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5 食事と魔力と光の魔法


   ☆


「魔力か~……空想の中の物だったから実際よくわからないんだよね」


 そう。

 前世──つまり地球には、そんな超常の力なんて存在しない、

 そのため俺はいまいちピンと来ていなかった。


「ユーティアさんに聞けばよかった」


 知らないなら知っている人に聞けばいい。

 とはいえこれに関しては後の祭りなので、俺は頭を振って自力でなんとかすることにする


「とりあえず、瞑想でもしてみるか」


 一度、辺りに視線を巡らせて、モンスターなどの危険が無いか確認し。

 それから俺は瞳を閉じて集中する。


「ふぅ……」


 息を吐き、自分の内に流れる未知の力に意識を向ける。

 数秒後、俺は自分の心臓辺りから全身に流れる暖かい力を感じ取った。


(これが魔力か? この感じ、どこかで……)


 少し思考し、そして思い出す。


(そうか! これ、加護を授かった時に感じた何かと同じだ!)


 ユーティアに加護を貰った時に感じた暖かい謎の力。

 それがどうやら魔力だったらしい。

 十数秒後、早くも魔力の流れを大体把握できた俺は次に、魔力を操れないか試す。

 目を開けて、試しに自分の手の平に魔力を集め、放出するようにイメージしてみる。

 すると、手とその周辺が淡く青く光りだした。


「お! 簡単にできた……のでは?」

『スキル〈魔力操作・初級〉を獲得しました』

「……! どうやら本当に上手くいったっぽい」


 感情の籠っていない無機質な女性の声を聞いて、俺はことが上手くいったこと知る。

 そして俺は新しく手に入れたスキルを確認するためにステータス画面を開く。




 〈魔力操作・初級〉

 魔力を認知し、操ることで解放されるスキル。

 初級、中級、上級とランクが存在し、熟練度によってランクが上昇する。




「ふむふむ。相変わらずのアバウトさというかなんというか」


 画面を閉じて俺は息を吐く。

 気を取り直して、次に魔力で何ができるのかを試すことにした。


「魔力を操れるようになったし、こんどは魔法使えないかな」


 そう、魔法だ!

