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前世3

 学生の頃にインターネット掲示板サイトで見つけた書き込み。当時の俺の心に刺さり、なんとなくメモってからずっと持ち歩いているもので、今では一種のお守りに近い存在かもしれない。


『男のための、良い転生者になる10か条』


 というタイトルがつけられた書き込み内容だが、


・虐められた経験がある

・不細工低身長

・友達がいない

・趣味がない

・ギャンブル好きで借金有

・彼女ができたことがない

・親が貧乏

・低収入

・何に対しても憎しみが強い

・転生したい気持ちが強い


 これらが一つでも多く、そしてそれに強く当てはまる人は転生することができる資格のあるもので、且つ、転生後の人生はイージーモードになるというものだ。


 現在の俺はほぼすべてが当てはまってしまう。中学時代にはクラスの陽キャグループから虐められていた。体育のジャージが隠されていたり、給食中にいきなり全メニューに牛乳をぶっかけられたり。思い返しただけでもまたイライラしてくる。

 不細工且つ160センチの低身長だから彼女はできたことがない。学生時代から今に至るまでプライベートで遊ぶような友達もいない、趣味は一応アニメ鑑賞なので、あることにはあるが、同時にパチンコも好きで若干の借金もある。


 あとは今風に言うと親ガチャ失敗とは思わないが、とりあえず金はなかった。しかし親としては大きな問題はなかったと思う。何の才能もなく怠惰な俺が一応社会人として働いているわけだしな。両親の教えのおかげだ。日々の暮らしがぎりぎりで余分なものは何も買ってもらえず、家族で旅行に行ったこともない。貧乏なのは間違いなかった。

 こんな生い立ちの俺が何に対しても憎しみが強くなり、次の幸せな人生を妄想するのはある意味当然のことなのではないか。


 匿名掲示板の書き込みなので当然誰かが創作した適当な内容なのは間違いないと思いながら、何故か無視することができずメモだけとって一応控えることにした。その後、もう一度同じ書き込みがないか探したことがあるが、その時見たのが最初で最後だった。


 書き込みの最後に、人生において10か条の条件が一番強く作用する時、最高のタイミングで死ぬこと。そして死ぬ瞬間に『誰もが認める外見』『誰もが羨む能力』『何者も越えられない才能』を念じながら死ぬと完璧な転生になるというように書かれていた。

 死ぬ瞬間にそんなに色々なことを考えられるのかという疑問はあるが。まあ、時間がゆっくり進む感覚があり走馬燈のように過去を振り返るとも言うからそれぐらいの余裕はあるのか。実際にやってみないと分からない。



 転生に思いを馳せながら死に場所を探して歩くが良い場所が思いつかない。とりあえず手っ取り早く楽に死ねる方法はないものかと考えてみる。急遽死ぬことを決意してもその手段は案外ないなと思う。俺の場合は死ぬ瞬間に色々考えられることが条件となるので……死ぬ瞬間までにその猶予があるもの……あれか、飛び降りか。

 となると怪しまれず、人目につきにくく、非常階段で屋上まで上がれそうな建物がベストだが都合よくそんな建物はない。唯一思いつく場所は一つしかない。職場のビルだ。


 6階建てのビルなので苦しまずにきちんと死ねるかが懸念されるが、頭からうまく落ちれば問題ないだろうか。


 休日出勤や夜間残業をよくしていたおかげで入り口の鍵は持たせてもらっていたのでいつでも普通に中に入れる。ここの屋上は簡単に上がれるし施錠もしておらず、フェンスはあるけど乗り越えようと思えば簡単に乗り越えれる程度のものだ。


 夜中0時になろうとしている。職場に到着した。これが最後の出勤となるのか。一応辺りを見渡しながら、ビルを一周して窓を確認するがどこの部屋も電気が着いていないので残ってる職員は誰もいなさそうだ。


 鍵を開けて、暗い廊下を歩き、階段を上がった。

 屋上に繋がるドアを開けると、穏やかな風が吹き込んだ。空には満月が明るく輝いてる。特に死に対する恐怖は何もなかった。これですべてが終わりだ。いや、違う。ここから新たな始まりになるんだ。


 フェンスに手と足をかけ、少しよじ登ると簡単に乗り越えることができた。フェンスを超えてもすぐに落ちるわけではなく、ビルの端まで少し余裕を持たせてある作りだ。

 少し歩きビルの縁で立ち止まると、視界が大きく開けた気がして、まるで空を飛んでいるような気分になる。もう目の前に障害物はない。あと一歩前に飛び越せばアスファルトの地面に落下するだけだ。

 今一度、転生の条件のメモ紙をポケットから取り出して眺める。内容は完全に頭に入っている。手から離すと風にあおられたメモ紙はすぐに見えないところまで飛んでいった。


 死ぬ瞬間に願いを念じることができる余裕があるのかが不安だが、ここまできたらもうやるしかない。覚悟を決めて右足を前に出した。万に一つも運良く助からないようにわざと、頭から落下するような態勢をとる。


 全身が空中に浮いた。その瞬間風が俺を包み込むような感覚に捕らわれたが、そんな感覚は一瞬のことで、体は地面へと物凄い勢いで引っ張られている。


 やばい、これは何かを頭に思い浮かべるなんて余裕はない。死ぬ。落下スピードが速い。間もなく地面だ。やばい早くしないと。




 イケメンで……誰もが羨む才能の塊で……! とにかく最高のポテンシャルが……!

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