Phase4-3『路地裏の霹靂』
Phase4-3 23/7/17 投稿
Original perspective by Sei
ドドと名乗る青年に案内されるまま商店街の端の店へ。
「ここは……」
店の看板には『シルバーショップ・ドド』の文字。扉にはクローズの板が掛かっている。
どうやらさきほどの名前は聞き間違いではなかったようだ。俺たちは店内を通りそのままバックヤードへ。
「こっちだ」
テーブルの横のスペースに案内され、俺は監視役に目配せして車いすをその横につけてた。
「そちらの方も良ければ……」
そう言ってセイの隣に椅子を準備し、監視役をちらりと見る。
「この人は監視役だからこのままで多分大丈夫」
俺が言うと監視役は立ったまま軽く会釈をした。
「そうか」
青年は目を泳がせながら落ち着きなく俺の反対側に座る。
「改めて、私の名前はセルヴィス=ドド。
このシルバーショップのオーナーをしている。
君たちの名前を教えてもらえるか」
青年、セルヴィス。間違いない、師匠の言っていた息子だろう。よく見れば顔の端々に師匠の面影が見える。
「俺はセイ=ディリブ・フロクレス。
こっちはさっきも言ったがこの国での俺の監視役……らしい。俺も名前は知らないし名乗ってくれないから居ない扱いでいい」
少し拗ねながら監視役の顔を一瞥するものの、当の本人はどこ吹く風で微動だにせず姿勢よく立っている。
「監視……。
その辺りよくわからないが、聖域で会った覚えは無いからアルキリオから来たのは間違いない、よな」
どこまで踏み込むべきか考えあぐねているのだろう。俺と監視役を訝し気に見比べるセルヴィス。そして、その視線は俺の左手の小手に。
そのまま一度深呼吸すると、真っすぐにこちらを見ながら口を開いた。
「単刀直入に言います。
その小手を私に譲ってもらいたい。もちろん代金は払いますし、その小手と同等の品も準備します、どうか……」
深々と頭を下げながら頼み込んでくるセルヴィス。
「そういうことか」
いったい何を言われるのか……もしかしたら師匠のことを何か問い詰めたりしてくるのかと思ったが、見当外れだったようだ。
彼はこの小手を見て『父の形見』だと、すぐに判って、それを手元に置いておきたかった、ただそれだけなのだ。
なるほど、師匠の息子はとてもいい育ち方をしたようだ。
「順番に話をさせてくれ、俺は……」
俺は、ここに来る前、聖域で起こったこと、経験したことを話した。
英雄の事、ヴェルの事、その後の戦いの事、そして師匠を看取った事を全て。
「……その時師匠から譲り受けたものだから悪いけど渡せない、ごめん」
ものの数分程度だったが、あの時の記憶が蘇って胸が締め付けられるようだ。
「そんな事が……」
祈るように手を組みそこに額を乗せるセルヴィス。
「父は、あそこに全部あるからって、母さんがあそこに眠っているから自分もって最後まで聞く耳を持たなかった。本当に真面目で……馬鹿だ。
だから――――」
ぽた、ぽたと涙が零れ落ちる。
俯いている為表情は見えないが、その声からは深い悲しみが伝わってくる。
どのくらいそうしていただろうか。
『ただいまー』
玄関の方から明るい声が聞こえてきた。
セルヴィスははっと顔を上げると慌てて涙を拭いた。
「あぁ、もうそんな時間か。子供と妻が帰ってきたみたいだ」
セルヴィスが立ち上がってバックヤードから店側の方に視線を移し、つられて俺もそちらを見た。すると奥さんと思われる人物と、両脇に小さな男の子と女の子が一人ずつ。
「あら、あなた。そちらの二人は……」
「あー、おとうさんかおまっ赤だよー。
おさけのんでるのかなぁ」
奥さんが尋ねるのと同時に、子供二人がセルヴィスの両脇にしがみついてゆさゆさと揺らしている。
「えっと、紹介するよ。こちら妻のレイラと息子のハルタン、娘のネイナだ。
この人は聖域から来た……親父の知り合いと、その監視役らしい」
子供にしがみつかれながら困ったように眉を顰めるセルヴィス。
奥さんは今の説明でどこまで理解したのか。
「まぁまぁ、そうでしたか。
事情はおありでしょうがゆっくりしていってくださいね」
セルヴィスから引きはがした子供をあやしながらあたふたとするレイラさんを見て俺は監視役に目配せした。
「いや、邪魔したら悪いから俺たちはこのあたりでおいとまさせてもらう」
そう言うと監視役もさすがに理解したのか俺の車いすを机から離し、出口へと向けた。
「セイ。
今日は、ありがとう。親父の事、話してくれて嬉しかっ……たってのはすこし違うか。
知るべきことを知れて、一歩前に進めそうだ」
ここに来た時の落ち着きのない表情はどこへ行ったのか、晴れやかな笑顔で見送られる。
俺はひらひらと手を振りながら監視役に押されるまま店を後にした。
「なぁ、アンタ。本当に全然喋らねぇのな。
車椅子押してくれるのはありがたいんだけどさ、なんか言ってくれよ」
「―――――」
「……ま、いいけどさ。
とりあえず昼飯買い損ねたから銀を換金できるところよろしく」
はぁ、と大きなため息をついた。前途多難ではあるが、とりあえず道案内してくれる人がいるだけでもマシだろう。
そうして、進んでいると――――。
「おい、なんでこっちに……」
明らかな異変。商店街への大通りに行く直前、一本脇道に逸れた。慌てて監視役の方を振り返って見るものの、こちらを見ることも無くただひたすら人気のないところに向かっていく。
「forth to forth/hert to hert/electic to electic(力は力に、熱は熱に、弾雷は弾雷に)」
監視役の唐突な詠唱にざわ、と総毛立つ。
先ほど商店街で取り囲まれたときの恐怖を思い出し、魔術で痛みを消して慌てて立ち上がろうとしたが、時すでに遅し。
「―――――ッ」
瞬間、車いすに縫い付けるように肩を押さえられる。
―――――まずい。
マクラウドが手配した監視役がいるのなら監視対象の俺に危険があればさすがに守ってくれるのでは、と楽観視していたが……先ほどの商店街といいこいつは俺を守る気はない。
それどころかもしかしたら今から袋叩きに遭う可能性もある。
――――慌てて戦う方法を探す。裡に仕舞ってあるのはライター、アルタキエラ……は喪失して鞘だけ、辛うじてあるのは神父に渡されたナイフと、癇癪球が五つ、封石が二つ。
こうなったら一か八か封石を破裂させて……だが、よしんば逃げ切れたとして国から出るまで俺の魔力が持つとは思えない。
万事休すか、と、奥歯を噛んだ瞬間。
「久しぶりね、セイ。
相変わらず小難しい顔してるけど、大丈夫かしら」
聞き覚えのある声にはっと顔を上げる。
「メリッサ……」
そこには、服装と髪型こそ違うが、確かに俺の知っている少女がいた。
「何よ、幽霊でも見たような顔をして。
ま、私に見惚れるのは仕方ないって言えば仕方ないけどね」
ふふん、と、いつも通りの高飛車さで、髪をかき上げるメリッサ。
「なんで―――」
敵国のど真ん中に彼女がいるのか。
ぱくぱくと金魚のように口を開閉する俺にメリッサは呆れたように言い放つ。
「なんでって、アンタを迎えに来たに決まってるでしょ」
さも当然のことのように言ってのけ、彼女は破天荒に、にっと笑った。