 手に魔力を集めつつ、それを燃料に燃える炎をイメージする。

 そして俺は手を前に突き出しつつ魔力を放出した。


「ファーやーボール!」


 決め台詞を言い、これで発動するだろうと内心思っていたがそう甘くはなく。

 ただ手が光っているだけで何も起こらなかった。


「……何も起こらないのね」


 誰もいないとはいえ、大人げなくはしゃいだことが恥ずかしい。

 顔が熱くなるのを感じながら、俺は炎以外をイメージすることにした。

 次に思い浮かべるのは水。

 魔力を糧に透明な液体が集まり球になるのを想像する。


「ウォーターボール!」


 叫びながら、またも手を突き出す。

 しかし、先ほどと同様に魔力を帯びて光っているだけだった。


「また何も起こらないか……」


 俺は頭を振り、雑念を消し去る。

 そして次に魔力で大気を操り、そよ風を起こすイメージをする。


「こんどこそ……風よ!」


 言って両手を突き出す。

 されど今回も、やはりと言うべきか何も起こらない。


「じゃ……土!」


 しゃがみ込んで両手を地面につき、魔力を流し込む。

 が、何も起こらない。


「な、なんで……」


 全て不発に終わり落ち込む。

 自分の手の平を見つめながら、何がダメだったのかを考える。

 でも一人で答えが見つかるわけもなく。

 俺はひたすらに色んな現象をイメージしながら魔力を放出する。


「氷! ダメか……じゃ雷! もダメと……爆発、は火がダメだから多分起きないよな……」


 失敗が続いてしょぼくれる。

 正直、他に思いつくことなんて殆どない。

 疲れてんのかな。


「はぁ……もう、ただ光ってくれるだけでもいいや。これが俺の魔法だよ」


 乾いた笑いを零しながら、自分の手をぼんやり眺める。

 集めた魔力を放出しているため、今も薄っすらと青く光っている。

 だが次の瞬間、急に手が白く光りだした。


「えッ……⁉ ひ、光った!」


 今起きた現象が理解できず目を白黒させ、俺は光を凝視する。

 蛍光灯のように、辺りを照らす輝きがまだ明るい森を更に照らしていた。


『スキル〈光属性魔法・初級〉を獲得しました』


 無機質な女性の声を聴いて、俺は落ち込んでいた気分を一瞬で逆転させる。


「やったー! 魔法できた! ただ光っただけだけど!」


 俺は諸手を挙げて歓喜する。

 失敗が続いていたため、もう魔法が使えないのでは……と諦めつつあった。

 だがそんな時に成功した。

 光り方が変わったとはいえ魔法は魔法だ。

 俺は喜びを胸にステータス画面でスキルを確認した。




 〈光属性魔法・初級〉

 適性があり、かつ自力で魔法を発動すると獲得できる。

 初級、中級、上級とランクが存在し、熟練度次第でランクが上昇し魔法の幅が広がる。

 主に光を操ったり、回復、強化、結界の展開などが可能。




「やっぱり適性があるんだ。どうりで他がダメなわけだ」


 俺は説明を読んで納得した。

 魔力を操れても、適性が無ければ魔法は扱えないらしい。

 ならば今までの失敗も理解できる。


「それにしても、このスキルの説明……今回はやけに優しいというか、詳しいというか」


 今までこれほど詳しい説明はなかったため、俺は珍しいなと思った


「光属性だし光を操るは分かるけど、回復に強化って完全にサポートっぽい属性だな」


 魔法を使えること自体は嬉しい。

 しかし、俺は少し残念に思う。

 やはり派手で攻撃的な魔法を使ってみたいと言う欲があるからだ。


「まぁ、怪我しても治せるのはかなりデカいな。

 それに、攻撃的な魔法が使えなくとも俺にはこの剣がある」


 腰にある剣に左手で触れる。

 この剣が無ければ食料にありつけず、魔法を練習しようとは思わなかっただろう。


「運命、ね……まさか、ここまで読んでたり……は流石にない、よな?」


 ユーティアがお土産と言ってこの剣をくれたのは、いくつか理由がありそうだ。

 なんて考えてみるが、分かる訳もなく。

 仕切り直して、今度は火を起こす方法を考える。

 ここまで数分程度しか経ってないが、相変わらず空腹が酷い。


「光を操れるなら、もしかして太陽光的な熱のある光を生み出せたりしないかな?」


 試しにとばかりにイメージ。

 暖かい日の光を思い浮かべながら、魔力を操り手の平から足元の枝葉に向けて放出する。

 すると手から少し暖かい光が辺りを照らした。


「これって成功でいいのか……でも光ってるだけだよな?」


 辺りを照らす光からは熱を感じるが、少し暖かいだけで何かを燃やせるほどではない。


「ん~……そうだ。光が集中してないから暖かいだけで、一点に光を集めたら燃えるのでは?」


