戦中1
今年も来た終戦記念日……以前もモデルにした話は書いたのですが……いつか、宇垣纒を書いてみたいとおもってましたが、遠いですね 。今回は遠くから観ていた特攻隊員からの話になっています。どうぞ最後までよろしくお願いします〜
皆死ね……皆死ね……国のため……俺も死ぬ………
宇垣纒中将 戦藻録より
1
あの提督は無口だ。
感情など、なにも感じさせずに巌のように堪えている風貌が忘れられない。
「諸氏に告ぐ………特攻の精神に生きんとす……俺も後で必ずいく」
ただ、彼は涼やかに口にした。
そこになんの感情もない、鉄仮面のように……
この言葉とともに15名の若者が死ぬというのに彼は淡々と能面のようにくちにしていた。
飛びたつ彗星を見送り俺たちは滑走路から見送っていた。
すぐに司令官は兵舎はと戻る。
ただ、提督の1人は何か忘れたように立ちつくす。
そんな、彼に心の奥で思う。
お前が後で行こうか、どうでもいい……俺はいつ死ぬのか………が重要………だ………
もう、知ってるんだ……飛び立った彼らは無駄死にであることを……
沖縄取り戻すことは難しい。
大和も沈み。もう、海軍に武器はない……
いずれ、無駄死にを命じられるのだ。
死神によって………
俺は何も考えずに空を眺めていた。
俺はいつまでも飛び立った戦闘機の、残影を追っていた。
2
大分宇佐基地……ここは敵戦艦、空母に対して特攻を目的とした部隊が集った。
俺は第七〇一海軍航空隊に配属されている。
艦上爆撃機「彗星」に乗り込み、死にに行く。
この基地には死神がいる……一人は二枚目の顔立ちの良い中泉少佐だ。
彼は特攻に行くものを涙ながらに語り見守り、言葉強く肩を叩いた。
必ず俺もいくと涙ながらに語っていたのだ。
それと同じ事を淡々と宇垣中将も口にしていた……ばかみたいだ……どちらも行くことなどないというのに。
自己欺瞞にすぎない。俺も死ぬのだろう。どこぞの敵艦に突っ込み、四散する。
もう、うざい。早くその時がくればいい。
そんな時、俺は見た。
「閣下、質問があります!」
ある特攻隊員が勇敢にも宇垣閣下に手を挙げた。
ざわめく彼らに閣下に冷ややかに見下ろしている。
「なにかね?」
雲の上の偉人に質問するなど、正気の沙汰ではない。
「私は百発百中で爆弾を戦艦に落とすことができます! その場合は生還してもよろしいでしょうか!!」
その特攻兵の言葉を宇垣閣下は一言。
「ならぬ……死んでこい!!」
信じられないほどの剣幕で彼はその特攻隊員を叱りつけている。
この理不尽な光景を皆、忘れられない光景となった。
その理由はよく分かる……
以前に指揮をしていた江間保少佐は特攻突撃を馬鹿げた戦法として口にしており、一度で死ぬよりも何度も、爆弾を必ず当てる事こそ国のためになると口にしていたからだ。
だからこそ、閣下の言葉が信じられなかったに違いない。
しかし、宇垣閣下は馬鹿な男ではない。
ミッドウェー海戦の折にどの司令官も茫然自失の中にいる中で、兵をまとめて、撤退させる冷静な手腕を見せて山本五十六元帥も彼の冷静さに驚嘆していたと聞く。
そんな彼が合理的な考えを拒否したのは、上の強い圧力があったのかも……
追い詰められた日本において、特攻を否定できる空気はすでにない。
特攻隊員は悔しさを噛み殺して、震えていた。
夜には彼の涙と「無駄死にだ」というもらす声を聞いてしまう。
その声に皆が続いて泣いて、家族の名、恋人の名をもらしていた。
それは俺も同じ。
「お母さん……」
やがて、その特攻隊員は翌朝に特攻において、朝の空に消えていく。
もとろん、彼らの生への望みを断ち切った宇垣閣下もずっと、彼らを見送り続けていた。
4
そんな、俺は特攻を命じられてしまう。
朝方に沖縄に向けての特攻。
覚悟は決めている。
いま、これから死にに行くのだと。
俺の乗る艦上爆撃機は爆弾を空母、戦艦と移動する標的にめがけて上空から爆弾や魚雷を落とし攻撃するための戦闘機だ。
これは二人乗りで、一人は操縦し、もう一人は敵を発見したり、爆弾を落とすタイミングを計り、無線連絡をするために二人いるのだ。
俺は偵察員として、のる予定となっていた。
その中でも、我らが駆る『彗星』、敵の攻撃が届かない所から急降下爆撃し攻撃し、その後で高速で逃げ切る事ができる高性能機だ。
それが温存された艦上爆撃機・彗星だ。
「この機体とともに行くのか」
俺は感慨深く、彗星をみあげていた。
ここを飛び立み、南の空に飛ぶことになる。
俺達は並び、特攻の儀式が始まった。
そう、俺の最後の青空を飛ぶ。
覚悟を決める。
「悠久の大義に生きるべし! 我もあとに続く。後のことは心配無用である」
能面のように宇垣閣下からの訓示の後で、一人一人に短刀が贈られた。
つまり、特攻して生き残ってしまった場合に自決せよということなのだろう。
皆に無感情のままで宇垣閣下は握手していく。シワだらけの熱い手の平だった。もっと、冷たい男だと思っていたのに。
多くの幕僚と握手をしていき、最後に現れたのが中泉中佐だ。
「そなたたちの忠勇大義は忘れはしない。御国の鬼となり、国を守り尽くすだろう。心配するな必ず! 必ず私も行くからな!!」
などと大げさに一人一人に握手をしく中泉少佐……何を言っているのだが。
こうして、俺は偵察員として彗星に乗り込む。
操縦員は澄んだ笑顔でいう。
「やりきろう! 友よ。互いに靖国で会おう!」
「ああっ、友よ! 靖国で!」
こうして、俺達は空を飛び、沖縄へと特攻に向かう。
阿蘇山が美しく、穏やかな新緑の景色を俺は心に留めている。
しかし……俺達は敵空母を見つけることができずに俺達のこの時の特攻で死ぬことなかった。
このように特攻隊員は飛べば十死零生と言われていたが、死ぬこともなく、生き延びることも多々あったのだ。
俺は終戦のその時まで生き残り、あの宇垣特攻と向き合うことになる。
以外に驚きなのは特攻を命じられても十死零生といわれますが、敵が見つからずに帰ってくるということも度々あったみたいです。今回調べてみて、江間保大尉の話は驚きました。特攻を反対していた戦闘機乗りがいたとは驚きです。