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7 森の外と盗賊と少女ルナリア


   ☆


「ん~……ハッ! やばっ、一瞬寝落ちしてた!?」


 横になっていると、気が付いたら意識が飛んでいた。

 空は夕日の朱色と夜空の黒色とのグラデーションになっている。

 俺は身体を起こし、立ち上がって伸びをしてから一度辺りを見渡す。

 暗くなってきたこともあり少し見通しが悪いが、ゴブリンの亡骸が転がっているのが分かる。



「…………流石に回収するか。バック」


 俺は無数にある亡骸をバックに収納していく。

 途中、完全に暗くなり視界が悪くなったので、魔法で光を手元に出しながら。

 あちこちと周辺を歩き回ること数十分。

 無事にすべてのゴブリンの死体と、ついでに山のようにあった骨も回収した。


「よっし。それにしても沢山倒したな」


 バックの画面には沢山のアイテムがあり、それぞれ〈ゴブリンの死体×247〉〈ゴブリンキングの死体〉〈魔石・小×196〉〈魔石・中×51〉〈魔石・大〉〈棍棒×209〉〈寂びた剣×30〉〈ボロボロの杖×8〉〈使い古された大剣〉〈寂びた王冠〉とあり。

 ここに追加で骨も数十種類ある。

 あまりのアイテムの量に、俺は苦笑した。


「俺、こんなにゴブリン倒したんだな……そりゃスキルも進化するわけだ」


 疲労感と達成感を同時に感じながら開いた画面を閉じる。


「ふぁ~……眠い」


 少し寝ていたとはいえまだ眠い俺は、この後どうしようかと考える。

 主にどこで寝るかを。


「地べたで寝るのはなぁ……この森、何もないけどまたゴブリンに襲われたら嫌だし、それに他のモンスターが居ないとも限らないからなぁ」


 そう独り言を呟きながら周囲に視線を巡らせ、ふと上を見た。


「木の上か……よし、決めた。木の上で寝よう!」


 この森には大きい木が沢山ある。

 高さもさることながら、枝の太さもそれなりに大きい。

 俺は近くの木に近づき、魔力で身体能力を強化し軽くジャンプする。

 華麗に枝に着地した後、何度か体重をかけて枝を揺らし頑丈さを確認した。


「うん、思った通り丈夫だね」


 少女一人が体重をかけても折れないことを確かめた俺は、腰を降ろして背中を木の幹に預ける。


「ふぅ、気を抜くと一気に眠気が来たな。明日こそは、森の外に……」


 次の日の予定を妄想しながら、俺は目を閉じて意識を手放す。




「ん……もう朝か」


 眩しい日の光で目を覚ました。

 軽く伸びをして、バックから水筒を取り出して水を少し飲む。

 それから俺は魔力で身体能力を強化し枝から地面に飛び降りる。


「っと。まだちょっと眠いな」


 ぐっすりと眠れた訳ではないからだろう、瞼が重い。

 けれど贅沢も言っていられない。


「とりあえず何か食べるか」


 俺は周辺から焚火を作ろうと枝葉を集めるため下を見る。

 だが、地面は昨日の戦闘のせいで血だまりになっていた。


「うーん、まぁそうだよね」


 多少乾いているとはいえ、こんなところでご飯は食べたくない


「場所を変えよ」


 俺は東に向かって少し歩くことにした。

 数十メートルほど移動して、今度こそ俺は地面から枯れた枝や葉っぱを集める。


「これくらいかな」


 両手いっぱいに集めたそれらを地面に降ろし、少し形を整えて昨日と同じ方法で火を起こす。

 暖かい光を葉の一点に当て続け、燃えた火を他の枝などに移していく。

 数分で焚火が完成した。

 次に俺は食べ物の準備に取り掛かる。

 なるべく真っすぐな枝を選んで剣で枝を削って先を鋭くしていく。

 枝先が鋭利になったので、バックを開いて肉を取り出して刺す。

 そして肉を刺した枝を手に持ちながら火を通していく。

 数十分くらいして肉が焼けた。