 すぐそう思いついた俺は早速実践に移す。

 光が辺りに拡散しないように一点に集まるようイメージ。

 そして今度は指先から魔力を放出する。

 レーザーのような細い光の線が枯れ葉に当たり、少しずつ焼いていく。


「おぉ! 今度こそ成功したぞ!」


 焼けた場所を起点として火が生まれた。

 俺はその火に顔を近づけて息を吹きかける。

 ふーふーして風を送り、燃える葉っぱの上に小さい枝を重ねる。

 そうして、遂に焚火を作ることに成功した。


「よし!」


 パチパチという音を鳴らして燃える火を見ながら、俺は次に一本の枝をバックから取り出した。


「えぇっと……これを削って、と」


 こんなことに使うのはもったいないが。

 腰に差す剣を一本引き抜き、刀身を固定して枝の先を鋭くしていく。


「これくらいでいいかな」


 先端が鋭利になった枝を見て、俺は剣を鞘に戻す。

 次にバックから少し大きめの塊肉を取り出し、枝を突き刺した。


「これを、火の近くに立てて……あ、ダメだ」


 肉を差した枝を火の近くで立てて放置しようとしたが、固定できないため倒れそうになった。

 土に触れる前に咄嗟に掴み取り、手に持ったまま肉を焼くことにする。


「早く焼けないかな~」


 時々回しながら、俺は焼けていく肉をのんびり眺める。

 しばらくして、外はカリっと中までしっかり火を通した肉を手に、俺は少し感動していた。


「これが異世界で初めて作った飯か……なんかいいな」


 少し大きめの肉が美味しそうに湯気を立てている。

 俺はパクっとかぶりつく。

 噛み応えのある肉をよく噛んで飲み込んだ。


「うん。なんというか、塩コショウしてないから少し味気ないけど……でも美味しい」


 調味料なんて存在しない。

 そのため何もつけずに焼いた

 だから当然なのだが味気ないのは仕方がない。

 現代日本の料理を食べ慣れていたからか、余計にそう感じた。

 とはいえお腹が空いていたからなのか、とても美味しいと思う。

 なんだかんだ、俺は無言でモグモグと食べ進めた。




 時間にして数十分後。


「ふぅ……ごちそうさまでした」


 両手を合わせて食事を終える。

 ひたすら食べ進めて、しっかり完食した。

 俺はお腹をさすり一息吐くとともに、バックから水筒を取り出して水を少し飲む。


「ぷはぁ……お腹も満たしたことだし、魔法以外で魔力で何ができるか試そうかな」


 森の外へすぐ動きだしてもいいが、もう少し魔力や魔法を開拓したいと考えていた。

 なので一旦、立ち止まって魔力の可能性を広げることにした。


「魔法もいいけど、魔力を使って魔法以外にできる事もありそうだもんね」


 〈魔力操作〉という名のスキルがあるくらいだ。

 なら、魔法以外にもできることがありそうだと考えた。

 一度立ち上がり、土を被せて焚火の火を消した。

 完全に鎮火できたのを確認した俺は、魔力を感じたとき同様に自分の内側に集中する。

 心臓辺りから全身を巡るように魔力が巡っているのを感じる。

 その流れに意識を向けながら少し動いてみた。

 辺りをうろついたり、少し飛んで跳ねてみたり。

 そのたびに長い髪やスカートがひらひらしているが、気にせずに。

 魔力の流れを気にしつつ身体を動かすこと数分。

 俺は、魔力が力を込めたところに多く集まっていることに気づいた。


「これって、意図的に魔力を集めたらどうなるんだろう……。


 さっきは魔法を使いたい一心だったから意識してなかったけど」

 試しに足に魔力を集め、全力で飛んでみた。

 すると……。


「ッ……⁉ え、ちょ……待って待って止まってぇ~!」


 普通なら飛べても一メートル程度。

 だが俺はそれを優に超えてしまう。

 予想を超え、とんでもない勢いで数メートルはある高さの木の枝葉に突撃する。

 ガサガサと葉っぱをかき分けて、遂には木の高さを超えてしまった。


「ッつぅ…………うわぁ、綺麗……」


 上空から見る景色に、場違いにもそんなことを想ってしまう。

 そんな時だ。

 上昇していた身体が少しずつ速度を落としていく。


「この感じ、もしかして……」


 木の上で滞空すること数秒。

 今度は逆に降下し始めた。


「そうだよね! 落ちるよね!」


 俺はどうしようかと頭をフル回転させる。


「これ落ちたら死ぬやつだ。異世界で落下死とか冗談じゃない!」


 またも枝葉に突撃する。

 腕を顔の前でクロスさせて防御しながら、この状況の打開策を考える。


(何とかして落下の勢いを削ぎたい……ぶっつけ本番だけど、やるしかないか)


