Phase 1-1『最低な思いつき』
Phase 1-1 22/5/9 投稿
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魔術大国『アルキリオ』
中央図書館
────それは、本当に偶然だった。
「────」
クロード賢士に頼まれた書籍を探している途中、キリアリスが非常に渋い顔をしているのに気が付いた。
「どうしたんです、苦虫を(A face )噛み(that )潰した(seems to )ような( bite a )
顔をして(bitter worm)」
手を休めているキリアリスに半ば呆れながら言い放つ。
「え、苦虫なんか食べないぞ、俺は」
書籍探しをサボるなと遠回しに言ったつもりだったのだが、素っ頓狂な回答をしてくるキリアリスに思わずため息をつく。
「失礼、今のは俺の国の諺で、そのくらい渋い顔をしていたという例えなんだよ」
「お前それ仮にも隊長相手にする例えか」
嫌味を言っていることがやっと伝わったのか、キリアリスがむっと睨みつけてくる。が、毎度ながら威圧感が足りていない。
「馬鹿にされたくないのなら早くと手を動かしてほしい、でなければ賢士に言いつけるよ」
「いや、それは勘弁してほしいけどさぁ……」
しゅん、と落ち込むキリアリス。正直他の騎士のイメージが下がるのでもう少し堂々としてほしいところだが。
「けど、なに、忙しいんだから要件があるなら早く言ってほしいんだけど」
何か言いたげなので回答を急かす。物事はスムーズに効率よく、が基本だ。
「いや、その。
あそこにいる男、いるだろう。第三遠征隊の隊長なんだけどさ、あいつの実兄を……殺してるんだよ、俺」
だから少し気まずくて、と続けるキリアリス。
確かにそれは気まずいだろうな……と言いたいところだが少し気まずいくらいで流せるこの人は大概大物だなとむしろ感心した。
「それなら謝るか何か行動を……ん」
変な感傷で時間を潰されるのも嫌だな、と、その相手をちらりと盗み見て興味深いものを見つけた。
「大樹の本……ユグドラシルの事か。それと、結界への対策についての書籍……」
ふむ、と、少し思案する。
「なんだよ、お前も手が止まってんじゃねぇか」
「ちょっと黙って」
「────」
ぴしゃりと言い放ち、少し思い出す。
「第三遠征隊、確かショートエッジの……フレア=ダイアスレフ。
名前が似ているけれどダインスレイヴと何か関係が……いや、今はいい」
すっと本棚から書籍を引き抜く。
「キリアリス、ちょっと思いついたことがあるからいったん帰ろう」
「え、待てよ、賢士に言われた本は」
ひらひらと依頼された本を振って見せる。
「成功は……しないかもしれないけれど、試す価値はある……」
ユグドラシル、結界、第三遠征部隊、とりあえずキーワードが三つ。特に目的が果たせなくても最悪小さなコネと材料を手に入れられるかなと悪だくみをしながら賢士のもとへ帰る。
唐突な思いつきがこの後大きな分岐点につながることを、この時の俺はまだ知る由もなかった。