ep2 試合開始
星空が広がる隔離都市「Eden」。街灯のない廃墟が、影となって重く沈んでいる。冷たい夜風が吹き抜け、遠くで何かが崩れる音がした。最上 瞭はその音に耳を澄ませ、目の前に広がる景色を一瞬見つめた。
彼はすでに戦場に立っていた。
「ここが…Edenか。」
瞭は周囲を見回した。ビルが立ち並び、通りには放棄された車が点在している。ゴーストタウンのように静まり返ったこの街で、100人の参加者が死闘を繰り広げるのだ。瞭の手には、支給されたM9ピストルが握られている。しかし、この武器一つでこの戦場を生き抜くのは難しいと彼は理解していた。
「まずは情報だな。」
そう呟きながら、瞭は慎重に動き出した。彼の最初の目的は、参加者たちの能力と動きを把握し、無駄な戦闘を避けつつ戦略的に行動することだった。
彼のスキル「緊急回避」は30秒のリキャストがある。無駄に使えば、次の危機に対応できなくなる可能性があるため、最も重要な場面まで温存する必要があった。街の中を進む瞭の視線は鋭く、わずかな音や動きにも敏感に反応していた。
「まずは、安全な場所を確保しよう。」
不意の出会い
しばらく進んだところで、突然、瞭の背後から何かが動く気配があった。瞬間的に反射神経が働き、瞭はすぐにM9を構えて振り返った。目の前には、一人の男が立っていた。筋骨隆々の男が笑みを浮かべて、斧を片手に持っている。
「へぇ、最初の獲物が君か。ラッキーだな。」
男はニヤリと笑いながらゆっくりと瞭に近づいてくる。彼の動きからは、まるで獲物を追い詰める肉食獣のような残忍さが漂っていた。
「名前くらいは聞いておこうか?」瞭が冷静に問う。
「俺の名はハルト。まあ、覚える必要はないだろう。すぐに死ぬんだからな!」
ハルトは斧を振りかざし、勢いよく瞭に突進してきた。瞭は即座にスキル「緊急回避」を発動させ、その場から瞬時に5メートル先にテレポートした。ハルトの斧は空を切り、コンクリートの地面に深く食い込む。
「ちっ、逃げ足が早いな。」
「先に動いたのは君だ。」
瞭は冷静な口調を保ちながら、狙いを定め、ハルトの肩に向けてピストルを放った。だが、ハルトはその場で跳躍し、銃弾を避ける。
「へえ、意外と動けるじゃないか。でも次は避けられないぞ!」
ハルトは再び斧を振りかざしながら突進する。その圧倒的な力を前に、瞭は瞬時に周囲を確認し、次の行動を決めた。
「ここだ。」
瞭は横に飛び込み、放置されていた車の陰に隠れる。ハルトが追いかけてくる音が近づいてくるが、瞭は冷静にその動きを計算していた。車を盾にしながら、瞭は隙を見つけ、次の瞬間、車の向こう側からもう一発の銃弾を放った。
銃声が響き、ハルトの足が止まった。
「ぐっ…!」
ハルトの膝に銃弾が命中し、彼はバランスを崩して地面に倒れ込む。
「終わりだ。」
瞭は確実に勝利を収めるため、ハルトに近づく。しかし、その時、ハルトの口元に薄い笑みが浮かんだ。
「まだだ…!」
突然、ハルトの体が膨れ上がり、全身が黒いオーラに包まれた。彼のスキルが発動したのだ。
「『バーサーカー』…!」
瞭はすぐにその異常な状況を察し、後退する。ハルトのスキルは肉体を強化し、痛みを感じなくする能力。負傷した膝など無視して、再び立ち上がり、暴力的な力を振りかざしてくる。
「このスキル、どうやって突破する…?」
瞭は次の行動を考えつつ、冷静に周囲を見渡した。ハルトが再び斧を振り上げた瞬間、瞭は一つの決断を下す。
「緊急回避はまだリキャスト中…だが、これなら!」
瞭は周囲の建物に目を向け、手近にあった瓦礫の山へと駆け込んだ。ハルトがその後を追ってくるが、瞭はその瞬間、瓦礫の隙間から飛び出し、ハルトの背後に回り込んだ。
「ここで決める…!」
瞭は、瓦礫の上に積み上げられたコンクリート片を見つけ、それを一気にハルトに向かって蹴り落とした。巨大な塊がハルトの頭上に落下し、彼を地面に押し潰す。
「ぐあっ…!」
ハルトはついに動きを止めた。スキル「バーサーカー」が解除され、彼の意識が薄れていく。瞭はその場に立ち尽くし、しばらくその様子を見届けた。
「油断するな…これはただの序章だ。」
瞭は自分に言い聞かせ、戦場の厳しさを再確認する。生き残るためには冷静さと判断力が必要だ。そして、仲間がいなければ、この先の戦いはさらに厳しいものになるだろう。
「俺には…この世界を変えるために、どうしても勝たなければならない理由がある。」
そう呟き、瞭は静かに次の目標へと歩みを進めた。
新たなる仲間
廃墟の中で、静かな足音が近づいてくる。次の瞬間、女性の声が瞭の背後から聞こえた。
「随分と手際がいいのね。あなたが最上 瞭?」
瞭は振り返り、そこに立っていたのは長い髪をなびかせた女性、櫻井 彩香だった。彼女は落ち着いた表情で、瞭に微笑む。
「私も参加者よ。これからは少し、協力しない?」
彩香の言葉に瞭は一瞬驚いたが、その冷静な目つきには確かな信頼が感じられた。
「協力、か…」
「そうよ。Edenでは一人で生き抜くのは難しいわ。特に、これからの試練を考えればね。」
瞭はしばらくの沈黙の後、頷いた。
「いいだろう。ただし、お互いに信用を裏切らないことだ。」
二人の間に静かな約束が交わされ、瞭は新たな仲間を得た。これからの戦いは、さらに過酷なものになるだろう。しかし、彼には仲間と共に、この残酷な世界を変えるための戦いが待っていた。
「俺たちの目標はただ一つ。頂点に立つことだ。」
夜が更け、Edenの戦いはまだ始まったばかりだった。