きみの気持ちは手の中に。
※2022年5月、ノベルアップ様に別名で投稿した作品です。
どのくらい、見つめていただろうか。
自分の手を。
仕方ない。だって他に思考が回らないんだ。
KY線。
一昔前、"空気読めない線"として話題になった、敬遠したくなるような線が、俺の手相にはクッキリと刻まれていた。
空気のKは、気持ちのK。
「~~!!」
想いが通じてると信じてた彼女が、実は別のヤツとつき合ってた。
それにずっと気づかなかっただなんて……とんだ道化だ。
がっくりと項垂れる。
今日はもう何もしたくない。
今日どころか、明日も明後日も、その先も。
当分、元気出そうにない。
自室のベッドで仰向けに倒れたまま、ぼんやりと生きる気力を失っていた時。階下から声が聞こえた。
「こんにちは――っ」
弾けるような明るい声。
(萌香だな)
3軒先に住むイトコは、ひんぱんにウチにやってくる。
母さんが応対してる声が聞こえた。
どうせまた、お菓子か何かを持ってきたんだろう。
試作品だと言っては、手づくりのお菓子や料理をお裾分けしにくる。
美味いけど。
萌香のクラスで流行ってんのかな?
と、軽やかな足音が、階段を駆け上がって来た。
(くっ。ただいま失恋中です。構わないでください)
そんな恥を言えるわけもなく、仕方なくノックに応じる。
「将くーん。今日はマドレーヌ作ったの。食べてみて!」
上半身を起こしながら迎えると、萌香は俺の顔を見てピタリと止まった。
「あれ? 暗いね? 何かあった?」
「関係ないだろ。察したなら、すぐ帰れ」
憮然と答えると、「えええ、せっかく来たのに」と言いながら、部屋に入ってきた。美味しい焼き菓子の匂いと一緒に、ベッドに腰かけてくる。
「? 何してたの?」
スマホも本も周りにないことを見て取って、疑問に思ったらしい。
「俺ってつくづく空気読めないヤツだったんだなぁって思って、KY線見てた」
「ふぅん?」
しばらくこっちを伺ってた萌香が、いきなり言った。
「さては新野さんに、フラレでもした?」
「ななな、なん、で?!」
(エスパーか!! てか、何をどこまで知ってんだ?)
見透かされてる? 誰にも話したことなかったのに。
「将くんの鈍感レベルはSランクだからねぇ」
褒められてない。
「なるほど、それでKY線。別に手相のせいってわけでもないと思うんだけど……」
口ごもった萌香が、ぱっと提案してきた。
「知ってる? 将くん。手相ってね、変えれるんだよ」
「は? そんなの無理だろ?」
「方法は簡単。変えたい手相にマジックで線を書くだけ。それ続けたら、運命はそっちに添うんだって」
「え……嘘くさ……」
「まあまあ。私が将くんに素敵な彼女が出来るよう、手相書いてあげるよ」
ひとのペン立て漁って、マジックの蓋をキュポンと開けた萌香が、俺の手に線を書き始める。
「おい!」
「大丈夫、大丈夫。水性ペンだから」
「水性でもやめろ!」
あわてて引き戻した手のひらに書かれてあったのは、線じゃなくて文字。
"スキ"
(えっ……?)
「本当に。SS級のニブさよね」
萌香が笑みを含みつつ、呆れたように俺を見た。
鈍さランクが上がってるけど。
「はい、餌付け」
ポンと口に放り込まれたマドレーヌ。バターの香りは、これまでのどの菓子よりも甘く感じて。
えええええ──???
お読みいただき有難うございました!
新しいK(恋の)Y(矢)線が増えたところで終わってしまいました。
当時、字数制限のある企画でして、すみません。
「なろう」さん書き手歴2周年記念ということで、"ひとり祭り"開催することにしました!!
他サイトで書いた短編をいくつか転載予定です(*´▽`*)
2022年11月7日は天赦日、大安、天恩日、甲子の日で、とても良い日のようなので本日スタート♪(あとついでに"立冬")
普段「なろう」さんで書いてない"現実恋愛"を主に持ち込もうと思っていますので、「現実恋愛なら読むよー」という方にもどうぞよろしくお願いいたします♪
【追記】
KY線のフォローしておきます!
空気読めない悪しき線のように吹聴されていますが、こちらの線は欧米の方に多いらしく、新天地を切り開く力を持っています。
自由を好みますが、場の空気をうまく良い方向にもっていくなど、「実は空気読めてるよね?」という線でもあるようです。リーダーシップもあります。
…ただマイペース気質ではあるようです(笑) だって自由だから!!
だからKY線があっても、まーくんみたいに落ち込む必要は皆無です。むしろ胸張ってくださいね♪