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Endless WAR  作者: 嵯峨時政(さが ときまさ)
72/72

hase4-4『振り切られる言葉』

Phase4-5 23/7/24 更新

「流石に驚いてるわね」

 ふふん、と得意げなメリッサに思わず目を泳がせる。

「ばか、そう言うことじゃなくて、俺の後ろに居るのは……」

 そう、俺の後ろには今まさに押さえつけてきている監視役がいる。しかもこいつは魔術師だ、不意を突かれればメリッサでも危ないかもしれない……。

「あぁ、セイは知らないのね。

 彼女はエルヴィリッヒ=カンパネッラ。

 アルキリオのスパイよ。あぁ、でも名前は呼んじゃ駄目、絶対明かさないからこの子」

「え……」

 おもわずぎょっとして振り返る。

 見上げた顔は相変わらず何事も無かったかのように飄々としている。

「指令以外は完全にレダルキアの人間として振舞うスパイ。だからその子はセイになんの手伝いもしないし、何の手助けもしない。

 なんなら戦闘時にはアルキリオ兵と普通に戦うし殺すわ。

 戦争の闇よね」

 説明になるほど、と頷いた。

 確かに辻褄は合っている。

「さて、時間もそろそろ無くなってきたから用件だけ。

 二週間後、キリアリスがここに救出にやってくる。私もそれまでは潜伏しているつもり。

 逃げるつもりがあるのなら町中で私に声を掛けて。この辺で諜報活動してるから。あぁ、呼び名は『メリー』でお願いね」

 いつもの憎まれ口を叩く余裕も無いのだろう、矢継早に要件を言うメリッサ。

 時間が無いことは承知しているが、しかしどうしても納得がいかない。

「なんで防衛隊のお前が、俺を助けに来るんだよ」

 遠征隊という専用のエリートが居るはず。だというのに防衛隊であるメリッサがなぜこんなところに来たのか。

「あぁ、他に誰も手を挙げなかったのよ。

 潜入だって楽じゃないし、失敗したら殺される……どころの話じゃないでしょうし。

 決め手にセイがこちらに戻ってくる確率が三割くらいだって賢士が言ってたから」

 困ったものよね。と、嘆息するメリッサ。

 だが、俺が訊きたいのはそういうことではなく。

「いや、だから訊いてるのは他の奴が来ない理由じゃなくて、お前が来た理由だよ」

 訪ねるとメリッサがじとっとこちらを睨んだ。

「はぁ、女の子にみなまで言わせるなんて最低ね」

 そしてやれやれと呆れたように目を伏せると、

「……見捨てられるわけ、ないじゃない。

 国外から独りで来て、心細かったはずなのに必死に強がってた、馬鹿な男の子を」

 そう、息を吐くように、悲しそうな顔で言った。

「――――な」

 メリッサらしくない顔。その表情があまりにも真っすぐだったからだろう、思わず言葉を失ってしまった。

「さてと、エルヴィさん。

 セイをよろしくね。と言ってもまぁ、脱出の時以外は何も出来ないでしょうけど」

「まっ……」

 呼び止めようとするものの、しっ。と指先を唇に当てるジェスチャーで遮られた。

 そのまま周りに気付かれない程度に小さく手を振ってメリッサが去っていく。

「セイ=ディリブ・フロクレス」

 いきなり後ろから呼ばれ、ぎょっとして首だけ振り返る。

「自分の意を汲める友人は大切にすべきです」

 あくまで表情は変えず、淡々と告げるエルヴィ。

「え、あ、あぁ……」

 俺は戸惑いながらもメリッサの事を言っているのだと理解する。

