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箱物語  作者: 胡虹こいろ
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難色

それから二晩目の野宿が明けた昼前、雪が「あっ」と小さく呟いて道の先を指した。小さな祠だ。


「あれ、こんなとこに村あったんだ」


陽も続いて小さく言う。

祠は、近くに人の住む村がある、もしくは、あったしるしだ。


いくらもう慣れたとはいえ、野宿は疲れる。

期待で少し軽くなる足に、我ながら相変わらず単純なもんだと口元だけで笑いながら、村がまだありますようにと祈る。


「あはっ、凜がにやにやしてる」


雪がにやにやしながら覗き込んでくるが、そういう雪だってぴょこぴょこと動いて話す姿は随分と気が緩んでいるようだ。


「笑う門には福来たら良いなぁ」


「かど……?」





やがて、森がいくらか開けて家らしい塊、その傍に動く影が見え始めた。


「あれは大きさ的に人間だよね? 動物じゃないよね?」

「それっぽいよね、人いそう……」


でも、村があって、人がいても、まだ安心はできない。



「あの……」


物影から様子を伺うようにそっとこちらを覗いている女性に、おずおずと声を掛けると、女性は緊張した面持ちで一歩こちらに姿を出した。


「……どちら様ですか」


嫌な予感。


「私たちは旅の者です。良ければ少し休ませていただけませんか?」


物腰柔らかく言う陽に対し、女性は硬い表情を崩さない。



「うちに宿屋はないので……、どうか……他をあたってください。それであの……ちょっと待っててください、村の中を通って良いか聞いてくるので」



女が離れると、誰からともなく大きなため息が聞こえて重なった。


「早く出てけ感強すぎない……?」

「わかる……こわ……」



結局、そこは村の人間以外は寄るなって感じの村で、私たちは子どもだったおかげでなんとか通り抜けを許されたらしい。

居心地の悪い視線を全身に浴びながら私たちは村を歩いた。


心地は悪いけど、慣れている。

陽を先頭に、杏と雪を挟んで私が最後を歩く。

交わることを許さないのであれば、何故いっそ無関心でいてくれないんだろう。

何故悪意だけは一丁前に示してくるんだろう。


ふぅ、と小さく一つ息を吐いて喉まで溜まった重いもやもやを頭の外に追い出し、前を向く。行き場のない愚痴を唱えて心までも蝕まれ続けるのは、負けた気がして癪だから。



せっかくすっきりさせようとした私の耳を、ふと不快な虫の羽音が掠めた。

ばっと振り返ると、びくっとしたように目を逸らされる。


抑えたはずの黒い感情が一気に噴き出した。

だってあいつらは、小声で軽い調子で言ったんだ。


「捨てられたのかしら。可哀想」

「きっと大人にはなれないんでしょうね」


別にそう思われて不思議ではない。

子どもだけで生きてるってそういうことだ。

直接言ってきた訳じゃない。

知らん振りしたって構わないはずだ。


でも、それを淡々と受け入れられてしまうような

私ではありたくなかった。


黙って二人の女の前まで歩いて行き、自分より少し高いその顔を睨めつける。


「これは私らの選んだ道だ。死ぬ予定もないし、しょうもない感想言うしかできないあんたらよりも、必ず立派な大人になるよ。四人とも」


間抜けに呆けて言葉もろくに出ないでいるのを認めて、口角が上がる。

こんなことでは現状は何も変わらないとわかっている。


「凜ー?」

「何かあったー?」


背後、少し進んだ先からあどけなく呼ぶ声。

ぱっと振り返って大好きな人たちだけを視界に入れる。

厳しい状況だって構わないんだ。だって私にはこの家族がいて最高に楽しいんだから。


「信っじられないくらい、しょうもないこと」


言って、三人に向かってにっと笑う。

笑えるくらいしょうもないのに、譲れないものがある。


まあ良いやを重ねた先にはきっと、私は私でなくなってしまうから。

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