復活6
「まじかよ、なんで何もでないんだよ……!」
普通こういうピンチの時に覚醒して、一瞬で敵を殲滅するとか、転生と言えばそういう展開じゃないのか!?
「くる! 逃げて!」
シエノが俺をかばうようにして前に出た。身構えていたモンスターは、こちらが何も攻撃してこないことを確認して、鋭い爪を振りかざし襲いかかってくる。
「きゃっ……!」
俺の身代わりで攻撃を受けたシエノは腕から血を流し、3メートル程ふっ飛ばされた。
助けるどころか、助けられるって……ウソだろ。転生した意味って……! まじでやばい! 二人ともやられる……!
そう覚悟した瞬間、どこからともなく素早いスピードで現れた何かが、モンスターに一撃を食らわせた。モンスターはその衝撃の強さに怯み後退して距離をとった。
「ふぅ、ギリギリセーフ。お兄ちゃんには指一本触らせない!」
突然飛び出して助けてくれた正体は妹のユリーナだった。小柄な風貌、白い肌、いつものワンピース風の格好、紛れもなくユリーナである。
「えっ、ユリーナ!? なんで!?」
「別に隠してたわけじゃないんだけど……黙っててごめんなさい。家族を崩壊させた魔王軍が許せなくて復讐のためにずっと修行してたらまあまあ強くなっちゃって……」
するとユリーナの手が光り輝きだし徐々に何か武器のようなものに形作られていく。
出来上がった物は3メートルくらいの長さ、片面はバトルアックス型の斧状の刃で、反対側が巨大なハンマー型になっている武器だ。両面で攻撃可能なようだ。
それにしてもデカい。こんなデカい武器をユリーナが振り回せるのだろうか。
「魔王軍は……全滅させる……!」
ユリーナが武器を構えたと思った瞬間にはすでにその場からいなくなっていた。早すぎてまったく見えない。気付いた時にはすでに2体のモンスターの正面へと立っていた。
巨大な武器を片手で頭の上に掲げた姿勢をとる。まずは1体のモンスターが襲い掛かってきた。
「おい! ユリーナ! 危ない!」
思わず声を発した瞬間、襲い掛かってきたモンスターは振り下ろされたバトルアックスの刃側により頭から真っ二つに切り裂かれていた。ユリーナの射程圏内に入ったすぐの出来事だった。正直振り下ろしのモーションが早すぎてはっきりとは見えなかった。
一歩後ろに引き距離をとったユリーナは今度はハンマー側の方をモンスターへ向けた。
「ふぅ……!」
武器に力を込める素振をすると、ハンマー部分が光りだした。そのまま今度は真横から薙ぎ払うように一直線に武器を振るう。真っ二つになったモンスターの体にハンマー部分が直撃しその勢いと威力で体は粉々に砕け散った。
「す、すげぇ……」
正直なかなかグロい光景ではある。真っ二つの時点で絶命していたと思うが完全に止めをさしたといったところだろう。
俺をかばい傷付いているシエノも、倒れながら同じく呆然とした表情でその戦いを見続けていた。
残りは1体だ。もう1体のモンスターがそれを見て身の危険を察したのか空へと飛び立った。どうやら逃げるようだ。
「逃がさない! サンダーバスター!」
ユリーナが両手を構え、逃げるモンスターの方へかざして魔法を唱えた。先程シエノが唱えたものと同じだ。
しかしその勢いは桁違いで、漫画で巨大戦艦がビーム砲を打ったような激しさだ。シエノが放ったサンダーバスターと比べるとおよそ10倍くらいはあるだろうか。モンスター全体を包み込んでも余るほどである。
ユリーナから距離をとってるにも関わらず、こちらもふっ飛ばされそうになるのを必死に堪えた。直撃したモンスターは魔法により消滅したのか、それとも魔法の勢いで遠くへ弾き飛ばされたのかわからないが、モンスターの姿はどこにもなかった。