 その言葉にどれくらいの意味があったのか、わからないまま車椅子を押されるまま俺は路地裏を後にした。


―――――†―――――


 そう言えば、メリッサに銀細工を渡し損ねたなと気付いたのは部屋に戻っての事だった。

 ベッドに横になりながら自分と師匠の銀細工を見て比べる。

「売りに出せるレベルとは言われたけど……」

 どう見ても細かな部分で差が付いていて惜しい人を亡くしたということを改めて実感した。

「で、あれから一言もしゃべらないけどアレはどういう意味があったんだ」

 部屋の隅で直立しているエルヴィに尋ねるものの、相変わらず無言のまま何も返してこない。

「やれやれ」

 言葉通りに受け取るのは容易だが、普段喋らない彼女としても何か思うところがあったからこそ口を開いたのだと思うが……その真意はわからない。

 これ以上考えても仕方ないので俺は自分が今できそうなこと、ということで武装のチェックをすることにした。

「リリース」

 自分の裡から装備品を全て取り出す。

「左手に付けてる銀の小手と師匠に貰った銀細工が三つ、自作が一つ、癇癪球が十数個、神父に貰ったナイフ、ジッポに……アルタキエラの鞘か」

 鞘を見ながらヴェルとの戦闘で何故剣を裡に仕舞わず手放したのだろうかと後悔する。

 あれ以上に優秀な武器が手に入るとは思えない。それくらい自分には不相応な、優れた剣だった。

「――――――」

 とりあえず振り回すなり盾にするなり出来るだろう、ということで他の武装と一緒に鞘も裡に仕舞っておいた。

 続けて身体の現状。右足が折れて歩行はしばらく難しい。左腕に罅が入っているが……こちらは日常生活には支障なし。

 二週間後にキリアリスが来ると言っていたが、ティスの治療魔術を勘定に入れても動けるようになるのはぎりぎりだろう。

 ちらり、とエルヴィの方を一瞥する。

 おそらくレダルキアを出る際には何かアクションがあるのだろうが……どちらにしろ俺が出ようと思わなければ始まらない。

「本当に―――」

 馬鹿な女だ。俺がアルキリオに帰る確率を賢士が三割だと言ったのならそれは大きな間違いだ。

 俺はアルキリオに戻るつもりは無い。現状、この世界においてマクラウド以上の協力者は居ない。

 腹に何を据えているのかが読めない為信用は出来ないが、利用する分には最も効率がいい。ここに来て目的も“同じ”である。

 メリッサには悪いが、二週間後には一人で帰ってもらおう……。

 俺はそう結論付け、ゆっくりと微睡みに身を任せた。


―――――†―――――


 another prespective by killalice…


 サクリファイスアジト付近。

 国境付近山中の森、その奥深く。

 木に身を隠すこともせず、キリアリスが悠々とアジトへの獣道を歩いていた。

「……キリアリス隊長、私たちはここまでということですが、本当におひとりでよろしいので」

 後ろに付いていた三人のアルキリオ兵が足を止めると、キリアリスもいったん足を止める。

「あぁ、敵の規模も“視えて”いる。

 人質は……出されると困るがその前に敵を全員殺せばいい。

 撤退の準備を頼む」

「了解しました」

 後ろについていた兵の一人が返事をすると、退路を確保できるよう、足場を整え始めた。

 それを確認するなりキリアリスはすぐに歩を進めた。

 正直、苛立っていた。自分が不在の間にバーンを出撃させ、あまつさえ敵に捕まったなどと。報告を受けたときにはクロードを殺そうかと本気で思った。

