復活2
『……ん、ここは……どこだ』
目を開けようとするがとても眩しい。布団を着ており、ベッドに横たわっているのは理解できたがここがどこなのかまったくわからない。
先程の奇妙な光景はどうやら夢だったようだ。夢にしては見たこともない人ばかり登場したし、妙に生々しかったりしたのが気になる。
飛び降りをして、地面にぶつかる瞬間までの記憶は微かにある。だが病院という感じはしない。そもそもあれで一命を取り留めたとしたら本当に奇跡だと思う。
明るさにも少しずつ慣れてきたのでゆっくりと目をあけると、ベッドごとカプセル状の容器の中に収納されていることがわかった。
奇跡的に助かってしまって、やはり集中治療室の中にいるのだろうか。しかし、その割には自分に外傷はなく、むしろ体が軽い。それに集中治療室ならば医療用の機械や様々な管があったり、俺に装着されててもよさそうなものだがまったくない。
これはもしかして、もしかすると……本当に転生してしまったのではないか。あの転生の条件は真実だったのか。
ゆっくりと体を起こしてみる。手を開いたり閉じたりと動かしてみるが、動きはスムーズで違和感はない。自分の意思に寄って動く肉体であるのは間違いない。
ただ、数十年見慣れたものではなかった。俺はもっと毛深かったしこんなにキレイな指ではない。
部屋を見渡すと隅の方の壁に鏡がかかっているのが見えた。鏡を見たいがこのカプセル容器の出方がわからない。
カプセル全体を観察するとドアと思われる切れ込みみたいな部分があり、そのすぐ横にボタンがついていたので押してみる。するとすんなり切れ込み部分が開きベッド外に出れるようになった。
ベッドから立ち上がり鏡まで歩こうとするが、フラフラしてかなりきつい。上手く表現できないが、足全体が錆びているようだ。バランスをとるのがやっとで、足に力がはいらない。
普通に歩けば3秒くらいのところ、30秒くらいかかってしまったが鏡の前までなんとか来れた。自然と心臓の鼓動が高まる。
鏡の前に立ち覗くと、そこには若く爽やかなイケメンが立っていた。サラサラの黒髪、キレイな色白の肌、整った輪郭、目鼻立ち、吸い込まれそうなダークブルーの瞳。高校生くらいの年齢だと思われる。
どうやら転生は無事に成功したらしい。これが転生後の俺か。肌の色とか普通に日本人っぽい。とりあえず思っていた以上の姿だ。モデルや俳優としてスカウトされてもおかしくないと思う。
「ふぅ、忙しいなぁ」
鏡を見ていると突如ノックもなく室内のドアが開いた。
慌ててそちらを見ると、黒髪ショートカットで年齢は中高生くらいの女の子が立っていた。
「……えっ、え、え、うそ……!? そんな……えええー!」
彼女はこちらを見るなりいきなり叫びだしたと思ったら、今度はそのままその場で固まってしまった。パニックぶりはまるで死んだ人間が生き返ったのを見てしまったかのような様子だ。……いや、もしかして本当にそんな状態なのか?
「あの、すいません……ちょっと記憶がなくて……失礼ですがどちら様ですか?」
「あ、あ、あの……本当に……目覚めたんですか……?」
どういう意味だ。やはり俺は……転生後の世界の俺は、しばらく眠り続けていたということなのか。
彼女の驚きとこの部屋の構造、そして謎のカプセル容器。俺の知ってる病室とは違うが、恐らくここは病院みたいな医療施設なのだろう。
「と、ととと、とりあえず先生呼んできますっ! あまり動きまわらないで下さいね!!」
女の子は慌てて部屋から出ていった。廊下からは大声で「先生ぇぇえー!」と叫ぶ声と、慌ただしい足音が聞こえる。
すぐに白衣を着た男と戻ってきた。医者だろうか。こちらの世界の医者も白衣姿なんだな。ただ聴診器はなく、その代わりにレンズのようなものを覗き込まれながら全身を調べられた。
「ふむ……特に異常はないですね。健康の人となんら変わらないです。ただしずっと寝ていたので筋力だけが通常の人より衰えています。少しずつ訓練をして慣らしていけば問題ないと思いますが。とりあえず一週間様子見て異常がなければ退院していいですよ」
「そうなんですね! ありがとうございます!」
女の子は深々とお辞儀をすると医者は室内から出ていった。謎の女の子と二人きりになってしまった。
「奇跡は突然訪れるんですねっ! あ、えーと、そう言えば自己紹介まだですね。お兄ちゃん、初めまして。妹のユリーナです」
「お兄ちゃんって……? え、妹……なの……?」
「そうです! お兄ちゃんが意識を失う前は、まだ私は産まれてなかったから初めましてです」
「えーと、全然記憶がなくて、もう少し最初から詳しく教えてほしいかな」
「はい、もちろんです!」
ユリーナの話しでは、この世界の俺は4歳になった頃、町が魔王軍に襲われ、その時の魔族の魔法にやられ今日まで眠り続けていたとのこと。その時ユリーナはまだお腹の中にいて出産前だったそうだ。父親はその時の魔王軍襲撃で命を落とし、母親と二人で暮らしていたがユリーナが10歳になる頃病気で亡くなった。
「ということは今の俺の年齢は……」
「14年経つので18歳です! なので私は14歳です!」
お互い年相応の見た目なので、その点に関しては疑う余地はない。
「すまん、俺の名前ってなんだっけ?」
「サイリスです。お父さんがつけてくれたそうですよ」
サイリスか。これが俺の第二の人生の名前。
一つ気になるのは本来の元々のこの人の意識だが、俺の魂が入ると同時に死んでしまったということなんだろうか。とりあえずこの体は大事に使いますので!
それにしても都合良くできた転生だな。赤ちゃんの頃からの転生は正直だるいので、元々いる人物への転生で助かった。そして幼い頃から意識がなかったということを言えばこの世界の人から変に怪しまれることはないだろう。最高に丁度良い設定だ。
そしてこの世界。魔王軍というからには、剣と魔法のファンタジーの世界ということだ。転生のやり方に間違えていないはずなので、きっと俺はすでに世界最強クラスの能力者に違いない!
そう、例えば誰もがひれ伏すような最強奥義とか魔法とか、使える……よね? 早く使ってみたいものだ。
「お兄ちゃんごめんね。今日はちょっと色々立て込んでるからそろそろ行きます! また明日も来るから! また意識失ったりしないでね!」
「多分大丈夫だ。気を付けてな。行ってらっしゃい」
「えへへ、行ってらっしゃいっていいね。久し振りに言われた! 行ってきます!」
そう言うとユリーナは元気よく返事をして出ていった。
この世界では唯一の肉親になるのかな。大切にしてあげないとなぁ。