「完成~! それじゃいただきます」


 中までしっかり火が通っていることを確認し、食べ始める。


「朝から少し重めだけど、やっぱり美味しい」


 黙々と味を堪能してペロリと完食した俺は、焚火に土を被せて鎮火させた。

 バックから水筒を取り出して少し水を飲む。


「食事も済んだことだし、森の外へ向けて出発しますか」




 最初は歩きで移動して、途中から魔法と魔力での二重掛けで身体強化を施して爆速で移動すること二時間ほど。

 俺は遂に森を抜けることができた。


「うわぁ……これが異世界か~」


 見渡す限りの平原。

 数日しか経過していないのに、なんだかここまで長かった気がする。


「森を出ることが出来たし、次に目指すべきは街だな!」


 天気がいいのでのんびりと歩く。

 しばらくして俺はすぐに街道らしき道を見つけた。


「道だ! これに沿って行けば街に行けるな」


 どっちに行こうかと辺りを見渡していると……。


「なんだ、あれ? 襲われている?」


 少し遠くに、馬車の前に立つ一人の少女と、少女を守るように立つメイド服を着た女性。

 更に二人を守るように前に立つ鎧を着て剣を構える騎士が二人。

 そして、それらを取り囲むように立つ盗賊っぽい粗野な見た目の男数十人の集団が戦っていた。

 見るからに少女たち一行の方が押されているようだ。


「あれってまずいよな……」


 俺は少し悩む。

 助けに行ってもいい、だが変に巻き込まれるのは少し面倒だ。

 考えながらぼんやり眺めていると、一人の騎士が怪我を負う。

 そこから形成が一気に崩れたのか、少女たち一行が更に劣勢に立たさていた。


「あー! もうどうでもいいや……これ以上は我慢できない!」


 ちょっと魔が差した。

 俺は後のことは保留にして覚悟を決める。

 短く息を吐きだして気持ちを切り替え、魔法と魔力での二重強化を施して人知を超えた速度で走りだす。

 移動中にメサイアを引き抜いて右手に逆手で持つ。

 一瞬で距離を詰めた俺は、今にも騎士を害そうと剣を振り上げるガタイのいい男の横っ面に、飛び膝蹴りをお見舞いする。


「グエッ!?」


 男は不意打ちとあまりの衝撃で変な声を出し、十数メートル吹っ飛んだ後に失神した。


「なっ⁉ あ、あなたは……」


 騎士二人とメイドの間で守られるようにして立つ黒紫色の髪をした少女が、そのパッチリとした桃色の瞳をこちらに向けて問いかけてくる。

 他の三人も驚いている様子だった。


「話はあとで」


 が、俺は短く言葉を遮って、他の盗賊たちに視線を移す。

 向こうも驚愕で固まっていたが、一人持ち直したのか剣を構えようとする。

 だが、俺はそれを見逃さない。

 一瞬で肉薄して、右手に逆手で持つ剣の柄で思いっきりみぞおちを殴る。


「なっ、グハッ!?」


 空気を吐いて、お腹を押さえながら膝を突く男。

 それから俺は少女たちに近い者から順に接近しては無力化させていく。

 後頭部を蹴ったり、武器を弾いてから左手で握り拳を作って殴ったり。

 後ろに回りこまれたら回し蹴りで吹き飛ばしたり、カウンターで反撃したりして。


「クソッ……ガキが舐めたマネしやがって!」


 倒して回っていると、最初に吹き飛ばした男が意識を取り戻していた。

 奴は頭上に大きい炎の塊を作ってこちらに投げつけようとしているようだ。

 俺はすぐさま肉薄する。


「は?」


 その速度に、男は意味が分からないと言わんばかりにこちらを見る。


「別に、舐めてなんかない」


 そう吐き捨て、俺は男の顎に向かって足で蹴り上げた。


「ぐぅ……」


 大の大人が空中に浮くほどの強力な一撃。

 衝撃で魔法を解除されるが、それでも歯を食いしばりなんとか意識を繋いでいるようだ。

 俺は追い打ちを加えるために背後に周り込み、落ちてくる奴の背中に回し蹴りを入れる。