 だが、済んでしまったことは仕方がない。

 奪われたのであれば取り返せばいいだけの事。

「さて」

 目をつぶって神経を研ぎ澄ませる。

 自分を中心に魔力の流れ、位置を把握していく。

「―――――いた」

 時間にしておおよそ五秒程度。それだけでキリアリスは周囲一キロ圏内の魔術師の位置をすべて把握した。

 三百メートルほど先に一つ。位置的におそらく入口だろう、その奥にラウンドナイツのメンバー三人のものと、知らない魔力反応がすぐ近くに五つ。

「アーサー、ランスロット」

 けもの道を早足で駆けながら剣を展開する。視界の先、一つ目の魔力。門番である一人目と目が合った。

「え、本気かよ、本当に正面から来やがった。

 旦那ァッ、クラーキィ、出番だぞッ」

 手に備えた筒状のものから魔力の光弾を打ち出してくる。

「魔装具使い、か」

 魔装具、とは魔力を流すだけで魔術を行使する詠唱要らずの武器の事である。

 非常に数が少ないうえ、メンテナンスが出来る人間がほとんどいない為アルキリオでもその数はほとんどない。

 光弾を弾いているうちに奥から二人が走って出てきた。

「ったく、こんな時にヴェルスターはどうしたんだろうな」

 先に出てきたのは隻腕の男。左腕は魔装具であろう義手、金属で出来た掌が見える。

「聖域の戦闘後のアレでさすがに死んだのではないか、と。

 さすがのヴェルスターでも防ぎきれなかったのでは」

 もう一人は……どういうことかアルキリオの制服を着ている。どこかで見た人間な気もするが……今は気にしている余裕がない。

「うちのメンバーは……奥か」

 魔力の反応を確認する。メンバーの居場所は変わっていないが、奥に居た残り三つの魔力反応が離れていっている。

 よくわからないが人質を残したまま撤退しているのか……目的が計りかねる。

「あの剣、俺らが想像している以上に速いからな、気を付けて掛かれよ」

「はいはい了解。って、おいおいおい、アッサリ通れると思って―――――」

 止めようとする筒の魔装具使いの首を蒼い剣、アーサーで撥ねにいく。

 しかし済んでのところで隻腕の男が左腕で豪快に弾き返してきた。

「だから言わんこっちゃない。

 マグナ下がってろ、お前は援護だけでいい」

「ひ、りょ、了解……」

 隻腕の男が言うと筒を装備した男、マグナはアジトの奥の方へ引っ込み筒をこちらに向けた。

「クラーキィ、義体の調子は」

「ばっちりですよ、動きすぎるくらいですね」

 ぶん、と両手にカトラス刀を振って見せるアルキリオの制服を着た男、クラーキィ。

「じゃあ前衛だ、頼むぞ」

「承知致しました」

 クラーキィが前に立ち、その右後ろにつく形で隻腕の男。さらにその後ろからマグナが筒を構える陣形。

「――――ランスロット、トリスタン」

 想像以上に整っている陣形を見てキリアリスが二本追加で武器を展開する。

 余力で不意を突ければ戦いも楽に進むだろう。と考えていると。

「あと二本出て来るぞ、気を付けとけよ」

 手の内を見透かした言葉に一瞬ぎょっとするものの、そういえば別のサクリファイスメンバー、ヴェルスターに見られていたなと観念して追加で二本武器を展開した。

「手の内は割れてるか……ベイリン、ジェレイント」

 合計六本の剣を展開し、攻撃を開始するキリアリス。踊る剣、三本でまずクラーキィを殺しに行く。二本は隻腕の男へ、最後の一本、ランスロットは遠距離からの攻撃対策に守りとして使う。

