4 再びの森と食料探し
☆
俺は剣が指し示していた東の方角へ森の中を歩いていた。
因みにだが、湖から歩き出してすぐに水筒が空であることを思い出したので、しっかりと水を入れてきている。
「危うく本当に忘れるとこだったなぁ……」
苦笑しながら独り言ちる。
とても静かな森であるためか、なんだか気が緩んでしまう。
「それにしても、本当に何もないな」
森には普通、何かしらの動物が居ても不思議ではないはずだ。
しかし、この森は全くと言っていいほど気配が無いように思う。
そこまで密度の濃い森ではないため、見晴らしも悪くない。
俺は辺りを見渡しながら、時々水分補給をしては歩き続けた。
変わらない景色を進み続けること数時間。
太陽が頂点に差し掛かって来たお昼頃。
ぐう~……と俺の腹の虫が鳴った。
「お腹空いたなぁ。そういえばまともにご飯を食べてないからなぁ」
お腹をさすりながら食事をどうしようか考える。
「流石に草は……食べたくないな」
地面を見て、首を振る。
これは最終手段だ。
かといって木の実を探そうにも、辺りに生える木はそこそこ大きいだけで木の実が成ってはいない。
俺は本格的に食料を探し始める。
「食料になりそうな物が辺りにないから、選択肢が動物だけになりそうだけど……いるかな?」
歩きながら時々周囲を見る。
その動作を繰り返し、さらに一時間ほどが経過した。
そして遂に俺は食料になりそうな獲物に巡り合う。
「あれは……デカい、イノシシ?」
少し遠めの場所に全長5メートルを超えるだろう巨大なイノシシがいた。
「よし! 倒すか」
腰に差す二本の剣を抜き放つ。
右に白銀のメサイアを、左に金色のブレイブを持って。
俺は無防備にもイノシシの正面へ歩いて出る。
この時、俺は空腹で判断力が鈍っていた。
イノシシと目が合う。
「フゴッ!」
「ッ……⁉」
と、同時に突進してきた。
咄嗟に右に飛んで回避しながら、通り過ぎていくイノシシに俺は振り返りつつ白銀の斬撃を浴びせる。
「浅いッ」
とてもいい剣だが実力が皆無なため、浅い切り傷を作る程度だった。
ズドォォォン!
木にぶつかったのか大きい音が辺りに響く。
イノシシの頭上から木の葉が舞い落ちている。
「お腹が空いているとはいえ、流石に集中しなきゃな」
俺は改めて気合を入れ、剣を構える。
態勢を立て直し、こちらを見る巨大イノシシ。
「ッ……! 来た」
再びの突進と同時に俺は後ろを向いて走り出す。
そして向かう先にある木を壁代わりに駆け上がり、蹴って宙に飛ぶ。
俺は空中で体を捻りながらイノシシに向かって両の剣を降る。
「はぁ!」
「フゴッ!?」
攻撃を加えることに成功したが、皮が厚いのか有効打にはならなかった。
数瞬後、またもズドォォォン! と大きな音が鳴る。
地面に着地しながら、俺はイノシシの方を見つつバックステップで距離を取る。
森の中をずっと歩いて慣れたからか、ゴブリンと戦った時より足取りが軽い。
イノシシはゆっくりとこちらを振り返りながら、鼻息を荒くしていた。
どうやら、自慢の攻撃が当たらないから少しお怒りのようだ。
イノシシが姿勢を少し低くして攻撃の体制を整えている。
そして三度目の突進攻撃。
さっきまでより更に速いが俺は右横に軽くステップ踏んでスレスレで回避し、通り過ぎていくイノシシを追いかけるために走り出す。
追いつけるはずは無いが目的は別にある。
木にぶつかって大きい音を響かせながら止まるイノシシ。
俺は走っている勢いを使い、そのデカい図体に思いっきり横一文字の斬撃を浴びせる。
「はぁあ!」
ザンッ!