 またも吹き飛ぶ男。

 地面を何度か跳ね、最終的に完全に意識を失って倒れ伏した。

 それをもって戦闘の終了となり、俺は歩いて少女たちのもとへ行く。


「大丈夫ですか? 一人、怪我をしていたようでしたが」


 剣を納めて無難に声をかける。


「…………え、えぇ。貴女のおかげで魔法で治療する時間があったので。助かったわ」


 少し間があった後、正気を取り戻したのか黒紫の髪の少女はそう言って礼をした。

 その綺麗なお辞儀に俺は少し惚けてしまう。

 腰辺りまで伸びた艶のある黒紫の髪も、少し紫がかったピンクの瞳も……。

 どれを取っても俺の好みドストライクなのだ。


「それにしてもすごいわね。あの人数の相手を殺さずに無力化するなんて」


 呆然としている間にも、彼女は話を続ける。


「それも魔法を使わずに。相手は有名な盗賊団だったのに」

「…………」

「さっきからボーっとして、大丈夫?」

「……ッ! い、いえ、大丈夫です何でもありません。

 無事ならそれでよかったです」


 ハッとして、急いで返事を返す。


「そう。それならよかったわ

 それに無事なのは全部、貴女のおかげよ。ありがとうございます」


 スカートの両端をつまんで優雅に礼をする少女。

 俺は乾いた笑いを浮かべながら、首元に右手を添えて少し視線を逸らした。

 こちらの気持ちを悟られないように。


「それじゃこれで」


 踵を返し、すぐに立ち去ろうとする。

 すると、少女が呼び止めてきた。


「ちょっと待って、助けてくれたんだしお礼をさせて」

「お礼? でも……」

「貴女、冒険者でしょ?」


 俺が断るより早く彼女が聞いてくる。


「冒険者? 違いますよ」

「あら、そうなの?」

「はい。最近こっちに来たばかりなので、とりあえず街でゆっくりしたいなって」

「だったら馬車に乗って私たちと一緒に来ない?

 この盗賊たちを騎士団に突き出さなきゃだし」


 彼女が視線を横に移す。

 そこでは、二人の騎士によって縄でぐるぐる巻きにされた盗賊たちが居た。


「ダメ、かしら?」


 少し上目遣いでこちらの顔を覗き込む少女。

 そんな彼女を見て、俺は一歩後ずさる。


「うっ……わ、わかりました。

 それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいます」


 そう言うと彼女は嬉しそうに表情を綻ばせる。

 俺は彼女の可愛さに負けたのだった。




 しばらくして盗賊たちを騎士二人に任せた後、俺と黒紫の髪の少女とメイドさんは馬車に乗り込んだ。

 護衛の騎士は俺が同行することになったので、盗賊たちの護送に集中させるらしい。

 一分ほどで動き出した馬車の中で、俺の対面に座る少女は優しい表情を浮かべながら自己紹介をする。


「改めて、今回は助けてくれてありがとう。

 私はルナリア・エルナデスと申します。

 そして彼女はメイドの……」

「アネット・ラーシャです。

 この度は助けていただき、ありがとうございました」


 二人して頭を下げてくる。

 そんな二人に俺は両手を前に出しながら返事を返す。


「当然のことをしただけですよ。

 気にしないでください」


 それから自分も名乗る。


「えっと、俺は──」

「俺?」


 うっかりしていた。

 今の俺が金髪美少女になっている事を忘れていたようだ。


「ッ……ゴホン、わ、私はソラって言います。よろしく」


 咳払いをし、少しぎこちなく自己紹介を済ませる。


「ソラっていうのね、いい名前だわ。よろしくね」


 黒紫の髪の少女──ルナリアはそう言って微笑んでくる。

 その顔に俺はまたも惚けてしまう。


(可愛いなぁ……てか、俺ってここまで女の子に免疫なかったんだ……)


