復活5
「こちらも自己紹介が遅れました。えっと、サイリスって言います。よろしくお願いします」
まだ全然自分の名前に慣れないぜ。
「育成組織ってことは、その学園で戦いの訓練とかしてるんですか?」
「そうですね。普段は座学や訓練で、人手が足りない時は実戦にも駆り出されたりしてますよ。ちなみに数日前の実戦のケガで実は私は今入院してました」
外傷はないと思っていたが、同じく入院してる側だったのか。学生でも怪我をする程の前線まで行かされるとは人手は本当に足りてないんだろうな。
「そうだ、私勧誘みたいな……才能ある人を探したりもしてまして、もしよければ自分の可能性調べてみますか?」
そう言うとシエノは俺の返事を待たずして、空中で球体を作るように両手のひらを動かし始めた。次第にその中心が眩い光を発し、光が球体になり、水晶のようなものが生成された。
「これは私の能力で“水晶色識”って呼んでます。人の潜在能力、可能性の部分を判別できます」
「へー! すごい、手品みたいだ」
「手品ってなんですか?」
「あ、いや、なんでもないです」
そっか、魔法がある世界だから手品という言葉はないのか。
しかし、この世界に来て初めて実際の魔法を見たな。改めて魔法の世界に来たんだなぁと実感する。
「自分の中のエネルギーをこの水晶に吸収させるようなイメージをしながら手を当ててみて下さい」
シエノが水晶を持ったままこちらへ差し出してきた。恐る恐る触れてみるが、本物の水晶玉のように固くガラスのような素材だ。能力でできた物だからもっと柔らかいような触感を想像していた。
「そんな怖がらなくて大丈夫ですよ。そのまま全身のエネルギーが手のひらに集まってくるようなイメージです」
言われた通りにやってみよう。目を開いた状態だといまいち集中しずらいので、まずは目を瞑り精神統一をする。
体中のエネルギーが手のひらに集まる……そして、水晶に伝わっていくイメージ……。
「才能がある人は水晶が色付きます。その色によってどんなことが得意とか、何ができるのかという傾向が分かります。もし透明な水晶のままなら残念ながら戦闘の才能はな……」
シエノが明らかにセリフの途中で言葉に詰まった。
絶句する程の何かがあったのかと心配になり目を開けると、虹色に光り輝く水晶がそこにはあった。
「おお、すごい。キレイだね。虹色に輝いた時はどんな才能があるんですか?」
「あ、え、いや、虹色なんて……初めてで……なんだろう」
おっと、ここにきてやっと最強の片鱗が出始めたかな。パチンコでもスマホゲーのガチャでもそうだが、虹色はだいたい激アツ、SSR確定とかレア度が高い。これは期待できるのではないだろうか。
「変化したということは、とりあえず戦闘の才能はあるってことでいいんですよね?」
「そうですね。どういう特性かはわからないですが、何かしら能力があるのは間違いないと思います」
「それを知れただけでも安心しました。ありがとうございます。せっかくなら強い感じだといいなぁ」
「えっと、もし興味が少しでもあるのなら闘和学園へ……」
突如物凄い嫌な気配を感じた。何かはわからないが、良くないものが近付いてくる。シエノも感じたのか辺りを警戒し始めた。
「サイリスも感じました? 私が時間を稼ぐのでここから逃げてください!」
シエノは今までの落ち着いた雰囲気から一変して険しく厳しい表情で、気配がする方の空を睨んでいた。
戦えないとは言え、最強の転生をしているはずだし逃げるわけにはいかない。第一、女の子を置いて逃げることはしたくないし。それに、もしかしてピンチになったら覚醒するかもしれない。
シエノと同じ方角を見ると、遠くに鳥のようなものが2羽近付いてくるのが見えた。いや、鳥にしては大きい気もするが。
「あれは……なんですか?」
「……うそ、なんで。こんなところに上級モンスターのワイバーンが来るの。お願い……通り過ぎて……」
近付いてきてわかったが、全然鳥とは比べ物にならない大きさだった。羽を広げた全長は5メートルくらいあるだろう。
「ふぅ……こっちはまったく見てない。よかった。通り過ぎそう」
2体のモンスターはこちらの方は見向きもしていないので、ただの通過点だったようだ。彼女の言う通り、病院の上空を通り過ぎようとしたその時、激しい稲光みたいなものがモンスター2体を攻撃した。
「え、なに!? 何が起きたの!? 誰か攻撃した?」
「いや、違う……! この病院のバリアに引っかかったんだ。最悪……」
2体のモンスターと目が合った。激しい雄たけびとともにバリアを突き破ろうと進路をこちらの方へ変えた。
「だめ、私達が攻撃したと思ってる。防衛のための病院のバリアが裏目に出た。私が食い止めるから早く逃げて!」
「え、勝てるの?」
「多分……無理。1体ならまだしも、2体は……どれぐらい持つか……」
さらに激しいモンスターの雄たけびが響き、病院全体が一瞬光り輝いた。直後、モンスターが目の前に降り立った。
「バリアが破壊された! サンダーバスター!」
バリアが破壊されたことで、病院のサイレンが鳴り響いた。シエノはすぐに手のひらから激しい雷撃魔法を放つ。2体ともに当たり、少し怯むような様子を見せたがすぐにかき消された。
「くっ、ダメ、全然ダメージを与えられない……」
シエノの表情からは絶望の色が伺える。なかなかにピンチだな。ぶっつけ本番で何かできるだろうか。いや、やらなければいけない。最強転生者の力を見せてやる!
「ちょっと、何してるの!? あなた戦えないでしょ!?」
俺は手のひらを前に付き出した。同じ感じに力を込めて何か詠唱すればいいんだろ。いけるいける。てか、いってくれよっ……!
「まあ、見てて……くらえ! ヒートバスター!!」
体中のエネルギーが手のひらに集まるようなイメージをしながら唱えるも、俺の声は虚しく響いただけで終わった。
そう、手のひらからは何も放出されなかった。というか、手のひらが光る様子も、エネルギーが集まるような素振りも、魔法のかけらと思えるような変化は何も感じられなかった。