「空に飛んでくれたおかげで思いっきり魔法が撃てたからよかった。……お兄ちゃん、大丈夫だった!? 怪我無い!?」
「ああ、大丈夫だけど。ユリーナ……お前、めちゃくちゃ強いんだな」
「あの……先程からユリーナって……もしかして……あのSランク闘士のユリーナ様ですか……!?」
倒れていたシエノがゆっくりと起き上がりながら会話に入ってきた。怪我をしているにも関わらず、それよりもユリーナの方が気になるようで、その目はとても輝いてた。
「あ、そうなんですけど……すいません、一応正体は隠してやってるので……内緒でお願いします」
「もちろんです! 私より年下なんて思いもしなかったですが……」
しかし話が見えん。ユリーナが強いのはわかったが、Sランク闘士ってなんだ。
「その……Sランク闘士だっけ? それってなに?」
「あ、えーと」
「大丈夫です。私が説明します」
言いかけたユリーナの横からシエノが割り込んできた。
「先程お話しした闘和機構とはまったく関係ない組織で、世界ギルドというのがありまして、世界中の冒険者が登録できるものです。登録したものは闘士と呼ばれます。依頼を受けたり賞金首を捕まえたり、その強さや功績などが考慮されてランクが付与されます。最高位はSSランクですが、現在は6人しかいません。Sランクは数十人くらいですが、その中でも次期SSランクと呼ばれているのがユリーナ様なんです!」
「なるほど、そういう事か……」
シエノが先程よりも生き生きと話しているように感じる。ありがちな設定だが、個人的にはランク付けされるというのはとても好みの設定だ。
「あとさっきから、なんでユリーナのこと様付けなんですか?」
「ユリーナ様は数々の功績があり、積極的に前線に行き何度も魔王軍侵略を阻止している実力者にも関わらず女性ということしか情報がなく、私達女性闘士の中ではカリスマ的存在なのです」
そんなにすごいやつなのか。謎が多くてミステリアスな人は美化されがちなのと同じ現象だよな。
「カリスマなんて恐れ多いです。Sランクの闘士は私以外にもいっぱいいるし、目立つのが恥ずかしかったから普段戦うときは仮面をして正体を隠してて……」
ユリーナは実は結構人見知りなのか、シエノと話す時はやけにおどおどしい。
「世界を平和にとか、そんなこともあんまり考えてなくて……私はただお兄ちゃんを……私の家族をめちゃくちゃにした恨みを晴らしたかったから魔王軍と戦ってきただけなので……」
なるほど、ユリーナの強さは憎しみがすべてか。それだけでここまで強くなるのは物凄いことだが。
魔王軍なんて俺が壊滅させてやる、と言いたいところだが、今の俺では何もできないのが悔しい。最強の転生のはずだったんだけどなぁ。
「ところで……サイリス。今は何も技が出せないみたいですが、虹色に変化した部分が気になりますし、闘和学園に……」
「ごめんなさい。お兄ちゃんは戦いの場には出さないです。その分私が戦うので」
俺が返事をする前にユリーナがきっぱりと答えた。先程感じたおどおどしい雰囲気ではなかった。
「あ、はい……ユリーナ様からそう言われましたら、これ以上何も言えないですけど……でも物凄いポテンシャルを秘めている気がするのでもったいないです」
「私のお兄ちゃんなので、きっとそうかもしれないです。でもお母さんとの約束なので……」
ユリーナに引きずられるようにその場から無理やり離れさせられた。約束ってなんだ……?
「お兄ちゃんはまだ病み上がりなので、そろそろ病室に戻りますね。お兄ちゃんをかばってくれてありがとうございました! 絶対いつかお返ししますので! ごめんなさい。失礼します!」
「あ、ちょっ、ユリーナ……」
シエノにはまだ聞きたいことは色々あったが、強引に手を引っ張られ、次第に遠ざけられてしまった。