 なんて思いながら。


「ソラさんはどこから来たの?」


 会話が途切れたタイミングで、ルナリアが話しかけてくる。

 俺はその問いに、少し考えてから言葉を発した。


「えっと、森の中から?」


 とはいえ、自分でもどこから来たのか分かってないので、曖昧な返事になってしまう。

 倒れて目が覚めたら美少女の姿で森の中にいました。

 なんて言っても信じてもらえないだろうし。


「ここから一番近い森というと、ティシアス大森林から?」

「ティ……名前は知らないけど、多分そうかな?」

「そう……」


 肯定すると、ルナリアが考え込む素振りを見せる。

 その姿に俺は変なことを言ったかなと思い、何かあるのか聞いてみることにした。


「その、ティ、シアス大森林がどうかしたの、ですか?」

「あ~、えっとね。

 あの森、奥に進むにつれて霧が出るのだけど……。

 その霧が厄介で、気が付いたら森の外に出るのよ」

「外に? でも、お……私が来たのは森の中からですよ?」


 そう言うとルナリアは少し驚く。


「え、そうなの?」

「うん、あ、はい」

「そうなのね……。

 あ、敬語はいらないわ、歳も近そうだし」

「そう? それじゃお言葉に甘えて……あ、私に対しても敬語とかはいらないよ」

「分かったわ。それにしても不思議ねぇ……」


 ルナリアは興味深そうに俺の方を見る。

 その視線に、何となく居心地の悪さを感じて視線を逸らす。


「話は変わるけど……ソラってどこかのお嬢様だったりする?」

「え?」


 気持ちを何となく察したのか話題を変えるルナリアだったが。

 その内容に俺は素っ頓狂な声を出してしまう。


「だって……服装は普通だけどあなたのその長い髪、すごく綺麗だもの。

 顔立ちもいいしスタイルもいいし。

 それに、所作はともかく言葉遣いもしっかりしてるようだから」

「そんなことはいよ」


 首を横に振って否定する。


「違うの?」

「うん。それに、言葉遣いも普通だと思うけど?」

「そんなことはないわ。アネットはどう思う?」


 聞かれたアネットは少し間を置いた後に話し出す。


「そうですね……

 ソラ様の容姿はとても整っていますので、それだけでどこかのご令嬢と言われてもなんら不思議ではありません。

 所作に関しましては、少し……直した方がよろしいかと思いますが」

「確かに、少し無防備というか……」


 二人が俺の足元に視線を向ける。

 俺は訳が分からずに首を傾げた。


「無防備? どこが?」


 そう言うと二人は互いに顔を見合わせ、すぐに正面を向いて少し呆れ気味に話し出す。


「もしかして無自覚なの?」

「えっと……」

「ソラさん、女の子なんだから、まずは足をしっかり閉じましょうか」


 ルナリアは溜息交じりにそう指摘する。

 言われて俺は下を見た。


「別に変な所はないと思うけど……あ!」


 数秒ほどして、気が付いた。


(そうだ、俺、今スカート履いてるんだ)


 前世が男で、更に今まで一人だったこともありつい失念していた。

 そそくさと居住まいを正す。


「これでどう?」

「うん。それでいいわ」

「はい。ただ、時間が経つと元に戻るかもしれないので、なるべく常に意識しておいて下さい」


 二人から問題なしと合格を貰う。

 姿勢を崩さないように意識しながらも、俺は少しだけ安堵した。


「話は戻りますが、ソラ様の喋り方などに関しましてですが、そちらに関しましては問題なさそうですので。

 後は髪型や服装を整えれば、お嬢様といっても差支えないと思います」

「服は後で買いに行くとして、まずは綺麗にしましょうか」

「ん? うん?」


 なんか変な方向に話が流れている気がする。

 よく分からずに俺は雑に返事をした。




 それから馬車で揺られること数時間、お腹が空いてきたお昼頃。


「あれは……」


 馬車の外に大きくて高い、頑丈そうな外壁が姿を見せた。


「そろそろ到着ね」

「わぁ……!」

「ロステイア王国の首都、ソルテアに」


 俺たちは遂に巨大な街に足を踏み入れるのだった。



まず、投稿が遅くなりましたこと申し訳ありません。

その代わり、行き当たりばったりで書き始めたこの作品の設定を少し固めてきましたので、これからはできるだけペースを上げて投稿出来ればなと考えています。

ですので、応援して下さると嬉しいです。

面白いなと思ったら、良ければコメントなどしていってください。

誤字や脱字などがありましたら報告お願いします。

それではまた次回。

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