戦後2
俺は死ぬ係りじゃないからな
中澤佑少将より
1
そんな、中泉中佐は悪い噂しか聞かない。
調子のいいことばかりいい、GHQと夜な夜な接待を蹴り返しているとか、金の噂ばかりだ。
なるほど、戦中と変わらず生きていたわけか……後でいくと言ったのにな。
「よく、がんばっている。ご奉公だ! ご奉公」
などと尊大に我らを見下ろしていた。
戦中は特攻兵にヘコヘコしていたというのに。
俺達は身分は上でも俺達は神様になる予定なんだから、できないだろう。
「手を抜くな!」
と中泉はげんこつを社員に振るっていた。
「戦中なら、鍛錬棒だぞ! 今は戦後だ。ガハハハ!!」
彼は数多くの社員をいたぶった。
過去を知る俺には奴は近づかなかったから、関わりは薄かった。
あんな奴だったのか……
アメリカの兵隊にヘコヘコとするあいつに苛立つ。
宇垣閣下はまともだったんだ……だから、死んだ。
そして、俺は中泉によばれた。
個室の中で、俺は何かが起こったことを察するがわからない。
2
「なぁ、知ってるか」
中泉は取り出したのは新聞、そこの新聞には会社の不祥事が載っていた。
GHQへの接待と裏金の問題が多くのっている。
その噂は知っていた。
「噂は知っている……」
俺はポツリともらす。
「そうか……話が早いな。頼む。お前が死んでくれないか?」
「はぁ?」
それは信じられない言葉であった。
戦中であるまいに…………
「会社のためだ。死に損ないの特攻崩れにはちょうどいいだろう?」
中泉は邪悪な笑みを浮かんでいた。
ウソだろ。
こんなところで、死神に捕まったのかと…………
「会社のため、今、復興のために必要なのだよ。君の遺族は面倒見るからな」
俺に遺族などいないのに……俺はなんで……
社員の小さな事件としてすませたいのだろうか。
そこにわら半紙に書かれた偽物の遺書が置かれていた。バカバカしい前後に生き延びたというのに、なぜ、会社の金を使い、GHQに絶対の見返りに出世を考えただと、なんて、バカな死因を作るんだ俺は…………
逃げられない。こんな最後で死ぬのか…………
そうして、俺は部屋に閉じ込められて短刀を渡されてしまう。
ああっ……それは特攻出撃の時に渡された短刀を思い出す。
失敗し、捕虜になる前に自決しろと渡される短刀………宇垣閣下は山本五十六元帥から渡された短刀を身に着けて特攻したという。
彼がつぶやいていた言葉を思い出す。
『 皆死ね……皆死ね……』
そして、俺は首に短刀を突きつけた………
頸動脈に短刀を当てて、引けば俺は死ぬ。
瞬間、宇垣閣下のつぶやきの続きを思い出す。
『国の為……俺も死ぬ……』
そうだ……会社のため……バカバカしい、国のために死にそこねた俺が何を。
そう考えると、俺はドアを破り、短刀を振り回していた。
「はぁ! 何考えているんだ。おい貴様!」
目の前の中泉に短刀を振り回りして、気づけば、会社から逃げ出していた。
3
俺は新聞記者に偽の衣装と短刀を見せて、あったことをすべて暴露していた。
そして、一面に新聞にのり、おれの命は助かった。
当時、昭和電工事件などのGHQと関わる汚職事件は起こっており、第二の土壌狙いだった。
中泉は逮捕されて、会社は新聞を契機につぶれていた。
俺は日本を潰し、会社を潰した特攻兵にされている。
しかし、それよりも、多くの若者を特攻に行かせて、GHQにするより、甘い汁を吸い生き延びた醜く生きた中泉は叩かれ続けることになる。
今度こそ出れないだろう。
会社への忠誠、かつての軍部のように成り下がっていく企業。俺はそこから一店主として戦後を生き延びていた。
俺は戦後何も語ることなく、生きていく。
復興の象徴の東京タワーを見あげながら思う。
「宇垣閣下も……みんなも……真面目過ぎたよ。一人で死ねばよかった……のに」
それは山本五十六元帥が言っていた評価と同じだった……けど、その真面目に死んだ。中泉よりはマシな死に方に違いない。
言葉通りに責任を取ったお偉いさんは何人いたのだろうか。
戦後に多くの若者を引き連れて特攻した宇垣纒は避難と称賛の中で歴史に残る。
「だからこそ、俺はお前の話も過去の話もしない。かってに裁けばいい」
汚名であるだろう。称賛はできない。
後に宇垣纒とともに散った若者の中津留大尉の父親は戦後の取材にこう口にしていた。
『何故、宇垣中将は息子を連れて行ったのでしょうか?』
その問いは、多くの特攻兵の遺族、もしくは戦争に連れて行かれ戦士した兵の遺族が問われ続けた言葉なのだろう……
多くの特攻を見送った将官の中には戦後うまい汁をすい生き残った者も多くいた。
たとえば、特攻の発案者である中澤佑少将は『俺は死ぬ係ではないからな』と終戦後にいっていたという。
もう一人の発案者、黒島亀人は宇垣纏の日記、戦藻録にある自身の記録を燃やして消し去っていた。
特攻兵器桜花の開発に尽力した源太実は後に航空幕僚長になり、自衛隊において強権を振るった。
桜花の発案者は自らの死を偽装して、一般人として生きたという。
多くの特攻に関わった責任者は戦後も無責任に生き延びたのである。
ただ、その中でも終戦後大西瀧治郎中将終戦後に自決している。
特攻をした宇垣纒中将は責任を感じて、その責任をとることを自らしいた事は間違いない……それが欺瞞であっても……
そして、戦後に生き残った彼らにも多くのトラウマと差別の中を生きていき、企業の暴走へとすり替わっていった。その事も忘れてはいけない。
歴史は反動によって動いていくのだ。
ここまで、読んでいただきありがとうございます。長くて、自分の想いをまとめきれない作品になってしまったな。百田尚樹氏の「永遠の0」や汐見夏衛氏の「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」みたいに読みやすくドラマチックで、なによりわかりやすい戦争物を書けるのは本当にすごすぎです。本当に読んで抱いた方に感謝いたします。本当にありがとうございます〜
吉田沙知氏の「8月15日の特攻隊員」城山三郎氏の「指揮官たちの特攻: 幸福は花びらのごとく」、後は全体的にYouTubeで投稿されている戦史研究会氏の動画が資料として、ネットニュースのマネー現代 神立尚樹記氏の「俺は死ぬ係ではないからな……特攻作戦を指揮した男が、終戦直後に言い放った「衝撃的な言葉」」の記事を引用させていただきました。本当にありがとうございます。特に戦史研究会氏の動画で宇垣纒を知り、多くの戦中戦後の事を知ることができました ありがとうございます。