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2 霧と神秘の湖と神の世界


   ☆


 森を歩き始めて数時間は過ぎたと思う。

 気づけば空は朱く染まり、夜が近づいてきていた。


「いつになったら森を出れるんだろ」


 あの後、休息を挟みつつ歩き続けてきた。

 しかしこれと言った変化も成果もなく。

 分かったことはこの森がとんでもなく広いという事だけ。

 モンスターに出くわすこともなく、目覚め直後以降は平和そのものだ。

 しかし、なんの変化もなく心が疲れてきたのか、視界が悪くなってきた気がする。


「いや、気分の問題じゃない?」


 周囲が暗くなってきたこともあるが、それだけではないようだ。


「これは……霧か⁉」


 周囲はいつの間にか霧が立ち込めていた。

 そこまで視界の悪い森ではないとはいえ、霧の中でモンスターに襲われては対処しきれるか分からない。

不意を突かれれば一巻の終わりだ。


「どうしよう……」


 不安に駆られて視線をキョロキョロと動かす。


「はぁ……」


 一つ息を吐き、ソラはいつ戦闘になってもいいように覚悟を決める。

 今までは邪魔だった、最初の一戦以降役に立ってない腰の剣を鞘から抜き、右手に持つ。

 そして、いつ敵が来てもいいように周りを警戒しながら進んでいく。

 不安と緊張からか気づけば空は暗くなり、月の光が薄っすらと差し込んでいた。

 月明かりがあるとはいえ依然として視界が悪い。


「完全に暗くなってきたな。いよいよ大ピンチかも」


 更に森の中を進む。

 体感で十分くらい経過しただろうか。

 それとも三十分だろうか。

 気を張っていたことによる精神的疲労から、時間の感覚が分からなくなっているソラ。


「ん? 視界がハッキリしてきた?」


 とても長い時間が経過したように感じていたそんな時、突如視界がハッキリしてきた。

 心なしか、いや、確実に霧が晴れてきている。

 周囲の木の間隔も広くなり、景色が開けて見える。


「こ、れは……」


 周りの木が完全になくなった先の開けた場所には、大きな湖が広がっていた。

波一つない湖面には、満月が映し出されていて美しく幻想的な景色が広がっている。


「なんて綺麗な景色なんだ……」


 最初に森で目が覚めた時に見た景色を優に超える綺麗さだった。


(殆ど旅行とか行ってなかったから綺麗に見えるのかもなぁ……)


 そんなことを想いながらしばらく景色を眺めていたソラは、ゆっくりと湖に近づいていく。


「えっと、バック」


 アイテムが収められているバックの画面を開き、その中から革の水筒のアイコンをタッチして取り出す。

 手元に召喚した空の水筒の蓋を開け、湖面の一歩手前で立ち止まってしゃがみ込む。

 そして、水筒を沈めて水を入れようとした時だ。


「……………………」


薄っすらだが水面に反射して映る自分の姿に、ソラは一瞬思考を止める。


「え……っと、そうか、これが今の俺なのか」


 水筒に水を入れずに自分の顔に見惚れて固まること数秒。

 遅れて少し思考が動き出したソラは、水筒の存在を忘れて自分の顔を凝視する。


「かわいいな……うん、かわいい」


 長くサラリとした綺麗なイエローブロンドの髪は、一部が頭の右後ろの方でサイドテールのように纏められていた。

パッチリとした桃色の瞳も相まって、どこぞの愛の戦士のような印象を受ける。

 少し童顔で、整った目鼻立ちに綺麗な唇。

 自分の姿は、正しく美少女だった。


「こんなに綺麗な子、アニメとか、たまにテレビで流れてくるアイドルくらいでしか見たことないな。

 しかもそんな美少女が俺自身とか……ハハ」


 自身の変化を改めて実感し乾いた笑いが出る。

 湖面に映るそんな姿ですら絵になっていて。

 正直この顔を見たら、いくらでも頑張れそうだなどと考えるソラ。

 試しにと思い立ち、ニコリと笑みを作ってみる。


(か、可愛すぎるッ……)


 自分の可愛さに脳を焼かれるソラ。

 それからしばらくは、自分の可愛い顔を見るために時間を使った。


「っと、自分自身を眺めるのもいいけど、水筒に水を入れなきゃ」


 自分の可愛さを堪能すること数分。

 やっと手元の存在を思い出し、今度こそ水筒に水を入れるべく水面に水筒を鎮める。

 そして、湖面に手が触れた瞬間だった。


『────』

「……⁉」


 何か気配を感じて湖の中央へ視線を向ける。

 気配がした気がした湖の中央には、しかし当然何かあるわけがなく。

 大きな月が湖に映し出されているだけだった。


「なにも、ない?」


 ほっと一息吐くとともに、気を取り直して下に視線を向ける。

 湖面に視線を戻した時、


「ッ……⁉」


 湖面には自分じゃない女の人が映っていた。

 薄っすらと蒼く光る白銀の髪に深い青の瞳が特徴的な女性だ。


『────』


 微笑みを浮かべる彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべたかと思うと、急にソラの手を掴んできた。