 覚悟を決めて、上半身に全魔力を集中させる。

 魔力が集まった影響か、放出していないにも関わらず身体が薄っすらと青い光に包まれる。

 だが、俺は無我夢中で気づかない。

 交差させている腕の隙間から覗き込み、タイミングを窺う。


「ここだ!」


 枝葉を抜ける直前、俺は腕と手に力を込めて頑丈そうな枝に両手で掴みかかる。


「ぐっ……うおっ」


 反動で身体が百八十度、回転する。

 だが、何とか地面に打ち付けられることなく落下を阻止することが出来た。


「ふぅ……た──」


 俺は「助かった」と言いかけたその時、ミシミシと嫌な音を聞いた。

 因みにだが、地面との距離は大体四、五メートルくらいだ。


「ッ……⁉ やばいかも……」


 次の瞬間、バキッと枝が中ほどで折れた。


「あ……」


 重力に引かれて落下する。


「流石にヤバい……」


 俺は咄嗟に足に魔力を集中させた。

 数秒後、ドンという強い衝撃が全身を襲う。

 だが骨折などの大きな怪我をすることなく着地に成功するのだった。


「はぁ、はぁ、はぁ……こ、怖かったー……」


 木の葉だらけになりながらも、なんとか生還できたことに安堵する。


「今度から、絶対に無闇に飛ばない」


 少しズレたことを心に決意しながら、俺は自分自身を見る。

 服はボロボロになり、髪には緑の葉が沢山ついていた。

 だが、切り傷などは思ったより少ない。

 俺は上を見て枝が折れている部分を見つめる。


「あんな高い場所から落ちてきたのに、大ケガ無しか……これも魔力の影響なのか?」


 考えるが、魔力を纏うことで得られる身体能力と頑丈さの訳は分からないままだった。


「今までって何かしたら、それに合わせてスキルを得られてきたけど。

 何も起こってないしなぁ

 まぁでも、魔法以外での身体強化の方法を得られたのはデカいな!」


 スキルを得られた訳ではないが、ポジティブに捉えることにした。

 一度、俺は腰を下ろして休憩を挟むことにする。


「さて、落下で大ケガとかしなくてよかったけど……。

 何かあった時のために回復魔法は習得しておきたいな」


 今回はまぐれで大した怪我がなかったが、今後もそうとは限らない。

 もし、敵との戦闘中に大怪我でもしたらと考えると……。

 今後の保険として、早急に回復魔法を習得しようと判断した。

 かすり傷が丁度良く幾つかあることだし、俺はこれを治すことにする。


「ふぅ……じゃ改めて魔法の特訓といきますか!」


 一度、息を吐きだして気持ちを切り替える。

 瞳を閉じて俺は怪我のある場所に魔力を集めた。

 そして、傷が逆再生の要領で治るのをイメージする。

 かすり傷を負っている部分が暖かくなる。

 しかし、すぐに傷が癒えることはなかった。


「あれ?」


 少し待つこと数秒後。

 すぐに傷が治った。


「お! 治った。回復魔法って難しいな」


 ただ光を出すだけなら簡単に発動したが、回復魔法はある程度集中しないとうまくいかなかった。

 うまくは言えないが、ただ光を操るよりも複雑だったというかなんというか……。

 それでも数秒すれば回復できる。


「あっさり回復手段も確保できたな」


 魔法って簡単なんだなと思いながら、俺は地面に腰を下ろす。


「はぁ……なんか急に脱力感が来たかも」


 両手をついて上を眺めつつ力を抜く。

 さっきまでは何もなかったが、回復魔法を使った辺りから身体が重くなった。


「魔力を使い過ぎたからかな?」


 今一度、自身の内に意識を向ける。

 心臓辺りから全身に巡っていた魔力が、今はなんだか弱々しい。


「魔力、使い過ぎると力が抜けるんだね……ちょっと気を付けておくか」


 そう言って、しばらくはボーっと景色を眺めて休むのだった。




 休息すること十数分。

 脱力感が消えて元気と魔力が回復した。


「よし。休憩終了! それじゃ出口に向けて移動しますかな」


 立ち上がって、服に付いた土を軽く払う。

 それから足に魔力を集中させる。


「全力で飛ぶのは多分もう二度としないけど、走るくらいなら大丈夫でしょ」


 魔力で足を強化して、俺は森の外へ向けて常人を超える速度で走るのだった。


楽しんでいただけましたら、良ければをコメントよろしくお願いします。

それと、誤字脱字などございましたらコメントなどで教えていただけると、とても助かります。

今後ともちまちま書いていきますので楽しみにしていてください。

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