えられた黒髪と、切れ長の目元が大人びた印象を与えるが、まだ幼さの残る横顔は年相応の少年のものだ。


 その隣の席で談笑しているのは、白石悠しらいしゆう

 リツの幼馴染であり、彼とは違う穏やかな雰囲気を纏っている。明るい茶髪に人懐っこい笑み。彼はスイーツ好きで、よくこの店に足を運んでいた。



「おお、リッくん。今日も働いてるねぇ。」


ユウがからかうように言うと、リツは渋い顔で返す。


「働いてるっていうか、ここはうちの親父の店だろ。サボるわけにはいかねぇ。」


「でも似合ってるよ?ケーキ屋の制服。」


「うるせぇ。笑うな。」


二人の会話は、どう聞いても仲の良い少年同士のそれだった。



---



 そんな様子を眺めていたアキラの脳内は、当然のごとく別の方向に全力疾走していた。


(くぅぅぅぅ!リツ様とユウ君、やっぱり並ぶと破壊力が違うなあ!クール若様 × スイーツ男子幼馴染、これはもう王道カップリングの匂いしかしませんな!?

今の会話も絶対そう!『お前が隣にいると落ち着かねぇ』→ユウ君『え、僕もだよ』みたいなやりとりが始まるやつじゃん!!)


 

 アキラの心の中で勝手に繰り広げられるBL劇場。

現実にはただの友人同士の会話なのに、彼女の妄想フィルターを通すと一気に恋愛模様に早変わりである。


(よし、あとでこの妄想をメモに残そう…。いやもう今ここで頭の中に章立てまでできてるぞ!?)


 両頬がじわりと熱くなり、にやけそうになるのを必死で抑えながら、アキラはカウンターに向かった。


「リツ君、お疲れ。ユウ君もこんにちは!」


「アキちゃんだぁ!こんにちは!」




 律は一瞥すると、「来たか」と小さく頷く。それから、ユウに聞かれないよう少し離れた場所で尋ねた。


「アキラ。さっき外で何かあったか?」


「いえ。特に問題ありませんでしたよ、リツ様。」


 にこりと笑顔で返す彼女の背後で、街路樹にもたれて眠りこける敵の姿を知る者は誰もいなかった。


こうしてまた、誰も気づかぬ裏側で“刹那の眠らせ屋”は仕事を終えていた。

最後まで読んでくださりありがとうございました。

次回は桜道組の組長が登場します!

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