「えッ……な、なに!?」


 手を掴まれた感覚に混乱して少しパニックになる。

 困惑していると強く腕を引かれ、ソラは湖に落ちてしまった。




「あれ……?」


 完全に水に落ちた。

 と、そう思っていたソラは瞳を開けて困惑する。


「息が、できる」


 湖に落ちたはずなのに息ができるのだ。

 どういうことだと思っていると、ポチャポチャと後ろから足音が聞こえてきた。


「やっと、お目覚めかな?」


 声を掛けられ、バッと後ろを振り返る。

 そこには、先ほど湖面で見た銀髪の女性がいた。

 薄っすらと光る白銀の髪はふわりと揺れていて、深い青の瞳がまるですべてを見通すようにソラを見つめている。

 服装は金の差し色が特徴的な純白のドレスに白銀の軽鎧。

とても白く厚着で清楚だが、隠しきれないスタイルの良さが服の上からでも分かる。

腰に二本の剣を差していて、一本は服装同様に白を基調としていて、もう一本は金を基調としたショートソードだ。

蒼いラインが薄っすらと輝いている。

優しげだがどこか近づきがたい雰囲気を纏う彼女に、呆気に取られたソラはとりあえず名前を聞くことにする。


「あなたは、誰……ですか?」

「私? 私の名前はユーティア。世界に忘れられた……今は神様さ」

「神、様?」


 雰囲気とは裏腹に軽い口調で自分のことを神と名乗った彼女──ユーティアは、優しい笑みを浮かべながら肯定を意味して頷く。


「私のこと、ユーティアって呼んでいいよ。その代わりに君の名前を教えてほしいな」

「えっと、俺……いや、私はソラって言います」

「ソラちゃんか。可愛い名前だね」

「ありがとうございます……」


 見た目は完全美少女のソラだが、心は男であるため可愛いと言われて何とも言えない気分になる。

 しかし、気になることがいくつもあるので、細かいことは気にせずに幾つか質問を投げかけてみることにする。


「えっと、ではユーティア、さん」

「うん。何かな、ソラちゃん?」

「ここは、どこですか?」


 改めて辺りを見渡す。

 最初は突然の急展開に頭がいっぱいだったが、少し落ち着いて来たソラは周囲の景色を見て問いかける。

 あたりは一面が青一色の世界だった。

 地面には浅い水たまりがどこまでも続いていて、空は雲一つない晴天。

 太陽の光がサンサンと照らしているが、熱を感じることはなくとても過ごしやすい。

 ソラとユーティア以外に人影はなく、物や建造物もない……そんな世界。


「そうだね。ここは私の心象世界だよ」

「しんしょうせかい?」

「そう。私の心が風景として実体化した世界のことだよ」

「これが……」


 これが神の世界なのかと感概深く思っていると、ユーティアがゆっくりと語りだす。


「私がソラ、君をここに呼んだのはね……運命を感じたからだ」

「運命ですか」

「そう、ところでソラちゃん、君はどうやってあの湖まできたの?」

「え? どうやってと言われても……普通に歩いていたらたどり着きましたけど」


 ソラはつい先ほどまでの出来事を思い返しながら言った。

 森を一方向に目的もなく歩き、霧に巻かれて、抜けた先が湖だった。

 だから特別な方法なんてない。


「そう」


 それを聞いたユーティアは「フフ」と笑ったかと思うと、続けてある事実を口にした。


「あの湖の周辺にはね、普通じゃ入れない特殊な結界が張ってあるんだよ」

「特殊な結界?」

「うん。ソラちゃん、歩いてるときに霧が出てなかった?」

「な、なんで分かるんですか⁉」


 驚いていると、ユーティアはさも当然といった顔をして訳を言った。


「それが結界だからだよ」

「あの霧が……」

「あれはね、私が、私の力を継承できる人しか通れないように設定したんだ。

 他の人は霧に巻かれて森の外に出るようになってるよ」

「そうなんですね」


 へぇ~……と思ったソラは、そこでふと疑問を口にする。


「どうして私は通れて他の人は通れないんですか?」


 当然の疑問だった。

 他の人は無理で、なぜ俺はたどり着けたのか……。

 そう考えているソラに、ユーティアは少し真剣な表情を向けた。


「それは、ソラちゃんが私の力を受け継ぐにふさわしかったからだよ」

「そう、なんですね」

「だから、君には私の力を継いでほしい。お願いできるかな?」


 俺の目を見つめながら問いかけてくるユーティア。

 その視線にどこか、縋りつくような切実さを感じた。


(あんな目をされてら、断れないな)


「いいですよ。どの道こんな状況ですし。

 それに力はあって困りませんから」

「ありがとう」


 礼を言って、一つ息を吐くユーティア。


「それじゃ、力の継承の前に私のことを知ってもらいたいところだけど。

 私が最初に、世界から忘れられた神……って言ったの覚えてる?」


 そう聞かれ、首肯するソラ。


「もちろん覚えてますよ」

「そうだよね。今から話すのは、もう誰も知らない……私が神になる前の出来事だよ」


 そうして語られるのは、失われた神話だった。

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