「フゴォ!?」
今度はイノシシに深い傷を作ることができた。
しかし致命傷とはならず、血を流しながらもこちらを振り向くイノシシ。
俺はまたも後ろに飛んで距離を取る。
傷が痛むのかすぐには攻撃してこなかった。
かといって油断せずに、俺は剣を構えてカウンターを狙う。
俺は今までの攻防で、相手の動きを出来得る限り観察していた。
そして気づいた。
足の短いイノシシだが、サイズがデカいから地面との間に隙間があると。
だから、俺はイノシシが突進してきた際に潜り込んで腹部を攻撃しようと機を狙っている。
「大体の動物はお腹が弱点だからな」
数秒後、遂にその時が来た。
イノシシが突進してくる。
怪我を負っているにもかかわらず、今までで一番速度が速い。
「ふぅ……」
俺は息を吐き、覚悟を決める。
突進してくるイノシシに向かい俺も走り出す。
ぶつかる直前でスライディングしてイノシシの下に潜り込んで剣を上に突き上げる。
腹部に思いっきり突き刺し、そのまま相手の力を利用しつつ勢いに負けないように手に力を込める。
通り過ぎるイノシシ。
俺は横に転がりうつぶせになり、両手をついて素早く立ち上がる。
イノシシの方を見るとゆっくりと勢いを落とし、力なく膝をついていた。
ズシンと音を立てて倒れるイノシシを見て、俺は緊張を緩める。
「ふぅ……ちょっと怖かったけど、意外と動けたなぁ~」
そう言いながら剣を鞘に納めてイノシシに近づき、死んでいることを確認する。
その後、一度死体の前で手を合わせて合掌した。
それからバックを開いて手で触れる。
数瞬後、跡形もなく一瞬で消えたのを確認して俺はバックの画面を見た。
バックには新たに二つのアイコンが追加されている。
タッチするとそれぞれ〈イノシシの毛皮〉〈イノシシ肉〉と表示された。
「やっと……食料ゲットだ!」
両手を握りこんでガッツポーズをとる。
完全に気を緩めていると、またも腹の虫がぐうぅ~……となった。
俺はバックから肉を取り出す。
掌に生の肉が出現する。
「そういえば、調理の方法とか全く考えてなかった」
肉を食べるためには焼く必要がある。
とはいえ、今まで探すことに夢中で全くその辺りは考えていなかった。
「このまま食べ……たら食中毒になるから駄目だしなぁ」
一瞬ダメな思考になるが、すぐに思い起こして方法を考える。
「ひとまず火を起こすか」
そう言って、俺は手元の肉をバックに仕舞い、足元に沢山ある乾いた葉っぱや小枝を集める。
片っ端から触れてはバックに納めるを繰り返す。
数分が経過して、充分な数の枯れ葉と枯れ枝を集め終えた。
俺はそれをバックから取り出し、少し太めの枝の上に枯れ葉を置く。
「これで、木をこすり合わせれば火を起こせるかな?」
実際には今までの人生で火を起こしたことはない。
けれど俺は、火起こしも案外、簡単にできるだろうと高をくくっていた。
地面に座り込み、足の裏で枝を挟む。
そして真っすぐな別の木の枝を両の手で挟み込み、回転させる。
「うおぉ~!」
女の子としてその体制はどうなのかとか関係なく全力で摩擦を起こす……。
が、一向に火が付く気配はなかった。
数分で力尽きた俺は、肩で軽く息をしながら枝を置く。
「はぁ、はぁ……こんなに火ってつかないものなの!?」
諦めて俺は他の方法を模索する。
「確か石と鉄を打ち付けると火ってついたような……」
そう思い辺りを見渡す。
しかし、いい感じの石は見当たらなかった。
というか、そんな小石は転がっていない。
「駄目そう」
肩を落としながら俺は他の方法を考える。
土を掘れば石くらい出てきそうだが、そんな体力は残ってないので速攻で諦めた。
「そういえば、この世界って魔法があるんだよね」
思い出したように俺はステータス画面を開いて確認する。
スキル一覧には確かに〈魔力適性〉と書かれていた。
「よし! この際、魔力を使えるようになるか!」
そうして俺は魔法の特訓を始めるのだった。
投稿が遅くなり申し訳ありません。
次回はなるべく早めに投稿する予定です。
社会人って大変ですね。
面白いと感じてくれたらコメントなど、ぜひお願いします!
それと、今後も週に二話以上、最低一話は投稿できたらと考えているので。
楽しみにしていてください!