「―――は」

 最初こそ器用に剣を捌いていたもののすぐに対応しきれなくなり、左腕を切り落とされるクラーキィ。

「いやぁ、ずっと……貴方に逢いたかったんですよ。キリアリスさん」

 しかし、左腕は落ちることなくくっつき、血が滴るのみで普通に動いている。

「――――ッ」

 もう一度、次は首の前部を半分ほど切り裂くものの、こちらもさほど血が出ず、クラーキィはにやりと笑うだけ、である。

 矢も数発刺さっているはずなのにこちらにも何のリアクションもない。

「いやぁ、本体でお会いできないのが実に惜しいですが、まぁいいでしょう。

 私の名前はクラーキィ=フォール・バーン。聞き覚え、ありますか、ありますよね、知っているでしょうッ」

 ははは、と高笑いをしながら襲ってくるクラーキィ。キリアリスは思わずあとじさった。

 ――――フォール・バーン。確かに、その名前には聞き覚えがある。自分を救ってくれた、親代わりと言っていい人物の名。

「――――ッ」

 思わず顔を顰めてしまう。だが、それがまずかった。クラーキィはその表情に確信を覚えたのだろうさらに楽し気に声を上げる。

 攻め入られることは無いにせよ、たいしたダメージを与えられている様子もなく、キリアリスは焦りを覚える。

「やはり、やはり貴方だったのですね、あの村の人々を皆殺しにしたのはッ」

「――――ちッ」

 加えてその言葉が胸の奥深くの記憶を呼び覚ました。

 フラッシュバックする、自分が築いた死体の山、部下の死体。

 戦闘中だというのに吐き気すら覚えてしまう。

「動揺が隠しきれていませんねぇ、未熟すぎやしませんか、ラウンドナイツの隊長ともあろう人間がッ」

 血みどろになって襲ってくるクラーキィはアルキリオの制服で。まるで、いつか自分が殺した/   /のようで。

「皆殺しにして、隊員まで巻き込んで、誰を救ったのでしょう。

 何を守りたかったんですかねぇ、貴方は。

 教えてくださいよ、さぁ、さぁ、さぁッ」

 まるで死人に責められているような錯覚にキリアリスは戦意を喪失しそうになっていた。

「クラーキィ、十分だろう、撤退だ」

 ばきん、と豪快に剣を弾き飛ばし、隻腕の男が後退する。

「ふむ、惜しいですが今日はここまで。

 楽しみはまた次回に取っておくとしましょう」

 そう言ってクラーキィも同様に後退する。

「逃がすわけがないだろ――――ッ」

 その背中を見てキリアリスは残った気力を振り絞ると追いかけるように踏み込み、剣をクラーキィに向けた。

「ふふふ、逃げませんよォ。

 “この身体”は差し上げますからァ」

 しかしクラーキィは不気味に振り返ると二本のカトラス刀を振り上げたまま大げさにとびかかってきた。

「アーサー、ガウェインッ」

 キリアリスが慌てて剣を展開する。

瞬間、クラーキィの身体が細切れに刻まれた。

「―アは―は――はハ――ァッ」

 飛び散った肉片の一部がキリアリスに当たり、不快に眉を顰めた。

 視界の端では地面に空いた闇に飛び込むサクリファイスのメンバーが見えた、が、すぐに追うことは出来なかった。

 ズタズタにされたキリアリスの心。

 一方ばらばらになる瞬間までクラーキィは笑っていた。

 奥歯を噛み締め、気持ちを切り替える。後悔は後でいい、今は逃げる敵を追いかけて、何故どこまで知っているかを吐かせなくては。

 そう思い顔を上げると、敵がいなくなったサクリファイスのアジトの入り口にバーンが立っていた。

「バーン、無事だったのか、今敵を追いかけて……」

 言いかけたところでバーンがゆっくりと双剣を抜いた。

「キリアリス、悪いがここは通さない」

 バーンの言葉に、信じられないものを見るようにキリアリスが呆然と立ち尽くす。

「何の冗談だ」

 言った内容を理解できず、キリアリスが首を振った。

「お前、何を隠してる。

 俺を救ったとき、村で何をしていた」

 その言葉はクラーキィの質問の続きだった。

「それ、は……」

 視界が歪む。それは自分が今まで必死に隠してきたことで、誰に知られたとしても、バーンにだけは知られてはいけなかったコト。

「俺にはまだ知る権利がないのか、キリアリス。

 ―――――答えろッ」

「―――――俺、は」

 バーンの気迫に満ちた問いに何か言おうとして口を開閉するが、言葉が出てこない。

 そんなキリアリスを見かね、バーンは背を向けると札のようなものを取り出した。

「答える気がないならいい。

 自分で探させてもらう」

 そのまま札を地面に貼ると、そこに広がった闇の中に飛び込むバーン。

「――――ぁ」

 力なく伸ばされたキリアリスの手が、バーンに届くことは無かった。

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